アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
アジア読書日記
序文
序文
 
 今回のHP改定にあたって、既往の「ドイツ読書日誌」の対をなすコラムとして新たに追加したのが、この「アジア読書日誌」である。言うまでもなく、ドイツからの報告の中心の一つであった読書に、現在の私の生活の場であるアジア物を加えていこうという構想である。

 アジア関係の書物は、従来は時折中国関係の著作に触れてきた程度で、東南アジア関係の書物は、今回の勤務の話が出てから、それこそ初めて泥縄的に読み始めたといっても過言ではない。従って、学生時代から長く接してきたドイツや欧州世界に比較して、アジア、特に東南アジアに関する私の現在の知識は、まだほとんど素人レベルである。更に、実際赴任が決まってから、東南アジア関係の著作を意識的に探してみても、ドイツや欧州物に比べると、出版量も限られているというのが第一印象である。

 そうした中から、まずは生活の場であるシンガポール関係の著作から始め、周辺の東南アジア諸国関係に少しずつ広げてきたが、カバーしている範囲はまだ極めて限定的である。その意味でここでの記載は、ゼロから東南アジアを学ぼうとしている私の現在の姿そのものである。

 他方で中国関係は、昨今の経済ブームもあり、対照的に相当量の著作が出版されている。また数千年に及ぶ歴史過程で蓄積された古典から、激動の19−20世紀の中国の現代史にかかわる著作も数多く、その中には学生時代に読んだものも多い。そして最新情勢を見る時も、日本にとってのみならず、東南アジアにとっても中国の存在は極めて重たい。中国の政治的な重要性は言うまでもないが、経済面でも昨年からの危機が、特に政府の経済刺激策に触発された中国国内市場の相対的回復を受けて、東南アジア経済も、日本よりも早く回復軌道に乗ってきたこと、またその結果例えばシンガポール政府も、リー・クアンユー上級相を始めとする政府要人が頻繁に中国を訪れ、関係強化を狙っていることからも、それは明らかである。シンガポールにとっては、もはやアジア諸国の中では、かつて直接投資の恩恵を受けた日本よりも、中国の方が重要な存在になっており、それは他の東南アジア諸国も程度の差こそあれ同様であると思われる。

 しかし、私が東南アジアを見ていく上では、中国は直接の主題ではない。従って、今後も中国関係は時折取り上げるにしても、あくまで関連情報という観点での掲載と考えて頂きたいし、また中国近代に係る多くの作品は、あえてここで掲載することはしないつもりである。

 中国以上に、グローバルな観点でも注目されており、また現在の私の業務上の担当地域にもなっているのがインドである。中国以上に、極端な貧困と大財閥企業や高度な数学知識に支えられたIT産業という両極端が併存するインドは、まさにこれから更なる発展が期待されると共に、他方でそれが一筋縄では行われないであろうという複雑性・不確実性を秘めた不思議な国家である。これまでの私の人生で、ほとんど関心を払ってこなかったインドについては、これもほとんどゼロからの出発になるが、今後是非積極的にカバーを広げていきたいと考えている。

2009年9月