ご褒美人生マレーシア
著者:阪本 恭彦
マレーシアでの長期滞在ビザを取得し、サラリーマン引退後の余生をクアラルンプールで過ごしている著者が、長期滞在ビザの取得から始まり、そこでの生活、そして人生最後に必要な介護から葬儀までのノウハウを紹介した本である。
この「マレーシア・マイ・セカンド・ホーム・プログラム(MM2H)」と呼ばれる10年間の滞在ビザは、例えば私のような50歳を超えた外国人の場合は、申請時に35万リンギ(約875万円)の本国の銀行の残高証明、及び1万リンギ(約25万円)/月以上の海外での収入証明、そしてビザ取得時に15万リンギ(約375万円)のマレーシアの銀行の定期預金を設定することで取得可能である。ビザ取得により、住居不動産の購入や、日本で乗っていた車の関税なしの輸入又はマレーシアでの新車購入が無税で可能、あるいはメイド1名のビザ発給も可能といった優遇措置が付与される。年金に対する税金も、日本では課税対象であるが、マレーシアでは免除される。
こうしたメリットから、最近私の知合いにも、これを取得し、マレーシアへ移住する人が出始めており、かく言う私も、このビザについては大きな関心を持っている、というのは以前から周囲に公言してきたとおりである。しかし、もちろんこうした行動は、家族の賛同なく出来るものではない。そんなことも考え、今回の家族のシンガポール訪問時に日本からこの本を持ってきてもらい、その後の東マレーシアはコタキナバルでの短い休暇中に読み始め、帰りの機内で読了したのである。著者は、住友商事の常務を勤めた後、ケーブルTV会社の立上げを行い、1990年に引退。65歳であった2000年にこのMM2Hビザを取得し、クアラルンプールに移住している。住友商事時代、海外駐在としてはクアラルンプール、シンガポール、ロンドン、フランクフルトにいたとのことであるが、この履歴はクアラルンプールを除くと、順序は違うものの、私の海外駐在地と全く同じである。そんなことから来る親近感も抱きながら、東マレーシアでの休暇中に軽く読み流したのであった。
しかし内容的には、MM2Hビザについての実務情報を除くと、あとは一般的なマレーシアでの生活ノウハウ本である。著者は、自分がマレーシア移住を決めた理由について、気候の良さ、安い生活費、英語の流通度、そして治安の良さなどを挙げているが、最後の治安のように、シンガポールから見るとややどうかな、という部分もある。食生活については、確かにローカル向けの庶民的な店も紹介しているが、取り立てて面白そうな情報はない。住居に関しては、クアラルンプールでは、MM2Hビザの代行業者が借りているコンドミニアムの期間貸しサービスがあるというのは有用な情報であるが、例えばシンガポールに近いジャホール・バルを含め、その他の地域ではどうなっているのかは分からない。その他、クアラルンプールに長期滞在する場合は、居住地域についての情報も多少役に立つかもしれないが、それ以外の、生活情報は、日本クラブでの活動を含め、海外生活初心者向けのごく一般的なものである。
交通事故や家の賃貸に関るマレーシアの法律事情なども、あまり特記すべきことはないが、唯一、介護と葬儀についての説明は面白い。メイドによる介護に加え、現地の老人ホーム、更には著者が進めている日本人向けの高齢者集合住宅プロジェクトなども紹介されている。極め付きは「ここから天国へ」と題された葬儀と墓地のノウハウ。日本でのコストを極小化するため、日本の不動産なども全て処分した上で移住することを薦めている著者は、この地で人生を終え、そしてここの墓に入ることを考えている。ここまで来ると、さすがの私も、「まだそこまでは割り切れない」と感じてしまうくらいである。
こうして今回の休暇中、家族にもこの本を見せながら、自分たちの老後の過ごし方を相談することになった。結論的には、さすがに著者のように退路を立ってマレーシアに移住するというところまでは、私自身も含め思い切ることは難しい、ということになった。ただ、日本の気候の悪い冬などに数ヶ月に渡って東南アジアに滞在するというのは、十分考えられる。その際に、このMM2Hビザを有していれば、それなりに役に立つのではないかという気がする。そんなことを考えながら、また近いうちにプライベートでクアラルンプールを訪れる機会があるので、その時にでも、その地の友人にこれに関連した話しをいろいろ聞いてみたいと思ったのであった。
読了:2012年9月5日