アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第六部:日本編(2020年−)
S.Hackett Genesis Revisited Japan tour 2025
日付:2025年7月5日                                       会場:EX THEATER ROPPOGI 
 「ソロ・デビュー50周年記念 アニバーサリー特別公演」と題したライブで、Genesisの「The Lamb Lies Down On Broadway」と「Foxtrot」のハイライトを中心に、彼のソロも交えたものとの謳い文句である。Steve Hackett(以下「スティーブ」)を観るのは個人的には初めて。言うまでもなく、Genesisのオリジナル・メンバーであるが、1976年発表の「A Trick Of The Tail」を最後に1977年脱退。それ以降フリーになり、一時期はYESのSteve HoweとのツインギターによるGTRを結成したりしたが、ほとんどはソロ活動で現在まで来ている。

 Genesisについては、私は日本にいた時期は関心を持ちながらも、音源は持っておらず、1982年、ロンドンで初めて彼らのライブに接することになる。そしてそれから遡ってほとんどのアナログLPを仕入れ、そして1988年、スーパースターとなっていた彼らのライブにウェンブレー・スタジアムで参加したことは、「ロンドン音楽日記」や「東京音楽日記(第2編)・フィル・コリンズ・ライブ」(別掲)に記載した通りである。しかし、スティーブは、この1982年の時点ではGenesisから脱退していたことから、彼のライブには今まで参加する機会がないままであった。また彼の在籍時のGenesisのアルバム全てや、ソロアルバムも何枚か保有しているが、ほとんどがアナログLPであることから、最近は全く聴く機会がないままであった。唯一直ぐ取り出せたのが、2020年に東京に戻ってからアナログ盤と重ねて購入した1977年録音の、スティーブ在籍Genesis最後のライブである「Seconds Out」のCDと、スティーブの1996年の東京公演のライブである「The Tokyo Tapes」(CD)と「Steve Hackett & Friends / Live in Japan」(DVD)という全く同じ音源のCDとDVDで、前者は、P.Gabrielを除くオリジナル・メンバーにChester ThompsonとBill Brufordの二人のドラムを加えたメンバー(因みに、これはロンドンで私が初めて購入したGenesisのアナログ盤であったと記憶している)、後者は、スティーブを中心に、John Wetton(ベース)、Ian McDonald(サックス/フルート等)、Chester Thompson(ドラム)、Julian Colbeck(キーボード)という強力な布陣で、Genesisやスティーブのソロ作品のみならず、King Crimson、ASIAの代表曲なども取り上げており、聴きごたえのあるものになっている。ただ、そのメンバーでは、John WettonとIan McDonaldが既に故人となっているのは寂しい限りである。それに加え、スティーブが抜けた後の1978年のGenesis米国ライブの海賊版CDなどで復習を行った上で、当日の公演に出かけて行った。当日のパンフレットによると、彼は現在75歳で、昨年30作目のソロ作品をリリースしたそうであるが、流石にそれは聴く気にはならない。また日本公演は10回目とのことで、それだけ日本ではコアのファンを持っているということであろう。会場は六本木にあるEXシアターで、2023年12月に、Carl ParmerによるEL&P再現ツアーで行っている。今回の席も、その時と同様の2階席であるが、位置はステージ略正面である。

 今回のメンバーは、スティーブ以外は、以下の通りであるが、若い無名のメンバーが中心(とはいっても、スティーブの年齢を考えると、皆相応の歳であろうが・・)のようである。因みにスペシャル・ゲスト扱いのAmanda Lehmann(以降「アマンダ」)はスティーブの義妹で、「15年振りの登場」ということであるが、スティーブに弟がいて、彼女はその妻ということであろうか?

Roger King ( Keyboards & Musical Director )
Craig Blundell ( Drums & Percussion )
Rob Townsend ( Sax, Flute, Keyboards )
Jonas Reingold ( Bass, Guitars )
Nad Sylvan ( Vocal )
Amanda Lehmann ( Guitars& Vocals )

 開演予定の午後5時丁度、メンバー7人がステージに現れる。配置は、ステージに向かって左から、サックス/フルート/キーボード、スティーブ、アマンダ、ベース、後方高くなった場所の左にキーボード、右にドラム、そしてその間スティーブの斜め後ろにボーカルという布陣である。まずは、「Solo Songs」と題された第一部が始まる。当日の演奏曲は、開演直前に、同行の友人からこの直前の大阪公演のセット・リストがネットに掲載されていることを教えてもらったが、それによると以下の通りである。

(Set 1: Solo songs)

1. People of the Smoke
2. Circo Inferno
3. These Passing Clouds
4. The Devil's Cathedral
5. Every Day
6. A Tower Struck Down
7. Bass Solo
8. Camino Royale
9. Shadow of the Hierophant (With lead vocal by Amanda Lehmann)

(Set 2: Lamb Selection and more)

10. The Lamb Lies Down on Broadway
11. Fly on a Windshield
12. Broadway Melody of 1974
13. Hairless Heart
14. Carpet Crawlers
15. The Chamber of 32 Doors
16. Lilywhite Lilith
17. The Lamia
18. it
19. Supper's Ready

(Encore)

20. Firth of Fifth
21. Los Endos / Slogans / Los Endos

 彼のソロ作品は前述のとおり、保有している作品もほとんどきちんと聴いていないので、オープニングから曲自体は全く初めて聴くものばかりである。ただ演奏はしっかりしており、ボーカルは、フロント3人がコーラスで歌い、それにスティーブのギター・ソロや左の男のアルト/テナーサックスやフルートが挿入されるという構成である。紅一点のアマンダが、その長いブロンド髪と皮パンの好スタイルで目立っている。2曲終わったところで、スティーブによる簡単な日本語挨拶を含めたMCが入り、続けて3曲目のインストルメンタル。その後アマンダが一旦引っ込んで、パイプオルガン風の重厚なイントロで始まる4から、またアマンダが戻り、スティーブと印象的なツインギターのユニゾンを聴かせる5等。ベース・ソロを挟み、この第一部では唯一、前述の「The Tokyo Tapes」等に収められている8へ。これはスティーブがソロ・ボーカルを取るが、「The Tokyo Tapes」と同様、彼のボーカルは今一つである。そして第一部最後のスロー・バラードではアマンダがリード・ボーカルを取るが、これがなかなか心地良い出来栄えであった。この曲の後半で、きれいなアコースティック・ギターのアルペジオが奏でられたが、この時スティーブもアマンダもギターからは手が離れていたので、これは誰が弾いていたのだろうという疑問を持ったが、その後のブレークの際、キーボード奏者である友人から、「これもシンセサイザーで出せるのだ」と教えてもらった。便利な時代になったものである。こうして大いに盛り上がった第一部が丁度1時間で終わり、アナウンス通りの25分の休憩の後、第二部が始まる。

 いきなり10のキーボードによるイントロが始まり、ボーカルが入る。前半のソロ部分では、キーボードは余り目立っておらず、ボーカルも、フロントのコーラスに時折参加する程度であったが、やはりGenesisの曲ではこの2人の存在が必須である。キーボードもオリジナルのP.Banksのフレージングをきちんと演奏していて心地良い。続けて11,12、13へ移行するが、この「The Lamb Lies Down On Broadway」からの曲は、私はこのアルバムのアナログ版しか持っていないことから、あまり記憶にない曲である。第一部で大活躍していたサックス等の奏者はやや退屈な感じであるが、それでも時折オリジナルではなかった(P.Gabriealは、時折フルートは吹いたが、サックスは出来ず、彼の脱退後のGenesisも管楽器の奏者はいなかった)と思われる、スティーブのソロにアルト・サックスによるユニゾンを被せたりしている。久々に代表曲で、スーパースターとなったGenesis時代にも好んで演奏された14でも、静かではあるが印象的なキーボードが大活躍である。ボーカルは、例えばYESのケースと同様、オリジナル・ボーカリストである、P.GabrielやP.Collinsと比較してしまい、10や14などの知っている曲では、そこからの違和感はどうしても残るが、それでももちろん歌唱力はしっかりしている。15から18も、「The Lamb Lies Down On Broadway」からであるが、私の記憶には残っていないし、その後のGenesisでも取り上げられることのなかった作品群であった。

 そしてスティーブによる、「大昔1972年の曲だ」というMCで、この日の目玉である「Foxtrot」からの19が始まる。

 このアナログ盤一面を使った20分の作品(Genesisでは、長い歴史の中で、この曲だけだったと思う)は、P.Gabriel時代のライブ・アナログ盤に加え、前述の「Second Out」にも収録されているので、今回は結構聴き込んで出かけて行った。そのせいか、ライブで初めて聴くこの曲のギター・イントロが始まった時は、全身に戦慄が走るほどの感動であった。静かなイントロから次第に盛り上がり、途中からはボーカルとキーボードが中心の演奏になり、スティーブのギターは時々飾りで挿入される程度になる。第一部では、スティーブとキーボードの間にセットされたマイクで時折参加する程度であったボーカル男も、ここでは、キーボードとドラムの間にセットされた中央階段の上方で、スポットライトを浴びながら歌う等、存在感を示すことになる。半世紀前に演奏されていたこの曲が、今、ある意味ほとんど同じ形で、ライブで演奏されているというのはとても感慨深い。途中のキーボードの挿入なども、事前に聴いた印象とほとんど同じである。中間の静寂を経て、後半リズムが変わりながら、終盤の長いキーボード・ソロに移行し、最後のボーカルに被さるスティーブのギター・ソロで終わることになる。素晴らしい出来栄えの一曲であった。

 満場の拍手の中、いったんステージから下がった彼らは直ちに戻り、アンコールの20が始まる。これも後期Genesisを含め、スティーブのソロ・ライブなどでも頻繁に取り上げられている名曲である。オリジナルやスティーブのライブCDなどでは、途中のテーマがフルートで演奏されているが、この日は、敢えて、ということであろうが、アルト・サックスでの演奏であったのが、やや違った印象をもたらすことになった。そしてそこからすべての楽器が勝手気ままに交錯する現代音楽風の中間部を経て、スティーブのギター・ソロに移る。このギター・ソロのテーマはこの曲の最も印象的なパートである。後期Genesisでは、Daryl Stuermerが高速フレージングを披露しているが、スティーブのソロは、あくまで抑制的で、オリジナルに忠実である。そしてドラム・ソロから、これまたGenesisのエンディングでの定番の21へ。ここに至るドラム・ソロは、まさに私が1982年のライブで観た時は、C.ThompsonとP.Collinsのダブル・ドラム合戦であったり、その前の「Second Out」ではそれにB.Brufordも加わるという豪華なものであったが、この日は一人のドラマー単独であった。しかし、それまでの演奏で、特に第一部のソロでは複雑な変則ビートを正確に叩いていたこのドラマーも素晴らしいソロを聴かせた。そして21に移るのであるが、ここで第二部では一切出ていなかったアマンダも登場し、スティーブとツイン・リードのユニゾンで盛り上げることになる。こうして全ての演奏が終了したのは午後8時丁度。合計2時間半の圧倒的なステージであった。

 スティーブのギターは、速弾きなどのテクニックは今一であるが、原曲で見せたフレージングをこの日も正確に、そして時折はライブならではの力強さで演奏していた。その意味での彼のギター・スタイルは、CamelのA.LatimourやPink FroydのD.Gilmourに近いのだろう。こうしたスタイルを持った息の長いギタリストを多く生んできたという英国のロック文化には改めて敬服する。そしてスティーブについては、まさにオリジナルGenesisが、P.Collinsの老化等により、ほとんど活動再開が望めない中、75歳という年齢にも関わらず、こうして若い卓越したミュージシャンを集め、そのGenesisを今現在に蘇らせているのには感服させられる。実際この日の会場で私は、1988年のウエンブレー以来観たことのなかったGenesisそのもののライブを聴いている様な錯覚まで抱いていたのである。日本大好きなスティーブが、まだこれから先、再び戻ってきて、こうした感動を与えてくれることを期待できたこの日のライブであった。













2005年7月6日 記