アジア・ドイツ読書日誌と
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ドイツ読書日記
第十一章 その他
ドイツ人はなぜ「自己肯定感」が高いのか
著者:キューリング恵美子 
 普通のOLがドイツ人と結婚し、ドイツに移住。二人の子供を出産しながら、そこで20年を過ごす中、体験したドイツ人の生活や発想について、平易な文章でまとめた新書である。書名が示す通り、ドイツ人の「自己肯定的」で、他者をあまり気にしない、しかしそれでも他者との付き合いを楽しむ気質が語られている。

 とは言え、その中身は、私自身が1990年代に体験したドイツでの印象とほとんど変わらず、またその背景となっているドイツ人での生活も、たいして新鮮なものはなく、その意味で、かつてのドイツ滞在時を回想することになった程度の印象である。簡単に読み終えてしまうが、余りこれといって記載しておくべきこともない。

 周りの目を気にせず、ファッションや生活態度等も、流行に左右されない自分なりのスタイルで「我が道」を行くドイツ人たち。そして自分なりの考え方を主張する能力を育成する教育と、余裕のある家族生活や趣味を大事にする合理的な勤務態度。しかし、集中力や専門性は高く、それが国全体としての高い生産性を維持することになる。そこでは「阿吽の呼吸」や「忖度」は不要である。現在も続いている「閉店法」や、「安静の時間」、あるいはサウナやFKKでの「裸の付き合い」といった習慣も、着任当時戸惑ったが、次第に慣れていった自分自身の体験を懐かしく思い出させる。環境重視からのハイキングやサイクリング趣味も、コロナ禍もあり、当時より一層進んでいるようである。敢えて言えば、Co2をまき散らしながらアウトバーンを高速で突っ走る、「車に乗ると人格が豹変するドイツ人」についての言及がないのが気になるくらいである。もちろん環境重視からの電気自動車へのシフトは当然意識されていると思われるが、著者のコメントは、運転感覚と車体価格の差から、ドイツ人がオートマ車よりもマニュアル車を好む、という程度の説明に留まっており、電気自動車へのシフトについてのドイツ人の考え方については触れられていない。

 そんなことで、懐かしい思いは感じながら流し読んだが、約30年前の私のドイツ滞在時から大きく変わったような新鮮な記載に接することはなかった新書であった。

読了:2023年9月18日