アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−)
Belinda Carlisle-Runaway Horses 30th Anniversary Tour Singapore
日付:2019年4月6日                                                                      会場:The Star Theatre 
 ベリンダ・カーライルのシンガポール公演である。

 彼女のライブは、2013年10月に、ナツメロ・フェスティバルでのオープン・エアー・ライブを見ているが、この時は40分8曲のステージで、もちろんそれらの曲は、彼女の代表作ばかりであったことから、それなりに盛り上がったものの、やはり時間の短さ故に、物足りなさが残ることになった。それに対し、今回は、私が彼女に傾倒するきっかけになった1989年の「Runaway Horses」の30周年記念ライブということで、この時には披露されなかった曲を含め、アルバム全作品を歌うというふれこみである。彼女の経歴や私の関わり方は、2013年のコンサート評でコメントしたので、ここでは繰り返さないが、彼女は1958年8月生まれ、現在60歳をちょっと越えたところである。私とそれほど年齢の変わらない彼女の現在はどうなっているのだろうか?

 まず、コンサートの一週間前に、現在はバンコクに住んでいる彼女に電話インタビューした記事が、当地新聞に掲載されたので、それをまず見ておこう。

(3月28日付:The Straits Times)

 「Ready to sing your heart out?」と題された記事では、ポップチャートの常連であったベリンダが、多くのヒット曲を生み出した「Runaway Horses」の30周年記念でシンガポールに戻ってくることを伝えている。

 そのインタビューで、現在のヒット曲について問われたこの60歳の歌手は、「今のヒット曲には関心がないの。私の息子が、これが今のヒット曲だよ、と聴かせてくれるけれど、今の若者に受ける曲は、私は好きではないわ」と答えている。彼女は、映画プロデューサーのMorgan Mason(63歳)と結婚し、27歳の息子がいる。「Lady GagaやJustine Bieberの幾つかの作品は良いけど、今の音楽はあまりに特殊で、私の趣味ではないわ。」彼女の曲は、何代かの世代に受け入れられ、「ティーンエイジャーの女の子でも歌える曲」になっている。彼女のファン層は年齢が上になっているけれど、その子供や、またその子供に受け入れられている。

 来るコンサートでは、彼女は「Runaway Horses」からのすべての曲に加え、その他のヒットやGo-Go’s時代の曲も披露する予定である。「Runaway Horsesは私の最も好きな作品で、特にSummer Rainをライブで歌うのを楽しみにしているわ。それは世界中で、国家のように歌われているから。」

 彼女は2017年にも同じ会場で、1987年の「Heaven On Earth」の30周年ライブを開催し、このアルバムからのヒット曲を歌っている。

 彼女の音楽歴は1977年、ロスアンジェルスのパンクバンドのはしりであったthe Germsのドラマーとして始まった。その後、ガールズ・バンドのGo-Go’sに移り、1981年の「Beauty And The Beat」が、ビルボード・チャートの一位となり注目された。自作のヒット曲を生み出したこのバンドはその後も何回か再結成されている。彼女たちの作品は、昨年にはブロードウェイ・ミュージカルの「Head Over Heels」を生み出し、また彼女たちを扱ったドキュメンタリーが、ケーブル・ネットの「Showtime」で放映される予定である。

 こうした動きについて彼女はたいへん誇りに思っているが、他方でそれは’過去のことである。彼女は現在、活動家としても忙しく、インドでAnimal People Allianceという団体を立ち上げ、多感な若者や女性たちと野良の動物たちの面倒を見ている。また新しい作品も半分ほど出来上がっているという。彼女の最新作は、2017年発表の第8作目に当たる「Wilder Shores」だが、その中ではKundaliniというヨガの口上(マントラ)を現代ポップ音楽とミックスしている。「これは選ばれた聴衆のための精神的な音楽だけど、それでもポップな作品です」と彼女は言う。「この作品は私の活動から生まれたもので、もう一回作ろうとは思わない。でも私はこの作品が大好きで、何よりも一つずつ計画を達成するのは楽しいことよ。」

 こうして、週末の夕刻、会場であるThe Star Theatreに向かった。現在の勤務先至近の会場であるが、この日は週末でもあり自宅からの出発である。劇場下のレストランで夕食を済ませ、午後8時の開演直前に席につく。S$132の席は、1階後ろのブロック、ステージに向かい右側。会場は満席ということではないが、思ったよりも埋まっている。そしてどちらかと言うと欧米系が中心かと思っていたが、意外と地元が多いという感じである。日本ではもう忘れ去られているような彼女が、当地では依然それなりの人気を維持していることが感じられる。開演時間から20分遅れ、会場が暗転し、この日のライブが始まる。

 このシンガポール公演に先立つ2月19日から3月11日まで、ベリンダは、パース、シドニー、メルボルン等オーストラリア各地で12回のライブを行っている(その前は、昨年11月にロンドンを始め、英国各地を回っているが、この時のセット・リストは、今回とはやや異なっている)。その内、3月9日のブリスベーンでのライブのセット・リスト等がネットで公表されているが、この日のライブは、アンコールで歌われたGo-Go’sの一曲を除きこれと同じ内容であった。

(演奏曲)

1. Runaway Horses
2. (We Want) The Same Thing
3. Whatever It Takes
4. I Get Weak
5. Circle in the Sand
6. Deep Deep Ocean
7. Vision of You
8. La Luna
9. Mad About You
10. Valentine
11. Summer Rain
12. Leave a Light On

(Encore)

13. Live Your Life Be Free
14. We Got The Beat  (The Go‐Go’s song)
15. Heaven Is a Place on Earth

(Encore 2)

16. Shades of Michaelangelo

 「Runaway Horses」の30周年記念ライブ ということで、オープニングはこのアルバムのタイトル曲。バンドは、ステージに向かい左からベース、少し奥にキーボード、ドラム、そしてギターの男性4人のみのシンプルな構成。彼女のライブ映像は、1988年の「Good Heavens! Tour」、日時不詳の「Runaway Live」、そして年代を経て2012年のロンドン公演「Live from Metropolis Studios」の3枚(そして2001年のGo-Go’sによるNYセントラル・パークでの再結成ライブ)が手元にあり、今回はこれらをさっと見た上でライブに向かったが、3枚のソロ公演では、夫々1人乃至は二人の女性バックコーラスが入っている他、ギターが2人いたり、チェロが入ったりと、それなりにサポートが充実していた。しかし、この日はバックコーラスもない、男性4人だけである。一瞬、やや不安に感じたが、それはコンサートの進行と共に吹き飛ぶことになった。

 薄いピンクの丸首シャツに灰色のスラックスという地味な衣装、そして遠めであるので定かではないが、恐らくは幾つかの映像でもそうであったような裸足で登場したベリンダは、最初から十分な声量で、私の不安を掻き消してくれた。決して昔から音程がしっかりしている訳ではなく、特に2012年のロンドンライブでは、バックコーラスのサポートで何とか持ちこたえているという感じであった。しかしそれから更に7年が過ぎ、60歳を越えた彼女が、以前よりもしっかりしたボーカルで、バックのエレキ・サウンドに負けない歌を聴かせてくれたのである。2曲目、3曲目(「スタジオでは、Bryan Adamsが一緒に歌ってくれたけど、今日は残念ながら彼はいないわ」とのコメント!)も「Runaway Horses」からのアップテンポの曲であるが、全く不安はない。双方とも、印象的なサビで盛り上がる楽曲である。4、5、は「Heaven on Earth」からのヒット曲。また「Runaway Horses」に戻り、6、7、8。特に6、はサビの「If you keep holdin’ back emotion, one of us might drown in this DEEP DEP OCEAN」というくだりで、いつも感情を擽られる名曲である。また8、は、スタジオ録音や、その他のライブ映像はアコギでのサポートであるが、この日はエレキのまま演奏された。変化が少ないと言えばそのとおりであるが、エレキによるこのスローバラードも中々良かった。

 ソロ・デビュー・アルバム冒頭の定番9、に続き、メイン・ステージの最後は、「Runaway Horses」からの3曲。名曲Summer Rain、そして私が彼女の全作品で最も愛しているLeave a Light Onで盛り上がったところで、いったん彼女たちはステージから下がる。この時点で丁度1時間の9時20分。直ぐにアンコールで登場し、まずはソロ4作目のタイトル曲、そしてGo-Go’sの14。直前のメルボルン公演は、これがOur Lips Are Sealedであったが、この日はWe Got The Beatであった。そしてアンコールの最後は、彼女がソロになってからの最初の大ヒットであるHeaven Is a Place on Earth。この3曲で会場は、再び大いに盛り上がり、2回目のアンコールで、「Runaway Horses」の最後に収録されており、この日このアルバムで唯一残されていた「Shades of Michaelangelo」がしっとりと歌われ、この日のライブが終了した。まさに「Runaway Horses」30周年ライブらしいエンディングであった。終了時間は9時40分。1時間20分、休憩なしのライブであった。

 ベリンダの同年代の米国女性歌手と言うことで、すぐ思いつくのはマドンナであるが、今回ネットをチェックしてみたところ、二人は全く同じ1958年8月生まれであった。マドンナも言うまでもなく数々の浮沈を乗り越え、60歳の現在まで現役を続けているが、ショウのスタイルはベリンダとは異なる派手な演出で、音楽的にもテクノ系に傾倒したりと、その時々の時流に合わせて変化してきている。しかし、ベリンダの場合は、最近の作品はあまり陽の目を見ておらず、そのため全盛期の作品で生きてきたということもあるのだろうが、一貫してロックンロール少女としてシンプルなステージで勝負している。この日は、女性歌手で多く見られ、彼女の過去の幾つかのライブでもあったように、途中で何度か衣装を変える、ということもなく、結局最後まで、登場した時の、薄いピンクの丸首シャツと灰色のスラックスで通していた。やはり彼女の全盛期の3作、「Heaven on Earth」、「Runaway Horses」、「Live your Life be free」は、一曲たりとも捨て曲がない、たいへんな秀作で、それ故に楽曲だけで十分聴かせることができる。それに加え、繰り返しになるが、加齢を重ねながらも、バックのエレキバンドに負けない歌唱力を依然維持していることも、バックコーラスのサポートがなくとも十分聴かせることができるという、成熟した彼女なりの自信であったのだろう。冒頭に紹介した新聞記事で、彼女が現在バンコクに住んでいるということを初めて知ったが、そうした環境故に、豪州や東南アジアのツアーはやり易いのだろう。次は、「Live your Life be free」の30周年ツアー(2021年?)ということになるのかもしれないが、その時、私は再びこの地で彼女のライブに参加することができるのだろうか?是非そうしたい、という気持ちを抱かせた、この日のライブであった。

2019年4月7日 記

(追記)

コンサート後の週末、彼女に関連するYouTubeを見ていたところ、2017年3月5日の東京国際フォーラムでのライブがアップロードされていた。「日本では忘れられた」と書いたが、まだ日本でも忘れられている訳ではないようである。但し、このライブは7曲、28分39秒の短いものであるので、2013年10月の、ナツメロ・フェスティバルのような感じの(恐らく他の歌手も入った)コンサートであったのではないだろうか。

このライブは、今回と全く同じ男性4人のバンドのサポートのみで行われていることから、今回のライブではメンバーの紹介はなかったので定かではないが、この時と同じメンバーである可能性が高い。その意味では、ここ数年の彼女の定番のサポートであったようである。

2019年4月8日 追記