アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ドイツ読書日記
第七章 文化
第四節 文学 
ガリレイの生涯
著者:ベルトルト・ブレヒト 
「三文オペラ」と共に、当初赴任時に持参したブレヒトの戯曲である。「三文オペラ」が今一つビジュアルな感覚をもたらしてくれなかったのに対し、こちらはスト−リ−が明確であるが故に視角的イメ−シを喚起し易い。天動説に対するに地動説を唱えバチカンから異端審問にかけられたガリレオが〈転向〉する有名な話をテ−マにブレヒトは少し変わった味付けで戯曲化していく。特に異端思想を有するガリレイが、双眼鏡をベニスの総督に新発明てあるかのように売りつける話や、ペストの広まったベニスの様子、そして宗教裁判により転向したガリレオから去っていった弟子が、幽閉中の彼の『新科学対話』に感動し、イタリアから密かに運び出す話は印家に残っている。しかし、この戯曲でブレヒトが意図したのは、英雄でもなければ、裏切り者でもない、多面的人格を有する人間を描くことであったという。その意味で「三文オペラ」とは違った観点で、この作品も戯曲を見ない限り、本来の価値を認識するのが難しい作品である。何故ならば、生身の人間は常に複雑怪奇であり、演劇というのは、まさにこの複雑怪奇な人間とその関係性を生身の人間を使って表現しようという衝動だからである。人間を枠にはめることを強制する国家権力を身近に感じる状況のもとでこの文庫本を読みあさったというのも、また何かの縁であったのだろう。

読了:1998年2月21日