アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
アジア読書日記
タイ
だからタイはおもしろい
著者:高田 胤臣 


 ここのところ、ユダヤ史やらフリーマントルの小説やで、やや重たい読書が多かったこともあり、その合間に気楽に読み流すことができる本書を、それこそ速読した。2023年11月出版と、この国に関する随想としては相対的に新しいもので、著者は1977年生まれ。2002年にタイに来た後、日系企業勤め等を経て物書きになったということで、私も親しんだこの国の歴史や生活について、個人的な感想を中心に書き綴っている。

 内容的にはほとんど新しいものはない。「微笑みの国」の裏に隠されたこの国のしたたかさを示す、第二次大戦時の日本軍との協力や、戦後の連合軍への絶妙な寝返りというのはよく知られた話。外国人を歓迎する姿勢の背後にあるぶったくり精神。「親日的」と言われるが、それも自分たちにとって、特に経済的な利益をもたらす限りでの話で、最近は韓国や中国への接近の方が目立つというのも、よく言われる話。政治的には、選挙を行えば、人口の大部分を取り込んだタクシン派が勝つが、それを富裕層がクーデターで覆すことを繰り返しながらも、富裕層とその他に分れた社会階層の固定化と対立は全く解消することがない。それでも大多数の国民の生活はそれなりに回っていくのである。この本を読み始めた時の僅かな期待としては、こうした政治対立を収めてきたブミボン(ラーマ9世)逝去後、現在の国王(ワチラロンコーン、ラーマ10世)がどのように対応し、それがどう評価されているかについて最新の感触が分ればということがあったが、それにはほとんど触れられていない。同様に、「王室不敬罪」の是非についても、「タクシン派を中心にネットでは盛り上がっているが、それを富裕層が抑え込むことの繰り返し」とだけ報告されることになる。こうして、全編を通じてこの階層(「階級」とまでは言えない)の固定化は変わることはないという見通しが強調されているように思えるが、それは著者の生活圏である中間層から観た印象であろう。この辺りは、著者よりも長くこの国に住んでいる金融界勤務の友人の最新の話を改めて聴きたい気分である。

 ということで、ジムも閉まり、定例テニス・レッスンも休みで、やることのないお盆時期の暇潰し読書であった。

読了:2025年8月14日