アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−2020年)
Whitesnake - Forevermore Tour Singapore 2011(写真付)
日付:2011年11月1日                                                           会場:Fort Canning Park 
 2年ほど前のDeep Purpleに続いて、かつての「ハードロック」バンドのシンガポール公演である。

 Whitesnakeは、第3期Deep Purpleから、ボーカルのデヴィッド・カバーデイル、キーボードのJ.ロード、そしてドラムのI.ペイスが離れ、1978年に結成したバンドであるが、その後Deep Purpleオリジナル・メンバーの二人がまたDeep Purpleに戻ったために、それ以降は実質的にデヴィッドのプロジェクトとして進められた。ロンドン時代の1984年に、ウェンブレイ・アリーナで彼らのコンサートを初めて見た時の印象は、「ロンドン編・その他」をご覧頂きたいが、それはその頃、既に私がもはや年齢的についていけないと感じたようなコンサートであった。

 しかし、それから27年経った今、またこのバンドのコンサートに、ここシンガポールで行くことになろうとは、Deep Purple以上に予想もしていなかった。しかし、2年前のコンサートでほとんど声が出ていなかったI.ギランに比べ、デヴィッドは、90年代のジミー・ペイジとの共作(1993年)等を経て、2002年のWhitesnakeを再結成して以降もコンスタントに作品を発表しており、特に2004年のロンドン・ハマースミスでのライブDVDでは、若い卓越した他のバンドメンバーに負けないだけの元気な彼の声を聴くことが出来て感激したものである。そしてWhitesnakeとしては11作目に当たる最新CD「Forevermore」も、今回のコンサートに合せ購入し聴き込んだが、彼の声が健在であるのみならず、個々の曲もなかなか良くできており、全体として秀逸な作品に仕上がっている。今回のコンサートは、この最新作のツアーとしての来星であるが、彼らにとってはシンガポールでのコンサートは初めてということである。

 今回のメンバーは、彼に加え、ギターがダグ・アルドリッジとレブ・ビーチ、ベースがミヒャエル・デビン、ドラムがブライアン・ティッチー、キーボードがブライアン・リューディという編成であり、キーボードのブライアンを除き最新CDのクレジットと同じである(最新CDのキーボードは、2004年のDVDで参加していたティモシー・ドルリーがゲストとしてクレジットされている)。また2004年のDVDとの比較では、ギターの二人はそのまま残っているが、他のメンバーは新しくなっている。

 今回の会場は、フォート・カニング・パーク。かつて植民地時代に英軍が駐留し、日本の占領時は日本軍が本部を置いた小高い丘の上にあるオープンエアーの会場である。私の家からは徒歩で10分もしない位置であることから、ウィークデイのコンサートであるにも関わらず、発売と同時にチケットを購入したが、直前に改めてそれを確認すると、スタンディングのみのコンサートであった。ここのところシンガポールは雨期に入り、激しいゲリラ雨が頻繁に市内を襲い、現在のタイほどではないが、街の至る所で時々洪水が発生している。この日も午後4時過ぎから雷を伴った激しい雨が降り始め、取り敢えず6時前にはほぼ上がったものの、再び雨が降り始めることも考えられ、体力面も含め、やや心配しながら会場に向かうことになった。7時45分開演ということであるが、「Slank」というインドネシアのロックバンドによる前座があるということなので、ややゆっくり目に出かけていった。

 既に会場に向かう途上で、前座バンドの音が聴こえてくる。会場に向かうと思われる人影を全く感じないまま、音の方向を目指しながら、適当に丘を昇っていくと、丘にある屋敷の中を抜けることになってしまい、その屋敷のテラスから、チケットはいっさい見せないまま、この日のステージがセットされている場所に入り込んでしまった。ステージを見下ろすテラスでブッフェを食べている人々の横を抜けて、8時20分過ぎに芝生の後方に数段もうけられていた階段に取り敢えず腰を下ろす。ステージでは、前座バンドが、安っぽい音で学園祭のような演奏を行っていたが、座った場所は、ステージを正面に眺められる、しかもステージまではそれほど遠くない位置である。前座バンドは、「皆、Whitesnakeを早くみたいだろう」といって、8時半頃には退いていった。

 ステージでのセッティングの変更が始まる。その間に、階段の座った場所を確保しながら、会場の中を動いてみる。ステージ前は既に多くの人々で埋まっているが、それでも結構前まで進むことができる。観客数は、最近私が参加した当地でのコンサートの中でも少ないくらいで、ステージ前の芝生に1000人程度が集まっているというイメージである。かつて、ロンドンで見た時は、ウェンブレー・アリーナという1万人以上は収容できるようなホールであったことを考えると、このバンドのシンガポールでの知名度は相当低いと想像されたが、私にとっては絶好の環境である。観客層は、私が見た限りでは、私と同様、いかにも若い頃、このバンドを聞いていたと思われるような欧米系のおじさん、おばさんが、まさにピクニック気分で来ているという感じで、かつてロンドンで体験し、違和感を抱いたような、長髪の若者集団はほとんど見かけなかった。これも、シンガポールならではの雰囲気なのかもしれない。ステージ後方にこのバンドのシルバーのロゴが掲げられた後、9時少し前、The WhoのBGMが最高潮に達したところで、彼らのステージが開始された。

 当日の演奏曲は、次のとおりである。

@ Best Years (Good To Be Bad,2008)
A Give Me All Your Love (Whitesnake, 1987)
B Love Ain’t No Stranger (Slide It In, 1984)
C Is This Love (Whitesnake, 1987)
D Guitar Solo → Steal Your Heart Away (Forevermore, 2011)
E Forevermore (Forevermore, 2011)
F Guitar solo for 2 + key/bass
G Can You Hear The Wind Blow (Good To Be Bad,2008)
H Slow Blues → Love Will Set You Free (Forevermore, 2011)
I Drum Solo
J The Deeper The Love (Slip of the Tongue,1989)
K Fool For Your Loving (Ready An’Willing,1980)
L Here I Go Again (Saint & Sinners,1982/ Whitesnake, 1987)
M Still of the Night (Whitesnake, 1987)
N Soldier of Fortune-Burn-Stormbringer-Burn 
(Burn/Stormbringer, Deep Purple,1974)
O Bad Boys (Whitesnake, 1987)

 オープニングは2008年発表の前作CDからの@である。この作品は私は全く聴いていないので、コンサート時点では曲を特定することは出来なかったが、アップテンポで、既にバンドのエネルギー全開である。昔、ボンジョビのオープンエアー・コンサートで感じたのと同様、音質も前座とは決定的に異なっている。白いシャツにGパンのデヴィッドは、60歳とは思えないスタイルを維持しており、声のみならずアクションも元気である。二人のギタリストも、DVDで見慣れた早弾きを最初から披露するが、予想されたとおり、正面右のダグが動、左端のレブが静という雰囲気である。ベースのミヒャエルが左、キーボードのブライアンが右端。そして中央のデヴィドの後ろの高い位置にドラムのもう一人のブライアンという配置である。

 1987年の作品からのAも私の知らない曲であったが、3曲目以降からは、馴染みの曲が続くことになる。ハードなBとバラードのCは、ここ数日、このコンサートの予習のため私が聴き込んでいたベスト版収録曲で、DVDでも演奏されている曲である。バラードでのダグのギターソロもなかなか味がある。

 曲の合間のMCは、デヴィッドが一人でつとめている。「シンガポールの皆、元気か!シンガポールはいつもこんなに暑いのか?」などと話すが、この日は雨上がりであったこともあり、風が清々しい宵だったので、「シンガポールでは涼しい位だよ」と突っ込みたくなった。話しの中でやたらと「fuckin’」を使うのはロックシンガーぽいが、数ヶ月前、シンガポールの高校卒業式の卒業スピーチの中で、首席卒業の女子学生がこの言葉を一回だけ使ったことが大騒ぎになり、新聞記事にまでなっていたことをふと思い出した。「Do you wanna fuckin’ noise?」というデヴィッドの声と共に、ダグの歪んだ音色での大音響ギター・ソロが始まるが、そのまま最新CD1曲目のDに繋がっていく。Eも同じCDのタイトル曲であるが、これは一変ダグのアコースティック・ギターの伴奏で始まり、きれいなコーラスを聴かせる。コーラスに参加しているのは、ギターのレブ、ベースのミヒャエル、キーボードのブライアンの3人である。途中からダグがエレキに持ち替え、アラブ音階の後半の盛り上がりに移り収束する。最新CDのタイトル曲でもあり、なかなか印象的な作品である。

 静の後は再びノイズである。まずダグがレスポールでの早弾きとノイズのソロを聴かせると、それに続きレブが同じような、しかし少しスタイルが違うストラトカスターのソロで続く。そして今度は二人のデュオでのギター合戦になり、最後はベース、ドラム、キーボードが加わったアップテンポの演奏になった。それが終わると、衣装直しをして青いシャツに着替えたデヴィッドが再登場し、前作からのGの演奏になった。

 「Do you like blues?」というデヴィッドのMCで、典型的なスローブルースが、短い時間披露された後、そのまま最新作からのHに移る。アップテンポの典型的なWhitesnake風ハードロック・ナンバーである。続いて「Most dangerous man!」という紹介で、ブライアンのドラム・ソロに移る。一般的なソロであるが、途中右手のスティックを、スネアに打ちつけたまま空中に跳ね上げ、それを掴みなおすという技を数回繰り返していた。それが終わると、スティックを観客席に投げ入れ、手打ちでのソロ。そして最後は一般的なソロからベースが入り、マウンテンの「ミシシッピ・クイーン」のフレーズ等も挿入しながら締めくくるという形で10分程度繰り広げられていた。ロンドンでのコンサートのドラム・ソロは、その後早世したコージー・パウエルのパフォーマンスであったことを思い出しながら聴いていたのであった。

 再びバンド演奏に戻り、ベスト版にも入っているなかなか秀逸なメロディーのJを経て、終盤の大ヒット曲オンパレードに入る。まずは初期のK。これはCDやDVDに比べてキーが少し低く、乗りが今一という印象。続いて私のロンドン時代に発表されたアルバムからのL。ベスト版一曲目のMを経て、Nに移る。

 まずは、デヴィッドが無伴奏で、Deep Purpleのアルバム「Stormbringer」からのバラードの名曲「Soldier of Fortune」を歌い、それが終わったところで、雰囲気が一変し、デヴィッドのDeep Purple参加を高らかに宣言した名曲「Burn」に移る。構成はDVD版と同じで、途中で「Stormbringer」が挿入され、再び「Burn」に戻り大団円を迎える。ダグのギター・ソロは、DVD版で見ているとおり、オリジナルのR.ブラックモアと遜色のないフレージングであるが、キーボードのブライアンのソロは、オリジナルのJ.ロードや、略それをコピーしていたDVD版のティモシー・ドルリーに比較すると、やや指の動きがスムーズではなかったように感じた。しかし、デヴィッドのボーカルは、7年前のDVDからほとんど変わっていない迫力である。そして、「もう一曲いくぞ!」ということで演奏されたOでコンサートが終了したのは、ほとんど11時前。たっぷり2時間の演奏であった。

 この日は、雨に備えた準備もしていたことから、荷物を最初に確保した階段に置きながら、時々前に出て行っては、また席に戻るということを繰り返していた。結果的に、全く雨は降らず、前述のとおり、むしろ時折流れる風が心地よい、絶好のオープンエアーコンサート日和になったのであった。

 ステージ近くに行った時に撮影した当日の映像のいくつかを掲載しておく。また「Burn」を含め、幾つか自分の好きな曲は携帯の動画に収録し、その後も時々聴くことになった。















 改めて思うのは、繰り返しになるが、60歳を迎えても全く衰えを感じさせないデヴィッドの声とスタイルの良さである。もちろん顔は、1974年撮影のDVD、Deep Purple時代の「California Jam」でのデヴィッド(当時23歳!)と比較して明らかに老けているのは当然であるが、依然ロックミュージッシャンの容貌と実力を維持しているのはたいへんなことである。特に、先般のEagles等と異なり、音楽がギンギンのハードロックであるが故に、この2時間に渡るコンサートが体力的にもたいへんな負担であるのは間違いない。それにも関わらず、彼は私生活でも3人目の奥さんを持つなど、ロック・ミュージッシャンらしい人生を歩んでいる。Deep Purpleのオーディションを受けるまでは、ガソリンスタンドでバイトをしながら、田舎バンドで歌っていたというこの男の、益々盛んなロック魂を感じたこの日のコンサートであった。

 最後に、またコンサートの翌々日(11/03付)、当地一般紙(The Strait Times)に掲載された、この日の彼らのコンサート評を簡単に紹介しておこう。

 「おじいさんはセクシーになった(Grandpa gets sexy)」と題されたこの評では、まず彼が約一ヶ月前に60歳になったことを紹介しながら、「この既に二人の孫のいる男は、この日16歳の肉欲に溢れた若者に豹変し、ステージ狭しと動き回りながら、セクシーなジョークと骨盤に突き刺さるようなハード・ロックの歌を披露した」と始めている。「やや時代がかった長い金髪から覗く顔は健康そうに日焼けしており、笑みを絶やさなかった。その彼は、会場キャパシティの8割を埋めた5000人強のほとんど男性の観客(そんなにいたか?−筆者注)―多くは彼の半分くらいの歳であるーをロックで叩きのめすような精力感溢れたパフォーマンスを繰り広げた。」

 「彼の特徴であるかすれた低い声で最新CDの曲を歌うと共に、70年代に彼を有名にした金切り声のシャウトも披露したが、それは時々若いバンドメンバーのコーラスから一人浮き出るようなこともあった。でもそれは問題ではない、何故なら彼は『伝説』であるのだから。」そして、この日のコンサートで一番盛り上がったのは、やはり「Is This Love」や「Here I Go Again」などの80年代からのレパートリーであったとコメントしている。但し、この時代の「hair metal(軽いメタル、というニュアンスか?)」と、厚いギターリフや激しいドラムにより、ソウルフルなブルースとドライブするメタルが完璧に融合した最近の2作からの曲は好対照であったとして、評者はむしろ最近の楽曲の方を評価しているようである。また最後のDeep Purple時代の曲も聴衆に受けたが、これはDioやWingerといったバンドで腕を磨いてきた二人のギタリストによるところが大きいとしている。

 記事の最後は、「2時間にわたったコンサートは、時折不必要に長いギター・ソロやドラム・ソロで中断されたが、これは『60台の男(sexagenarian)』が休息し、ペースを取り戻すために必要であったのだろう。もちろん、彼がもっと多くの曲を歌えば、ショウも一層盛り上がったに違いないが、これは逆に言えばー彼の他愛のないジョークや子供っぽいアクションにも関わらずー結局のところこの日のギグの中心人物がカバーデイルであったことを物語っていたのである」と皮肉っぽくまとめられている。

2011年11月5日 記