アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
映画日誌
その他
第三の男
監督:キャロル・リード 
 足元、特段観たい映画が途絶えている中、映画好きの友人からふと薦められた、この古い映画を観ることになった。もちろん有名な映画であり、どこかで(恐らくTV等で)観たことがあるのではないかと思うが、全編をきちんと観るのは初めてである。1949年制作、グレアム・グリーンの原作脚本(後に小説も出版されたそうである)、キャロル・リード監督の英国映画で、当時のカンヌ映画祭でグランプリを獲得、日本では1952年に公開されているとのことである。

 第二次大戦直後、まだ英米仏ソの分割統治下にあるウィーンを、旧友ハリー・ライムズ(オーソン・ウェールズ)に会うために訪れた米国人作家ホリー・マーティンス(ジョセフ・コットン)は、そのハリーが数日前に交通事故で死んだと知らされる。それに不審を抱いたハリーは、その事故の目撃者らの話を聞きながら、真相を究明しようとするが、そこで、現場に正体不明の「第三の男」がいたことを突き止める。そして、ハリーの恋人であった女優アンナ・シュミット(アリダ・バリ)や英国占領軍警察のキャロウェイ少佐(トレヴァー・ハワード)と接触する中で、実はハリーが生きていたことを突き止め、彼と再会するが・・。映画は、ウィーンの地下下水道での追跡劇で大団円を迎えることになる。

 第二次大戦終了直後の混乱期ウィーンを舞台にした友情と裏切りの物語であるが、もちろんその白黒映像を含め、その古さはいかんともしがたい。借りてきたDVDでは、英語部分の日本語字幕設定はできるが、現地の人々が離すドイツ語には字幕が出ず、アンナによる通訳で、ドイツ語が分からないハリーに伝えられ、それで観客もその会話の中身を知ることになる。しかし、アンナは常に正確に全てを翻訳している訳ではなく、それも二人の心理の綾を表現しているのであるが、もともとのドイツ語(ウィーン訛り?)も聴きづらく、ややじれったい。しかし、混乱期を生きる人々の苦難や悲哀に、4か国による分割統治による警察権の制約やアンナのパスポート偽造なども織り込みながら、事件の真相を徐々に明らかにしていくという「ミステリー」仕立ての作り方は、現在見ても十分楽しめる。有名な観覧車でのシーンでは、「なるほどこういう設定で使われたのか」と再認識することになったり、全編を貫く、アントン・カラスによるツィターの有名な演奏も、改めて映画の場面と結びつけることができた。また、私が物心ついてからは、その老年の写真でしか記憶にない、若きオーソン・ウェールズの「快演」も印象的であった。

 その意味では、時間の余裕ができた現在、こうした古い映画を観ていくのも時間潰しのネタにはなるが、古い書物に取り組むのと同様、ある意味際限のない世界なので、あまり踏み込むのもやや躊躇される。実際こうした古い映画のネットに入ると、それなりに面白そうな「古典」作品も多く紹介されているが、それらとどう付き合っていくかは、ゆっくり考えることにしよう。

鑑賞日:2021年7月11日