アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ドイツ読書日記
第九章 環境
序文
 
既に第二章で紹介したとおり、D.マ−シュは欧州周辺国がドイツを「環境帝国主義」と揶揄したことを伝えている。確かに私の滞在中にも、例えば食品分野で言えば、フランスの生チ−ズや日本製海産物が衛生上の懸念から、あるいは、英国での狂牛病発生時には、英国産牛肉のみならず、ゼラチンのような副製品に至るまで広範囲の輸入禁止等が実施されたことが記憶に残っている。あるいは環境汚染という点では、バ−デン・ビュルッテンブルグの黒い森における酸性雨の影響に敏感になり、フランクフルト郊外ヘキストの工業地帯で化学事故が発生すると、有毒ガスの子細な調査が行われる。そうした環境下、英国やフランスでは、グリンピ−スがやや過激であるために政治勢力としては少数派に留まっているのに対し、ドイツではエコロジスト政党たる緑の党が、70年代以降議会勢力としてしっかり根をおろしている。そして昨年、私の帰国後に行われた下院議員選挙では、社会民主党のシュレダ−政権が16年続いたキリスト教民主同盟政権にとって代わると共に、緑の党も連立パ−トナ−として初の政権参加を達成することになるのである。今回緑の党から外務大臣として閣僚に就任したJ.フィッシャ−は、第六章で紹介したとおり、フランクフルトの位置するヘッセン州の環境大臣として、つとに政治家として著名であった人物である。

このようにドイツにおける環境への過敏なまでの配慮は既に一般民衆の共有意識となっており、それは欧州諸国の中でも抜きん出たものであると言える。それはゲルマンの森に生きてきたドイツ人固有の環境への愛着と、あるテ−ゼが与えられると、とことんマニアックに突き詰める完全主義とが合体したものである、と言われている。

こうした「環境先進国」ドイツの環境対策の中でも、日本のマスコミ等でも頻繁に紹介されているのが、この国の原子力発電問題である。昨年の社会民主党/緑の党の連立政権成立時も最後まで調整が難航し、一時期は連立の崩壌さえもが噂されたのは、新規原発の開発停止のみならず、既往原発についても原則停止とし、その時期を明示するかどうか、という問題を巡ってであった。

こうしたドイツにおける環境問題、なかんずく原発問題の重要性を考え、ここではこの問題を、エコロジスト側から取り扱った広瀬隆のレポ−トをあえて独立した章として取り上げることにする。