アジア・ドイツ読書日誌と
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東南アジアを知るための50章
編著者:今井昭夫他 
 「・・・を知るための・・章」シリーズの一冊。つい先月初めに「ASEAN」についての同シリーズを読んだところで、それとほぼ重なる本書を読む価値があるかな、という思いを持ちつつ読み始めた。実際、冒頭の地理・歴史や政治・経済・国際関係等は、ほとんど重複が多く、今までも関連著作に接してきたことから、ほとんど読み飛ばしていた。

 その雰囲気が変わったのは、第5編の「文学・表彰文化」に入ったところからである。東南アジアにおけるインド文化の影響とその変容を紹介した第21章に続く、東南アジアの文学や映画などの説明は、今までの私が断片的にしか触れてこなかった、この地域での文化活動に改めて目を向けるものであった。

 実際、映画については、この地域を舞台とする作品は、「Crazy Rich Asian」や「バンコクナイツ」等、最近も幾つか観てきたが、(別掲「映画・アジア映画」が物語っているとおり)この地域で制作された作品に接したことはほとんどなかった。ましてや、文学については、現在に至るまで、この地域の作家の作品を読んだことは皆無である。また絵画や造形美術についても、シンガポール国立博物館に展示されている数人の現代作家(フィリピンやインドネシアの画家であった記憶がある)の作品を若干見ることがあった程度である。しかし、ここでは、夫々の分野でのこの地域固有の成果が多く紹介されており、私自身の新しい関心を開かせてくれるものであった。

 具体的には、まず映画の世界が入り易い。まず、2010年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞したというタイ映画「ブンミおじさんの森」。タイは「戦前から東南アジアの映画大国であったことが日本ではほとんど知られていない」が、1990年代以降の経済発展とグローバル化で、タイは「半ポストモダン社会」に変貌し、それが映画の世界でもニューウェーブを生み出しているという。そして現在、インドネシア、フィリピン、そしてヴェトナムがそれに続いている。その他の作品としては、タイ映画で浅野忠信が主演し、ベネチア映画祭主演男優賞を受賞した「地球で最後の二人」(あるいは、その続編のような「インビジブル・ウェーブ」)、あるいはヴェトナム映画で、1995年ベネチア映画祭グランプリを受賞した「青いパパイアの香り」(監督のトラン・アン・ユンは「ノルウェイの森」の映画化でも知られているという)といったところであるが、これらは機会があれば観ておきたいものである(早速近所のレンタル店で聞いてみたが、全てレンタルは終了していた。これからやや大きな店で探すつもりである)。

 文学や美術についても、各国の近代・現代の作品・作家が紹介されており、それなりに興味はあるが、正直文学を手に取ることは当面ないだろう。何かの機会にこの地域の現代絵画に触れる機会でもあれば、といったところである。

 その他、本の後半部分で、私が恐らく初めて接したのは、地域言語の文字分析や文法分析等のマニアックな説明であるが、これはほとんど理解不能であった。他方、それ以降は、気楽に流し読める若干の復習を兼ねた記載が続く。地域の歴史・文化遺産の多くは、懐かしい場所であったが、フィリピンのライス・テラス(ただし同様のものはバリ島で眺めた)や行き損ねたスコータイ、近所までは行ったフエといったところが未体験ゾーン。そして最後に「人物で語る現代史」では、先般「ガンディー」について読んだシリーズで、今後どうしようかと考えていた「スカルノとスハルト」、「マハティールとリー・クアンユー」、「ホー・チ・ミン」、「ポル・ポトとシアヌーク」などが簡潔に紹介されており、もう上記の「東南アジア人物シリーズ」は読む必要性がないと感じさせてくれた(唯一、「ラオス革命の父」カイソーン・ポムウィハーンだけが初めて聞く名前であった)。

 ということで、アジア文化の現在についての新たな関心を起こさせてくれたことが、最大の収穫であった。これからアジア映画のレンタル探しに出かけていくことにする。

読了:2021年5月2日