サンショウウオの四十九日
著者:朝比奈 秋
第171回芥川賞受賞作2作の内の1作。正直、摩訶不思議でほとんど理解できない作品であった。
冒頭、二人の女性が、自分の父親の不思議な生い立ちについて語るところから小説が始まる。それによると、彼女たちの父親は、胎児内胎児で、二人の伯父が生まれた後、その伯父の体内で別に成長し、1か月後に生まれた生い立ちがあるという。しかも、そこではもう一人生まれる可能性もあったが、3人目はいつの間にか消滅したという。
これだけでも、何だ、という感じであるが、続けて、それまで二人の姉妹だと思われていた杏と瞬という二人が、実は「全てがくっついて生れ落ちて、そして今もくっついている結合双生児」であることが明らかにされる。腰がくっついているベトちゃんとドクちゃんのことは知っていたが、身体的には全てがくっついていて、しかし意識は二人である「結合双生児」とはいったい何?そして、その後は、胎児内胎児の父親を産んだ伯父の葬儀から49日の納骨に至る経緯を中心に、時として幼い日々の回想も交えながら、杏と瞬の意識が交錯しながら語られていくことになるのである。語っているのは、ある時は杏であり、ある時は瞬で、気がつかない間に語り手が変わることになる。
背景は親戚の葬儀から納骨という、ありふれた日常の話であるが、語り手が「身体は一体であるが、意識は二人」ということで、身体と意識の関係が大きな主題になる。新聞の書評では、「自他の境界線の曖昧さ」という、「現代的な問いかけを、うまく描き切った秀作である」といったコメントも見られたが、個人的には全く面白くない作品であった。実際に、胎児内胎児とか、結合双生児とかが実際に存在するのかは知らないが、それが存在しないとすれば、そうした架空の状況を想像しながらの「身体と意識の関係」を描いたことだけが取り柄の作品ということなのだろう。別のもう一作に期待。
読了:2024年9月1日