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アジア映画
宝島
監督:大友啓史 


 先日、ドイツ勤務時代の同僚数人と小規模な夕食会を持った際、参加者の一人が最近観た日本映画で印象に残った2作を話題に挙げた。一方の「ベートーベン捏造」は「ドイツ絡み」と言えなくないが、もう一つの「宝島」は、戦後の沖縄が舞台で、あまりドイツとは関係がない。しかし、偶々公開中の映画館が近所で、時間も都合がついたことから、すっかり秋めいた小雨が時折ちらつく気候の中、映画館に足を運んだ。監督は大友啓史。第160回直木賞を受賞した真藤順丈の小説の映画化ということである。

 戦後の米軍統治下の沖縄で、米軍基地に不法侵入し、物資を盗んでは困窮する庶民に配る活動を行っている若者集団(ネット解説では、こうした集団を「戦果アギヤー」と言うらしい)がいた。彼らは、グスク(妻夫木聡)、レイ(窪田政孝)、そして彼らのリーダーで、レイの兄であるオン(永山瑛太)、さらにレイの恋人ヤマコ(広瀬すず)たち。話は1952年の沖縄で彼らが物資を持ち帰ろうとする時に、米軍に見つかり銃撃され、命からがら逃げ帰るところから始まる。この襲撃で、オンは「必ず戻る」と言い残して行方を断つことになる。こうして数年後、刑事となったグスク、チンピラやくざとなったレイ、そして学校教師となったヤマコは、それぞれの立場でオンを探しながら、彼の帰還を待ちわびることになる。

 まずは戦後沖縄での米軍関係者の勝手な振る舞いとそれに対する住民の不満が克明に描かれることになる。刑事となったグスクは、米兵による女性強姦や殺人、あるいは交通事故が、すべて米軍によりもみ消されていくことに不満を募らせる。教師となったヤマコの学校には米軍機が墜落し、多くの子供たちが犠牲になっている。そしてある時、グスクに、米軍の情報将校が接触する。彼もまたグスクが探しているオンを追っており、グスクから情報を得ようと接近してきたのである。米軍との距離感に悩みながらも、グスクも一時的には協力するが、その後米軍のしぶりにうんざりし袂を分かつことになる。

 本土への返還運動も次第に盛り上がり、ヤマコもそれに積極的に参加している。親米と反米を巡るやくざの抗争も繰り広げられ、レイはそれに参戦している。またグスクは別の米軍情報関係者に拘束・拷問されオンの所在を問い詰められるが、もちろん彼もオンの所在は知らない。そしてある時ヤマコと親しくなった孤児ウタが登場するが、後年彼が物語展開の大きな鍵を握ることになる。

 そして1969年、「佐藤―ニクソン共同声明」で、1972年の沖縄本土復帰が発表されるが、米軍基地を残した返還には多くの反対の声が上がるが、一方それにより失業する基地労働者は早期返還に反対するなど、日本人の間でも賛否が分かれている。そして、米軍に対する庶民の怒りは、米兵によるある交通事故をきっかけに、車をひっくり返したり火をつけたりする大暴動に発展するが、これは、1970年12月のコザ暴動という実際にあった事件であろう。そしてそうした中で、オンが再び現れ、米軍基地に侵入する。彼が手にしていたのはVXガスの缶。実は彼が基地内で失踪した際に見つけたのは、米軍が保管していたこの毒ガスであり、彼はこれを使い米軍に報復する計画を練っていたのである。オンの再登場に喜ぶグスクやヤマコ。しかし、彼の計画には賛同できず、米軍情報将校も参戦する中、彼らをとりなし、何とかオンを連れ帰るグスク。しかし、その際撃たれた成長したウタ(栄莉弥)は海岸で命を落とすのである。そのウタは、オンらが米軍に追われた際に、偶々基地内で米軍関係者の子供を出産し死んだ女の子供で、オンが助けてその後育てたということが明らかにされている。

 沖縄の戦後史を辿りながら、失踪したオンを探すグスクやヤマコの葛藤や悲しみ、そして最後は失踪していたオンの計画とそれの結末をスリリングに描き切っている。グスクを演じた妻夫木は、そうした男の葛藤を巧みに表現し、先日の「国宝」での吉沢亮や横浜流星などのそれと比べても遜色のない演技である。また広瀬すずも、私は今まで彼女の演技は全く観たこともなく、ただの可愛い子ちゃん女優かな、と思っていたが、米軍機墜落で子供たちが犠牲になる場面などのシリアスな演技には説得力があった。ただこうした清純派が、無頼漢であるオンの帰りをずっと待つ、というのはやや無理のある設定かなとも感じてしまう。実際、このオンを演じた永山瑛太が、ここまで崩れたメイクと演技ができるというのも、驚きであった。

 家族が頻繁に遊びに行っている沖縄であるが、依然米軍基地とそこでの関係者の行動は、間欠的に議論となっていることは言うまでもない。自然に恵まれた沖縄が、今後こうした問題にどのように対応していくかについては、引続き目が離せない。

 なお、3時間を超える作品で、傷ついたウタを抱えてオン、グスク、ヤマコが海岸に戻ってきたところで、私はトイレが我慢できず、数分席を立ってしまった。そのため、戻ってきた時に、ウタの葬儀を終えたグスクが海岸でオンの幻影を眺める場面が描かれていたが、オンがその後どうなったのか、分からないままである。どなたか、このオンの顛末を教えて下さい。

鑑賞日:2025年10月15日