アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−)
Musical - JERSEY BOYS
日付:2013年1月19日                                                  会場:Sands Theatre 
 2013年最初の音楽体験は、マリーナ・ベイ・サンズ劇場で昨年12月末から今月1月末までの1ヶ月のみ公演が行われている、フォー・シーズンズを素材にしたミュージカルである。

 フォー・シーズンズは60年代初期に結成され、半ばに人気のピークを迎えた米国のコーラス・バンドであり、60年代最後の時期から私が欧米ポップ音楽を聴き始めた頃もまだ時々「December, 1963 (Oh, What a Night)」等のヒットを放っていた。その頃、既にグループのリード・ボーカルであったフランキー・バリの人気が抜きんでていたことから、彼のソロ・プロジェクトのようになっていたが、彼のハイトーンボイスに重厚なコーラスを重視した彼らの音楽性は、言うまでもなく当時の「ソフト・ロック」を代表したママス・アンド・パパス、アソシエーション、あるいはビーチ・ボーイズ等にも影響を及ぼしたと思われる。そして60年代後半に彼らの路線を直接受け継いだのはレターメンで、個人的にも、彼らが取り上げた「Can’t Take My Eyes Off You / Going Out Of My Head」で、前者のオリジナルを歌ったフランキー・バリの存在を意識したことを、今でも鮮明に記憶している。ただフォー・シーズンズ自体は同時代的に聴きこんだことはなく、あくまで他の60年代のポップ音楽と同様に、その後少しずつ遡って知ることになったのであった。

 そのフォー・シーズンズの成功とその後の顛末をミュージカル仕立てにしたのがこの作品で、メンバーでこの作品にも登場するBob Gaudioが音楽を担当している。この2006年のトニー賞で「ベスト・ミュージカル賞」を受賞するなど、ブロードウエイでそこそこ成功した作品を、いつものように海外用に演出したものが今回のシンガポール公演である。

 午後8時ちょっと過ぎに、彼らの70年代再編時のヒットである「December, 1963 (Oh, What a Night)」をラップ風にアレンジした曲に乗った歌とダンスで舞台の幕が上がる。セットは螺旋階段が付いた高い位置の通路が背後に置かれているだけの簡単なもので、後はステージで小物が少しずつ入れ換わっていくだけである。後方高い場所にスクリーンが3つセットされており、それに60年代のシンボルである米国漫画のイラストや当時の映像などが時々投射させている。1962年のバンド結成時の経緯がまず語られる。16歳のブルーカラーの不良少年であったフランキー(Frankie Valli)がトミー(Tommy DeVito)に誘われ、The Four Loversという彼のバンドに参加する。小さなクラブでの歌と演奏に加え、フランキーの恋人との出会い等が演じられていくが、当初は結構セリフが多く、ストーリー自体は簡単であるので十分追いかけられるが、欧米人には笑いを誘うような場面では、時々ついていけなくなる。オリジナル・メンバーであるベースのニック(Nick Massi)に加え、別のバンドで、キーボードとボーカル、そして作曲も行っていたやや内気な青年ボブ(Bob Gaudio)が加わり4人となった彼らは、ある敏腕プロデューサー(Gyp de Carlo)と出会うことでメジャーへのデビューが決まる。偶々彼らが見かけた「The Four Seasons」というクラブの看板から、彼らの新しいバンドの名前が決まる。

 ここからは、彼らの初期のヒットのオンパレードである。「Sherry」、「Big Girls Don’t Cry」、「Walk Like a Man」というデビュー後連続でチャートの1位となった3曲が披露され、彼らはスターダムにのし上がっていくのである。前半は、これがハイライトとなり、その後女性3人組(The Angels)のコーラス等も交えながら8時20分に終了する。

 約20分の休憩後始まった第二部は、グループの崩壊から始まる。そもそものグループの立上げからリーダーシップを取っていたギターのトミーがグループ脱退を申し出ている。彼が去ると、今度はベースのニックも、ツアーに疲れ、家族と共に居たいということで離れていく。またフランキーは、個人生活でも留守が続く妻との間の関係が冷え込むと共に、娘の家出に遭遇し次第に落ち込んでいく。それでも新しいメンバーを補充し、グループ活動を続けるが、そこに今度は家出した22歳の娘の死亡という悲報が飛び込んでくる。悲しみの中でフランキーは「Bye Bye Baby」を歌うが、この曲が、実際にもこの体験の中から生まれたものなのかはまだ確認ができない。そして悲しみを乗り越えたフランキーが、キーボード担当のボブのアドバイスでブラスを入れたアレンジをソロで歌う「Can’t Take My Eyes Off You」が後半のハイライトである。そして最後は1990年、オリジナルの「The Four Seasons」がロック殿堂入りし、メンバー4人が再会して「December, 1963 (Oh, What a Night)」を歌いながら幕切れを迎えることになる。終了は10時40分。

 シンガポールでのミュージカル公演は、短期公演であることから、全般的にセッティングは単調である。しかし、それでも「Cats」や「Lion King」のように、衣装に加え、歌とダンスで見せるミュージカルは、それなりに楽しめる。また「Chicago」や「Wicked」のように、ストーリー中心の作品も、それなりに派手な衣装やダンスで見せ場を作っていた。それに対して今回の「Jersey Boys」は、1ヶ月のみの公演ということもあり、舞台装置と衣装はシンプル、ダンスはほとんどなし、ということで、今まで当地で見たミュージカルの中ではやや見劣りし、S$164のチケットは少々高くついたかな、というのが正直なところであった。フランキー・バリ役を始め、オリジナル・メンバーと同じように歌える俳優を集め、「The Four Seasons」の歌を再現するという点では、メンバー全員頑張っていたが、彼らにセリフも演じさせ、このバンドが辿った盛衰を表現しようとすると、そこまでこのバンドの盛衰が「ドラマチック」ではないことから、ストーリーが単調になり、ダンスや舞台装置を欠いているとやや退屈することになってしまったのである。それを考えると、やはりこのミュージカルは「The Four Seasons」を同時代的に体験した世代が、自分たちの青春時代を懐かしみながら楽しむミュージカルであったのではないかと感じたのであった。

2013年1月26日 記