ネオナチの少女
著者:H.ベネケンシュタイン
年末に図書館で借りた本であるが、こんなものを読む日本人もいないのだろう、2019年2月邦訳出版のこの本は真新しいままであった。私の様に、ドイツとナチスに関心があり、しかも直前にドイツにおけるナチス肯定と、それを規制する戦後ドイツ等での法規制を扱った「歴史修正主義」を読んだ者くらいしか関心はない著作であると思われるが、訳者によると、2017年秋にドイツで出版されるとたちまちベストセラーになったというのは驚きである。著者によると、その理由は、彼女が語っている自分の経歴が、「ネオナチではなく、いわば〈正統派のナチ〉として純粋培養されていたこと、そしてこのような組織がいまだに存在していることに世間が驚愕した」ことによる、という。
確かに、ミュンヘン近郊に住む普通の税関の役人であった父は、戦後もナチスの崇拝者で、彼女は、ナチス関係の書籍と、ドイツ的なるものを押し付ける父親の教育方針のもとで、幼い頃からネオナチ的(ヒトラーユーゲント的)なキャンプなどに送られ、自然と右翼的発想と行動が身についていったという告白は、ドイツにおけるこうした傾向の根深さを物語っている。そして、そうして育てられた彼女は、ハイティーンになってからは、ネオナチ政党である国家民主党の活動にも関わっていくことになる。
しかし彼女が日常的に参加したのは、そうした政党の末端で活動していた集団で、それは「教養のある市民階級の祖国愛」に燃えたものではなく、落ちこぼれの問題児が集まるものだった。そうした中で彼女は、右翼的なロックで人気を博していた青年と知り合い、恋に落ちるが、彼との子供を流産し、他方その恋人が検挙され、監獄に収容されたことを契機に、彼共々、この運動からの脱却を決め、そして集団からの圧力をかわしながら、保育士の傍ら、ネオナチからの脱出を支援する活動を始めていくのである。
彼女自身の生き方は、それほど感銘を受けるものではないが、訳者が上記で触れたように、戦後半世紀を経て、依然ドイツでは普通の市民がナチスを信奉し、そうした思想に染めるような教育を、家庭内で子供たちに行っている実態があることは重要である。前記の「歴史修正主義」でも書かれているとおり、ドイツでは1994年に、刑法130条の「民衆扇動罪」に、第三項として「ホロコースト否定禁止」条項が加わった他、2005年には第四項として「集会などでナチ支配の賛美・正当化を行う」ことも禁止される。その背景には、もちろんナチス賛美を行うネオナチの勢力拡大があったが、そこには、この少女が告白している様な、末端の家庭での基盤があったということだろう。ある意味、保守的なドイツ人によくある傾向が、戦後半世紀を経て、再び「アメリカ的自由主義」への不満として蘇ってきたと考えられる。しかしドイツは、それに対して、それなりに対応しているのは、上記の法整備が物語っている。もちろん、それも時代と共に変わっていく可能性はあるにしても・・。
読了:2022年1月5日