序文
第二章のドイツ戦後史で紹介した三島憲一の新書版で、既にドイツ戦後派知識人の歴史的付けは明らかであるが、ここではそうした知識人たちの生の声を紹介する。まずはフランクフルト学派第二世代の指導的社会哲学者として戦後ドイツの思想界に大きな影響力を及ぼしてきたハ−バ−マスを取り上げる。彼の「公共制の構造転換」、「理論と実践」、「晩期資本主義の正統性の諸問題」といった著書、あるいはK.ポッパ−ら「批判的合理主義者」との「論理実証主義論争」は青春期の私に強い影響を与えた作品であるが、今回の滞在にあい前後して邦訳が出版された幾つかの作品は、体系的な研究と言うよりは、時々の状況に応じて発表された評論集がほとんどである。そしてそれに先立つ1987年の「歴史家論争」におけるハーバ−マス並びに、その支持者、批判者たちの論考。ドイツ統一や湾岸戦争といった、冷戦時の画一化されたイデオロギ−では論じることにできない現象を前に、新たな地平を求めて苦闘する指導的知識人の思考をこれらの作品で追いかけてみたい。
更にこうした論争に関与した人間も含め、戦後ドイツ知識人の多様な潮流を紹介せんとした三島憲一編集によるインタビュ−集。この中では私なりに、現在のドイツ知識人のこうした潮流をカテゴリ−化し整理することを試みてみた。
そして最後に、ドイツ統一問題発生時のG.グラスの発言。47年グル−プの中心人物として活躍してきたこの文学者の文学作品については、次章でも取り上げることになる。