序文
ドイツ現代史は、多くの機会に、日本の現代史と比較されながら語られてきた。どちらの国家も、遅れた産業化と植民地分割を終了していた先進列強への挑戦を誘因として、二度の世界大戦の主要当事者となるが、その敗戦という挫折を経て無から出発した後、奇跡的な経済復興を経て、再び先進国の一角としての地位を認められていく。しかし、その戦後復興の要であった政治・経済的基盤が、現在大きく変動する中で、それぞれ苦しみながら新たな国家像を求め続けている。
こうしたドイツ現代史を、まず政治面から整理しておこう。第一節ではまず日本と比較されることが最も多い戦後史について書かれた3冊を取り上げる。大獄の作品はまさに日本の戦後史との比較を整理したもの。続いてやや特定の姿勢の上で論じられているが、ドイツ人自身による通史を見ておく。三島の新書は、直接のテ−マはむしろ第六章に属する戦後精神史であるが、ドイッの戦後政治の現象面を理解する上での最良の書物の一つと思われることからここで取り上げるものである。
第二節はドイツ戦後に発生した最大の事件であり、世界史的に見てもその後の世界秩序に大きな影響を与えたドイツ統一に関わる幾つかの書物をまとめる。それは、このドイツ統一の現場に「遅れてきた青年」であった私自身が、そのリアリティ−を把握するための懸命のキャッチアップを行うと共に、その後同時代的に体験した建設の苦難を見届けようという作業である。ジャ−ナリストによる数ある新書版については最小限の紹介にとどめる。
第三節は、そうしたドイツ戦後史の中で生きた政冶家として、ドイツ連邦共和国戦後第五代首相H.シュミットと前共和国大統領であるR.v.ヴァイツゼッカ−を取り上げる。もちろん、政治家としては、戦後初代首相C.アデナウア−や、東方外交の実践者W.ブラント、そして統一の功労者H.コ−ルらも忘れることはできないが、これらの人物は他のテ−マに関連し、繰り返し登場することになる。そこでここでは、私が人間的・倫理的な側面を含めて感銘を受けた上記の2名に紹介を絞ることにする。
第四節は改めてナチス関係をまとめる。このカテゴリーは学生時代から、断続的に多くの著作に接してきているが、膨大な関係本全てに目を通すことなどは不可能である。従ってここでは是非、90年代のドイツ滞在者が、そこでたまたま目にしたナチス本に何を感じたかを中心に読み取っていただきたい。尚、戦後ドイツの情報機関に関する関根の新書本は、実はナチスの監視体制が、ドイツ人の疑心暗鬼的性格とも相俟って、戦後の民主社会にも極秘に流れ込んでいる、という論点から、やや異なるテーマであるがあえてこのカテゴリーに加えたものである。