ドイツ四季暦
著者:池内 紀
ドイツ文学者による、スケッチと共に語られる軽いエッセイである。かつての生活経験を思い浮かべながら、夜ベッドにつく前のナイトキャップという感じで気楽に読み進めることができる。ここでは印象に残ったテーマを抜書きしておく。
1828年、ニュールンベルグのウンシュリット広場に突然現れたカスパール・ハウザーと自称する少年。奇怪な銃撃事件に巻き込まれたことから、多くの「隠し子」説が流れたが、最後は1888年の冬、雪の中で傷つき、真相が分からないまま死んでいった。最期が暗殺か、狂言かも分かっていない、という。
南ドイツの温泉町、バート・タイナッハの教会にある「王女アントニアのカバラ的教示画」と呼ばれる祭壇画。ドイツ・バロック神秘主義の絵解きを楽しめる一つの例であるという。バーデン・バーデンとシュッツガルトの間、北シュヴァルツバルドにある小さな街に、こうした中世の遺産が残っているのも、いかにもドイツらしい。
ローテンベルグのいっき呑みやマチルダの丘のユーゲントシュティルは復習。「ドイツの裏切り者」マレーネ・デートリッヒ。「美しい脚や腰の持ち主には、おおむね欠けているもの、聡明な知性をそなえていた」と賞賛している。
フランクフルト近郊ロートハイムにある「エーリヒ・ケストナー学校」。そもそもは1927年、「Weltbuehne」(世界舞台)に参加していた左翼系自由主義者ケストナーが、主催者のエーディート・ヤコブゾーンから子供向けの作品を薦められたのが、「エミールと探偵」他の多くの子供向け作品を生み出すきっかけになったという。どこかで耳にしたことのあるこの作品がドイツ人作家のものであることを始めて知った。
温泉巡りは、バード・ホンブルグ、ビースバーデン、そしてバーデン・バーデン。ビースバーデンのクアハウスの「ドフトエフスキーの間」があるというのは知らなかった。
レニ・リーフェンシュタールを巡る随想。21歳の女優として社会に出た彼女の二つの挫折。捻挫によるダンス・バレーの禁止と警察高官により傷つけられた始めての性体験。アルノルト・フィンクの山岳映画の女優から監督へ。そしてヒトラーとの出会い。それ以降は既に知られた物語である。
読了:2000年12月14日