アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−)
Olivia Newton John  Live in Singapore                                                               
日付:2012年3月27日                                                                         会場:Esplanade Theatre 
 2012年春のシンガポールの外人ポピュラー・ロック音楽シーンは、昨年の同時期の、イーグルス、E.クラプトン、サンタナ3連荘のような大物のコンサートこそなかったものの、中堅どころのバンドやシンガーが連続して来星することになった。開催日の順で言うと、まず米国ゴシック・メタルのEvanescence(2/27)、米国で売出し中の若手フィリピン人女性歌手のCharice(3/5)、スウェーデンのナツメロ・デュオであるRoxette(3/6)、80年代の英国アイドル・ポップDuran Duran(3/10)等のチケットが年初同時に発売となり、どれに行こうか迷っている内に、あっという間に時間が過ぎてしまった。個人的にはEvanescenceが最も面白そうであったが、出張の可能性がある週の月曜日であったことから諦め、結局この一連のスケジュールの最後に設定されたオリヴィア・ニュートン・ジョンのコンサートに行くことにした。しかし、彼女については、若い頃にミーハー的に聴くことはあったが、その後は全く消息を聞かず、音源としても廉価版のベストと、ロンドン時代に買ったアナログの「Physical」しか持っていない歌手でもあることから、まあ安い席でいいや、ということで、S$300、S$225、S$175、S$125の内、最も安いチケットを購入した。当日行ってみると、席は何と会場であるエスプラネードの大ホールの最上階であり、この劇場が結構大きかったということを再認識することになった。

 経歴的には、彼女が人気のピークにあったのは、J.トラボルタと競演したミュージカル映画「Grease」(1978年)と、それまでの「ブリッ子」的雰囲気を一変させた「Physical」(1981年)の時期で、ある意味では、その後はその遺産で食ってきたのだろう、というのが正直な印象であった。ところが、昨年久しぶりに日本公演を行い、その際日本のテレビ番組に同じく歌手の道を進んでいる娘と一緒に出演しているのを目にすることになった。母親になった「ブリッ子」歌手が、同じ歌手の道を選んだ娘のサポートをするということで、直ちに松田聖子を連想したが、テレビでちらっと見たオリヴィアには、年相応の落ち着きと、それにも関わらず残っている清々しさが感じられた。聖子同様、サポートしている娘のほうは、いかにもぱっとしない感じではあったが、母親の方は、ピークを過ぎた後、色々なことがあったのだろうが、それなりに充実した歌手人生を歩んできたことが感じられた。そんなこともあり、今回久々に懐かしい昔の曲を楽しみに彼女のコンサートに出かけて行ったのである。 

 最上階ではあるがど真ん中の席から見下ろすステージのセッティングは、いたってシンプルである。ステージに向かって左がキーボード、その対称の位置にドラム。そして後方左右にギターとベース、中央部にコーラス用と思われるマイクが3本セットされている。8時3分、まずこの位置にサポートバンドのメンバーがつき、オープニングのイントロが演奏されると、ステージ右奥の通路からオリヴィアが登場する。オリヴィアは、グレーの細身のタイツ風スラックスに同系色のシャツとレザージャケットというシックな衣装であるが、ジャケットに控えめに付いているスパンコールが照明を反射し、なかなかの雰囲気である。63歳という年齢を感じさせないスタイルと柔らかなブロンドの髪の毛は、依然健在である。

 当日の曲目は、私が分かった範囲では以下の通りである。

@ Pearls On A Chain (Grace & Gratitude, 2006)
A Have you Ever Been Mellow(Have you Ever Been Mellow, 1975)
B A Little More Love (Totally Hot, 1978)
C Unknown
D Xanadu(Xanadu, 1980)
E Magic(Xanadu, 1980)
F Suddenly(Xanadu, 1980)

(Country Medley)
G If Not For You ( ? )
H Let Me Be There (Let Me Be There, 1973)
I Please Mr. Please (Have you Ever Been Mellow, 1975 ) 
J If You Love Me (Let Me Know) (If You Love Me, Let Me Know, 1974)
K Jolene (?)
L Country Road(?)

M Physical(Physical, 1981)
N Not Gonna Give In To It (GAIA, 1994)
O Grace & Gratitude (Grace & Gratitude, 2006)
P Don’t Stop Believing(Don’t Stop Believing, 1976)
Q Oldies Medley ― Daydream Believer, Sugar Sugar, I Think I Love You(?)

(Grease Medley)
R You're the One That I Want(Grease, 1978)
S Hopelessly Devoted To You(Grease, 1978)
21 Summer Nights(Grease, 1978)

(アンコール)
22 I Honestly Love You(If You Love Me, Let Me Know, 1974)

 オープニングの美しいバラードは私の知らない曲(その後、2006年の「ヒーリング」アルバムからの曲であることが判明)であったが、既に聴きなれたオリヴィアのあの甘ったるい声は全開である。中央の3つのマイクのうち、一番右側は、フルート奏者(そしてその後、彼は、コーラスに加えハーモニカやサックスなども演奏するマルチ・プレーヤーであることが分かった)、残りの二つは男性と女性のコーラスである。続いて初期のヒット曲であるAに移るが、これは私がまだ大学生であった頃のものである。ややアップテンポでロック調のBが終わったところでオリヴィアの最初のMCが入る。「この美しい町に帰ってこられてとっても嬉しいわ!」と愛嬌を振り撒きながら、「最初のレコーディングから40年になるけど、それを今晩は披露するわ」ということで、私の知らないCの静かなバラードが、ハーモニカの間奏を挟み歌われる。そして「オージーの人はいるの?もちろん他の人たちも大歓迎よ!ジーン・ケリーと共演した映画からの曲よ」と紹介されたのが1998年の大ヒットであるD。この映画音楽は、当時オリヴィアとやや肌合いの違うElectric Light Orchestraが共演したことで話題になったが、他方半ば引退状態にあったジーン・ケリーとの共演は、むしろ「人気のピークにあったオリヴィアと、どん底状態にあったG.ケリーの共演」とおちょくられたようである。

 同じサウンド・トラック・アルバムからの、ミディアム・テンポでサックスの間奏が入るEが終わったところで、オリヴィアはジャケットを脱ぎ、シャツとスラックスになり、一段とそのスタイルの良さが明らかになる。そこでコーラスの男性とのデュオで、やはりこのアルバムからのスローなバラードであるFが歌われる。因みに、この曲のオリジナルは、デビュー直後から彼女を支えたクリフ・リチャードとのデュオである。

 「みんなは、カントリーソングは好き?実は私の初期のキャリアはボブ・ディランの曲などのカントリーソングから始まったの」というMCで、ギターとベースが2本のアコースティック・ギターに持ち替え、オリヴィアを中心にフロントに置かれた3つの椅子に集まる。まずは3人とドラムで、まさにそのディランのカバー曲である初期のヒット曲Gが演奏される。レコーディングではG.ハリソンが演奏したと言われているスライドギターのフレーズがアコースティックで演奏されたのが印象的であった。続いてコーラスの二人とマルチ・プレーヤーも入りHIJと聴き慣れた曲が続く。Hでは、低音の男性コーラスがスタジオ録音と同様に被さり、つい笑ってしまう。Kは、カントリーの大御所D.パートンのカバーで、日本でも(日本のみで?)シングル・ヒットした曲であるが、「ジョリーン、ジョリーン」という高音部の声をなかなか頑張って出していた。そしてカントリー・メドレーの最後は、「大好きなジョン・デンバーの曲よ。皆も歌って!」ということで、Lのコーラスを会場からの歌と合わせてスタートする。まあ、軽いキャンプ・ファイアーでの乗り、という感じのアコースティック・セッションであった。

 再び、メンバーが夫々のポジションに戻り、サックスによるジャズ風のイントロがスローに演奏される。歌が始まると、何とそれは「Physical」である。気だるい歌と演奏が1フレーズ続いたところで、オリヴィアが、突然「待って!」と演奏を止める。「皆、オリジナルで聴きたい?」会場の拍手と共に、一転ダンス・ビートで同じ曲が再開される。昔懐かしいショート・カットにレオタード姿の映像を思い出させる大ヒットであるが、現在のオリヴィアも、それほど激しいものではないが、頑張ってステージ狭しと動き回り、ギターもハードなサビを入れている。個人的にも、廉価版でこのアルバムを買ったロンドン時代を懐かしく思い出す一曲であった。

 「実は私は乳癌を宣告されたことがあるの。そしてオーストラリアの自分の農場に引きこもって悶々とした日々を過ごしていた時に、ある夜中この曲想が頭をよぎったの。そして今私は癌を克服して、健康になっているわ」というMCと共に披露された自作曲であるラテン・リズムのN、「数年前のアルバムのタイトルトラック」と紹介されたピアノとのデュオのOと、私の知らない曲が続く。Pで再び耳慣れた昔のヒット曲に戻る。

 「私は新しい映画に出ているの。もうすぐシンガポールでも公開されると思うけど、何とそこで私は新郎の母親をやっているの。現実にはそんなことはないのだけどね。そしてその映画で、昔の曲をダンス・ビートでやろうということになったの。」ということで始まったイントロは、そのままモンキーズの「Daydream Believer」、アーチーズの「Sugar Sugar」、そしてデヴッド・キャシディの「I Think I Love You」というオールディーズ3曲のダンス・メドレーとなる。因みにこの映画は「A Few Best Man (2011)」というそうである。

 これが終了すると、今度はミュージカル映画「グリース」からのメドレーである。まずは、男性コーラスとのデュオで代表曲のQ、続いてキーボードの伴奏でスローバラードのR、そして最後に男二人、女二人が対になった掛け合いが楽しいアップテンポのSへと続き大団円を迎えるのである。言うまでもなく、Q、Sのオリジナルは、J.トラボルタとのデュオである。こうして大いに盛り上がったところで、メインのプログラムが終了する。一旦引っ込んだメンバーが再びステージに戻ると、オリヴィアが「私の大切な曲です。歌う度に、新しい発見がある曲です」と紹介し、この有名なバラードがアンコールとして歌われるのである。総てが終了したのは9時45分。約1時間40分のステージであった。

 この日のコンサートは、若い頃「ブリッコ」として登場したこの歌手も、この年まで現役で頑張れたのは、それなりの実力を持っていたからであるということを感じさせられた。その透明感ある歌声は、年齢を重ねた私のような世代にはむしろ心地良く、しかも、この日は遠目ではあったが、その可憐さの片鱗も十分に残したおとなの歌手のコンサートとなったのである。後日、当地の一般紙(The Straits Times、3月29日)のレビューでは、「Grease(1978年) の少女は、この日、上品かつセクシーに踊り、そして時折観客からプレゼントを受け取ると女学生のようにスキップして喜んでいた。彼女の透明感あるメローな声は健在で、主として中高年の男性観客を喜ばせると共に、女性客の憧れも誘っていた」と好意的なコメントを掲載している。記事によると、彼女は、乳癌以外にも、最初の夫(XanaduのダンサーであったMatt Lanttanzi)との離婚、彼との間の一人娘Chole(現在26歳)の拒食症、更にはその後の男友達の突然の失踪といった苦難をなめてきたということである。しかし、彼女は、かつての全盛時代に獲得したグラミー賞やエミー賞に加え、最近でもオーストラリアの「National Living Treasure」にも指名されているとのことである。その彼女の2007年以来2度目のシンガポールでのコンサートについて、同じ新聞評は、「ジョン・トラボルタと彼のクリームで固めた髪形を見られなかったことを除けば、あとは素晴らしいコンサートであった。アンコールの “I Honestly Love You”の後で会場はスタンディング・オベーションで答えたが、オリヴィアは間違いなく観衆がこう呟くのを聞いただろう。Oh, Sandy !(Greaseでのオリヴィアの名前)」と結んでいる。個人的にも、この日の彼女のコンサートは、私的な出来事から色々な思いを抱いたこの3月を、一瞬忘れさせてくれる癒しを与えてくれたのであった。

2012年3月30日 記