アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−)
Retrolicious Reunion! Belinda Carlisle/Rick Astley/Bananarama
日付:2013年10月19日                                                         会場:Fort Canning Park 
 ここのところ毎年開催されている、当地での洋楽ナツメロ・ライブである。今年の出演は、Bananarama、Rick Astley、Belinda Carlisle の3組。この内、Belinda Carlisle (以下「ベリンダ」)は、私が80-90年代に完全に嵌まり、多くのCDを聴きまくった他、後年発売された映像も時々眺めるなど、以前から何とかライブを見たいと思っていたシンガーであった。バブル期の90年代初めに一回来日コンサートの情報があったが、その頃はまだ彼女を聴き始めたばかりであったため、参加する決断ができなかった。そしてソロCDとしては1996年の「A Man and a Woman」、そして2001年には、出身母体である Go Go’s を再結成し、CDとライブ映像を出したのを最後に、それからは彼女の動静を聴くことがなくなってしまった。

 しかし、ここシンガポールに来てから、毎年行われているこのナツメロ・ライブで時々彼女が来ているということが分かった。他のメンバーが面白くなかったり、スケジュールが合わなかったり、また一回は最後まで悩んでいたらコンサートの一週間前になってコンサート自体がキャンセルされたりと、なかなか行く機会が持てなかったが、今年はついにチケット発売と同時にアーリーバードの割引で立ち見券S$109.25を購入した。会場は Whitesnake と同じ、自宅から至近距離にある Fort Canning Park でのオープン・エアー。当日は、日中は激しい雨が降ったが、Whitesnake の時と同様、夕方までにはあがり、それでもやや蒸し暑い気候の中、早めの夕食を済ませ、開始直前に会場に到着。Whitesnake の時とは異なり、既に会場は人で一杯であったが、ステージを右前方に眺められる芝生の斜面にシートを引き、落ち着くことにした。8時過ぎに、シンガポールのDJ男女4人が紹介され、簡単なフェスト紹介のMCがあった後、コンサートが始まる。私の関心はベリンダなので、彼女が何番目に登場するかが気になっていたが、いきなり彼女のステージから開始されたのであった。

(Belinda Carlisle:8:10-8:50)

 ベリンダは1958年8月生まれの55歳。元々は大学のチェア・リーダーであったようであるが、1978年に Go Go’s を結成。女性ロック・バンドとしては初の全米No1を記録するが1985年に解散。その後ソロに転向し、2作目の Heaven on Earth が大ヒットし、スターダムにのし上がることになる。私は、確か1990年頃のロンドン出張の際に、かつてロンドン時代に頻繁に訪れていたトッテナム・コート・ロードにあったVirginショップで、他の何枚かと共に、彼女のソロ3作目の Runaway Horses を購入。直ちにはまり、その後の新作や、それまでは関心のなかったGo Go’sの旧作なども揃えていった記憶がある。2001年にGo Go’s再結成した後は、ベリンダは英国やフランスに移住し、2007年には全曲フランス語の新作を発表したりしているが、現在は主たる活動は、こうしたネツメロ・フェス参加が中心のようである。2010年には同様の企画で来日もしている。

 聴きこんできた歌手であるために、曲は全て特定でき、また歌詞も大まかに記憶に残っているので、いきなり大いに盛り上がってしまった。当日は40分、以下の8曲のステージであった。

@ Runaway Horses (Runaway Horses, 1989)
A (We Want) The Something (Runaway Horses, 1989)
B I Get Weak (Heaven on Earth, 1987)
C Circle In The Sand (Heaven on Earth, 1987)
D La Luna (Runaway Horses, 1989)
E Summer Rain (Runaway Horses, 1989)
F Leave A Light On (Runaway Horses, 1989)
G Heaven on Earth (Heaven on Earth, 1987)

 全てソロの第2作と3作という、最もヒットした作品からの曲であった。個人的には4作目の Live Your Life Be Free も結構気に入っているのであるが、恐らくこの頃はもう人気ということでは旬を過ぎていたのであろう。まさに私が最初にはまったこの2作で、その後もメシを喰ってきたという感じである。映像としては、この第2作と第3作のツアー(1988−89年頃)と、Go Go’s 再結成時のライブ(2001年)を、この公演前にもう一度見ることになったが、この内の最も新しい映像でも、今から10年以上前であることから、髪の毛を後ろで結び、黒のスパッツとブラウスで登場したベリンダは、それと比べ正直老けたなという感慨は禁じえない。しかしそれでも声は往年の時代と比較しても遜色なく、ややかすれたビブラートやこぶしはまさにベリンダそのものである。バックバンドは、ギターがエレキとアコースティック、ベース、キーボード、ドラムに、女性コーラス一人という編成。特に私の最も気に入っているDEFでは、まさにバブルの日本で彼女にはまっていた時期に思いを馳せながら、歌い踊りまくってしまったのであった。Fの、オリジナルではG.ハリスンが弾いていたスライド・ギターのサビも、やや白髪がかった老年のしかし、テクニックはG.ハリソンよりもありそうなギタリストが、オリジナルと同じ感じで披露していた。そしてやはり締めは、彼女をスターダムに引き上げたG。確かに彼女はこの曲でここまで生きてきた、といっても過言ではない。しかし、彼女の作品は結構聴きこんできただけに、40分、8曲というのはやはりやや欲求不満が残ったのも確かであった。代表曲は聴けたが、他にももっと良い曲もある。同時代に聴いた訳ではないが、Go Go’s時代の曲も、シンプルなロックン・ロールとして、今聴いても心地良い。その意味で、個人的には、是非ソロのコンサートを改めてもう一度経験したいと痛感したのであった。しかし、現在の彼女に、そこまでの聴衆の動員力があるかは、甚だ疑問ではあるが・・。

(Rick Astley:9:00-9:50)

 10分程のブレークで登場したのは、Rick Astley(以下「リック」)。1966年2月生まれ、47歳のイギリス人。Never Gonna Give You Up と Together Forever が続けてヒットしてスターダムにのし上がったのが1987年ということであるので、丁度私のロンドン時代の最後の時期に当たる。確かに、この2曲は、当時やたらにかかっていたのを記憶しているが、全く自分の関心の対象外であったので、それ以上の注意は払わなかった。ただ当時「ソウルフル」と評された彼の歌声は、現在も衰えておらず、力強い安定した歌を聴かせた。ただ、この日も直ぐに飽きてしまい、むしろスローバラードのEでの、コーラスの黒人女性のソロに感動したりしていたのである。やはり8曲、50分のステージであった。コンサート後ユーチューブを見ていると、彼の「The Retro Festival 2013」という映像が投稿されていた。おそらく当日とほとんど同じプログラムになっているのではないかとは思うが、通して最後まで見る気にはならなかった。

@ Together Forever
A Let You Go (Unknown)
B Dance With Me
C Hold Me In Your Arms
D Unknown (アップテンポ 、Temptationsのカバーという紹介)
E Unknown (スローバラード。後半は女性コーラスのソロ)
F (Unknown) Lucky
G Never Gonna Give You Up

(Bananarama:10:05-10:45)

 最後は Bananarama である。もともとは3人組のアイドル・グループとして1983年にデビューしたが、1988年に一人が脱退、一時的に補充をするが、それもすぐ抜けたことから、その後は Keren Woodward (52歳)と Sara Dallin (51歳)の二人で活動を続けてきた。其々異性のパートナーがいて、子供も既に大きくなっていることは、後ほど簡単に紹介する、当地の新聞でのインタビュー記事のとおりである。

 当時からややテクノかかった演奏で、Shocking Blue の Venus のカバーなどで人気を博していたが、私は全く聴いていなかったグループである。それでも、シンプルなコーラスであることから、こうして歳をとってから聴いてみると結構心地良い。前半の4曲は記憶にない曲であったが、後半の4曲は、カバーの2曲を除いても確かにロンドン時代によく耳にした曲であり、この日の最後ということもあり聴衆が盛り上がる中、私も、やや疲れた体に鞭打ちながらノリまくったのであった。

@ Unknown
A Unknown
B I Want You Back
C Unknown ( ギタリストが歯で弾くソロを披露)
D I Heard The Rumor
E Venus
F Love In The First Degree
G Na Na Hey Hey (Kiss Him Goodbye)

 フェスティバル前の当地新聞に掲載された Bananarama のインタビュー記事概要は、以下のとおりである。因みに彼女たちは昨年(2012年)9月にもF1レースに併せて開催されたコンサートに出演するため来星している。

(2013年10月14日付 The Straits Times)

 「英国のデュオは相変わらずロックしているが、聴衆は彼女たちの80年代の曲を聴きたがっているのは分かっている」と題された記事は、現在も活動する二人のメンバーの内の Keren Woodward (以下「カレン」)への電話インタビューである。彼女は加齢につれて、声が低くなっているので、かつての曲はキーを下げて歌っているという。彼女たちはこの9月にも新しいEPをリリースしているが、シンガポールのファンは彼女たちの80年代のヒット曲を期待しているので、これらの新曲は封印する。

 しかし、この「レトロ・フェスト」のショウに参加する聴衆は昔のファンだけではなく、若者、あるいはティーンエイジャーさえもいる。何故この時代が今の若者も惹きつけるのか?という質問に対し、カレンは「それはおそらく80年代がとても個人が輝いていた楽しい時代だったから。90年代のイギリスは、もっと暗く、面白くなくなってしまった。皆冷めてしまっていたのよ」とコメントしている。カレンの26歳の息子は、モデルの David-Scott Evans の元恋人だったが、彼も80年代の雰囲気を楽しんでいるという。「彼が大学生の時は、80年代のファッションやダンスを楽しむパーティーの常連だったのよ」というカレンは、90年代以降、Wham! の片割れである Andrew Ridgeley と生活を共にしている。そして彼女の息子の友人は、彼の母親が Bananarama のメンバーであったことを知っているという。「ある時そうした80年代パーティーで酒に酔って裸で踊っていた時に、彼は誰かに、赤いペンキで背中に『お前の母親は Bananarama 』と書かれたのよ。」

 記事では、1979年の結成から、最初の4枚のアルバムの商業的な成功、1988年のメンバーの脱退等、Bananarama の活動を簡単にレビューした後、彼女たちの今後の2年のスケジュールが、11枚目のアルバムの録音や米国ツアーなどでまだまだ多忙であることを伝えている。カレンは言う。「私たちが最初にスタートした時は、この活動も25歳までと思っていた。そして恐らくあなた達も30歳までは延長してもいいと考えたのではない?その後は、もう考えたことがないわ。」

 そうベリンダやリックも含め、彼らはまだまだ現役なのである。しかし、彼らが今後80年代のようなヒットを生み出すことはなかなか考え難い。その意味では、やはり彼らは80年代の「一発屋」で、その後は、それで飯を食っている。しかし、聴く側にとっては、彼らの楽曲はまさに其々の時代に刻印された忘れ難い記憶なのである。それは私が時々友人と開催している60年代音楽を懐かしむ会と同様、その世界に帰っていくと何とも心が安らぐタイムマシーンなのである。

2013年10月26日 記

(追記)

 別掲のルネサンス東京ライブCDと同様、シンガポール再赴任前に調達したのが、ベリンダの「Live from Metropolis Studios」なるDVD/CD2枚組の作品である。

 ルネサンスのライブが13年以上前のものであるのに対し、この映像が収録されたのは2012年5月。彼女のシンガポール・ライブが上記のとおり、昨年(2013年)10月であるので、この音源/映像は、まさに最近私が接した彼女の今を伝えていると言える。

 上記のレビューのとおり、40分8曲という、ライブで私が感じた不満が、この作品で満たされることになった。ここには、この8曲に加えて、最近のフランス語CDからの作品やシングル曲を含めた計18曲が収録されている。そしてシンガポール・ライブではやや遠目でしか見られなかった彼女の最近の姿も十分に味わうことができる。おそらく、ここ数年、こうしたやや小規模なフル・コンサートや私が参加したレトロ・フェスなどで、彼女はまた活動を再開していたということなのだろう。

 もちろん、50代半ばのアメリカ人ということで、容姿の衰えは隠せないものの、それでもルネサンスのAnnie Haslamに比較すれば、もともとアイドル系の彼女のかつての華やかさの片りんは残している。他方、Annieのボーカルが最盛期の艶やかさを維持しているのに対し、ハスキーで当時から「うまい」とは言えなかったベリンダの歌は、時々音を外すなど、衰えが隠せない。しかし、やはり上記の代表曲8曲だけでなく、今回収録されている全てが、やはりベリンダの声でないとダメなのである。シンガポールに残してきた彼女の全盛期のCDと映像を、もう一度見たい衝動に襲われている。

2014年6月7日 記