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ビルマとミャンマーのあいだ
著者:瀬川 正仁 

 前著で、インドネシア東部の辺境ヌサトンガラ諸島の興味深い「バックパッカー旅行記」を描いた著者が、今度は現在ジャーナリズム的にも話題の多いミャンマー/ビルマの生の姿を届けてくれた。第二次大戦前後の日本との深い関係もあり、また仏教国でもあることから我々にとっては親近感のあるビルマであるが、現在マスメディアに出てくるミャンマーは、北朝鮮との関係や軍事政権によるアウンサンスーチーの自宅軟禁、そして最近時は2007年9月に発生した暴動の際の日本人ジャーナリスト射殺事件と、余りに暗いイメージだけが流布されている。確かに著者が訪ねて廻るミャンマーの多くの場所にはそうした閉鎖的な軍事政権の影が端々に影を落としている。しかし著者の真骨頂は、この国の60%を越えると言われる人口を持つ辺境少数民族の土地にまで足を延ばし、その歴史を踏まえながら、彼らの生活をルポしていることである。中央政府を牛耳るビルマ人との長い軋轢と抑圧の歴史を送ってきたカレン人やカチン人を始めとする少数民族。こうした辺境少数民族の過去と今を伝える著者の視点は歴史に厳しく、彼ら少数民族に暖かい。このルポを通じ、読者はこの国の複雑な成り立ちと現在を知ることが出来る。その意味で、これはマスメディアを通じた情報がそもそも少ないビルマ/ミャンマーという国と人々の過去と現在の生の姿を知るための絶好の案内書である。
(以上、アマゾン書評)

 映像ディレクターの同級生による二冊目の作品であるが、今回のテーマはビルマー/ミャンマーである。前回のヌサトゥンガラ紀行と同様、おそらく映画取材の仕事によって訪れることが多かったのであろうが、その訪問地域は海岸沿いの旧首都ヤンゴン(ラングーン)を皮切りに、中部の旧都マンダレーや「秘密の新首都」ネピドー、更には依然として内戦が続く東部カレン州など少数民族地域にも広がっている。もちろん、国内に点在する仏教寺院(パゴダ)を始めとする一般の観光資源についても語られているが、やはり圧巻は、例えば麻薬の生産に依存する(した)シャン州と中国人で賑わうその中国国境にあるマインラーやイラワジ川上流にあり淡水イルカが見られるカチン州といった、我々から見ればとんでもない辺境地域の紹介とそこで生きる人々についての暖かい視線であろう。もちろん、時として発される現代文明や現代日本への警告は余りに素朴であると批判することはできるが、しかし、それはこの本を読む時は封印しておいたほうがよい。そして世界の片隅で、ほとんど一般マスメディアからは一顧だにされないで生活し、時として中央権力と激しく戦っている人々の息吹を何も考えないで感じること。そうすることによって、現実生活のしがらみの薄暗さから解放され、ある種の想像の中での至福感をもたらしてくれる作品である。


読了:2007年12月25日