アジア・ドイツ読書日誌と
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ドイツ読書日記
第二章 政治
第四節 ナチス
ゲシュタポ・狂気の歴史
著者:J.ドラリュ 
 自ら大戦中にゲシュタポの手で捕えられ、解放後はニュ−ルンベルグ裁判を含めナチ戦犯の取り調べを行ったフランス人レジスタントによる、ゲシュタポの生成から崩壊までの通史である。この作品が1962年に発表されていることを勘案すると、包括的なゲシュタポ研究の嚆矢であり、また古典としての位置付けを受けたことが充分納得できる、細部に至るまで詳細に語られた大作である。内容的には、既に何冊も読んできたナチ物とダブる部分がほとんどであることから、詳細には立ち入らないが、解説に記載されている、この書物に対する(古典として評価されているが故の)その後の研究者からの批判は書き留めておこう。

 批判の最大のものは、この作品がゲシュタポを余りに完全なものとして捉えている、とするものである。即ち、ゲシュタポが司法、行政上の特例で武装し、ドイツ史上例を見ない権限を振るった、という点においては強力な組織であったが、他方で人員の質、量、そして官僚化の度合いで見れば「全能偏在の警察組織」の域に達したことはなかった、とする。
また歴史事実の記載も、国会議事堂放火事件のゲ−リング主犯/ファン・デル・ルッペ囮説、レ−ム事件の犠牲者数、ヒンデンブルグ死後軍部がヒトラ−へ忠誠を誓うまでの過程、国防相ブロンベルグと陸軍最高司令官フリッチュの失脚をゲ−リングとヒムラ−の陰謀とする説等々で、現在は覆っているものが多いとされている。

 もちろん、個々の記載については、研究が進むことにより疑念が呈されることは当然である。しかし、それにもかかわらず、1962年という年に、これだけ包括的なゲシュタポ研究が出ていたというのは驚きでもあり、その意味で、ナチを通じて近代ドイツを理解しようとする場合には避けて通れない作品である

読了:2002年6月22日