アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−2020年)
SCANDAL Live in Singapore 2013
日付:2013年3月16日                                                                会場:SCAPE, The Warehouse 
 一昨年の来星時に、結構行く気になっていたにもかかわらず、突然の友人の夕食の誘いに乗ってしまったために諦めたこの日本のガールズ・バンドのライブに、今回は満を持して参加した。とは言っても、全く日常の音源としてはほとんど接したことがなく、ただ日本のガールズ・バンドのライブという興味だけしかないコンサートである。ましてや会場には恐らくはティーン・エイジャー、特に当地在住の日本人ティーン・エイジャーが多いことは確かであるので、私のようなおっさんが行くと、相当会場で浮くのではないか、という懸念もあった。しかし、日本では考えられないことも、恥ずかしげなく体験できるのがシンガポールである。この日のチケットは、VIPがS$168、一般がS$118ということで、全て立ち見の割にはやや高いなと思いながらも、後者のチケットを調達したのであった。日中、日本からの客の観光案内につき合い、午後やや疲弊して帰宅した土曜日の夜、家から歩いて10分程度の会場に足を運んだ。

 スキャンダルは、ボーカル&ギター:HARUNA(ハルナ)、リード・ギター&ボーカル:MAMI(マミ)、ベース&ボーカル:TOMOMI(トモミ)、ドラム&ボーカル:RINA(リナ)の4人組。最も年長のハルナが現在24歳、若いリナが21歳というバンドである。2006年に大阪で結成され、メジャー・デビューしたのが2008年というので、デビュー直後は、ハルナ以外は高校生だったということになる。私も日本にいた頃に「高校生ガールズ・バンド」といったキャッチ・コピーでこのバンドの存在を小耳に挟んだことがある。ただ、さすがに日本にいると、単にこれだけで音源をまじめに聴こうという気にはならなかった。しかし、シンガポールに来た後、いつであったかは忘れてしまったが、サンテック・コンベンション・センターで開催されていた「アニメ・フェスティバル」の余興としてこのバンドが来星したことで初めて関心を持つことになった。そして冒頭に「逃した」と紹介した2年前の2回目に続く3回目のシンガポール・ライブが今回の公演で、この日と翌日曜日の2回行われることになっている。

 軽い夕食を近所で食べてから会場に着いたのが7時数分前。SCAPEというショッピング・センター(SC)の一階入り口のすぐ横にあるホールが、この日の会場である。この若者が集まるSCには、(これまたシンガポールでないと恥ずかしくて出来ないが)以前AKBショップを探して一回だけ来たことがある。この時、時々このSCでAKBの公演も行われていると聞いていたので、そうしたコンサートが出来そうな場所を探したのだが、このホールはその時閉まっていたからだろう、こうしたファシリティーがあることには気がつかなかった。入口にも特段コンサート会場のような目立つ表示はなく、この日は小さな受付が出ていたので、初めてこんなところにホールがあったのか、と気が付くことになったのである。

 学校の体育館といった感じの広さの会場に入ると、確かに聴衆は若いが、立ち見でもあるので、それほど違和感がある訳でもない。更に会場に入り、ステージに向かって左奥の、前方VIPスペースとの仕切りから2列目に位置を決めたとたんに会場が暗転し、周りの歓声と共にライブが始まったので、ほとんどそうしたことを気使う必要がなかった。

 スキャンダルの4人は、右肩にオレンジと緑の閃光が象られたお揃いの黒いシャツを着ている。その閃光のデザインが一人一人で少しずつ違っているのが女の子らしい。下は、前方の人々や楽器にブロックされてあまり見えないが、その後ハルナは黒のショートパンツであることだけが分かった。昔デザイナー制服を着た高校生という感じで映っている彼女たちの写真を見たことがあるが、さすがにその衣装は現在は無理だろう。しかし、全員黒にワン・デザインで固めた衣装はなかなか可愛らしい。ステージは中央にハルナ、向かって右にギターのマミ、左にベースのトモミ、中央後方にリナというセッティングである。冒頭からアップテンポのリズムでのロックが演奏され、聴衆の持っている色とりどり蛍光スティックがリズムに合わせて揺れることになる。

 さすがに音源は全く持っておらず、予習もしていないので曲については、歌詞は全て日本語であるが特定することは出来ないリード・ボーカルはハルナが取るが、その歌はしっかりしていて安心して聴ける。時折ベースのトモミが、やや甲高い声でソロを取る他、コーラスにはリード・ギターのマミも声を被せてくる。小さな会場での演奏であるが、音のミキシングはきちんとしており、正確な歌詞は時々聞き取れないが、全体の音のバランスはまあまあである。演奏力は、ガールズ・バンドとしては合格点だろう。3曲、全てアップテンポのロックを続けたところで、ハルナのMCが入る(因みに、その後別の情報で分かったのは、この日のライブの最初の3曲は、後述する「少女S」、「瞬間センチメンタル」、「春風」であったとのことである。)。

 さて何語で来るかな?と思っていたら、冒頭の「Hallo,Singapore!」以外は日本語になってしまった。「みんな、来てくれて有難う!最高の夜にしようね。ぶっ飛ばして行くから、みんなも楽しんでね!」という「ノリ」中心のMC。その後も、何度かのMCが入り、トモミがたどたどしい英語で「今日ブギスにいって楽しかったよ」とか、ハルナが「ラクサが大好き」といったワン・フレーズを言うことはあったが、ほとんどは日本語であった。マミが今回が3回目のシンガポールでの公演であると紹介し、ハルナが「2年振りに来たけれど、きのうはサイン会に来てくれて有難う」などと話しているが、まあ3回目で香港などでも公演しているので、そろそろ英語を覚えてこいよ!と突っ込みたくなるが、まあ可愛いので許してやろう。

 彼女たちのようなガールズ・ロックの日本での先駆けは80年代に活躍した「ショーヤ」である(一応現在も寺田恵子を中心に再結成して活動しているようである)が、メジャーになったのは同時期に成功した「プリプリ」(一昨年の「紅白」での演奏は口パクだったという説もある)くらいで、その後はあまり第一線で活躍しているガールズ・バンドの名前を聞くことはない。米国のバンドでも、私が映像を持っているのはベリンダ・カーライルがいた「Go Go’s」とスザンナ・ホフが愛嬌を振りまいていた「Bangles」くらいであろうか(双方ともピーク時ではなく、再結成時の映像である)?そして、何よりも内外含めて私がこうしたガールズ・バンドのライブに参加するというのは人生初めての経験である。女性中心のバンドとしては、昔ドイツで見たコアーズがそれに近いが、それでもサポートを含め何人かの男性が入っていた。その意味で、ライブ・ベースでなかなかこの日のスキャンダルの演奏と比較できる対象はない。

 ただ演奏が続いていくにつれ、このバンドはひたすらハードなロックで押しまくる路線であることが分かってきた。コアーズは基本的にはケルトからロックに接近したバンドであることから、「Go Go’s」や「Bangles」が彼女たちには近いと思われるが、それでもこの二つのバンドがスローなバラード(例えば、Banglesの”Eternal Flame”など)も時々レパートリーに加えていたのに対し、スキャンダルは、一曲だけアコースティック・ギターのイントロがテープで入った曲があったが、それもすぐハードに展開する等、エネルギー全開の曲が続くことになった。ドラムのリナのリズムは、まあしっかりしており、また長いストレートヘアーでほとんど顔が見えないが、一番動きの派手だったトモミのベースも、時折印象的なフレーズで絡んでいた。ただリード・ギターのマミは、時々短いサビのソロをとる程度で、早弾きや長いソロは取れないようであった。帰宅後、簡単に彼女たちの最近のCDの一部をネットで試聴して見たが、ギターは結構切れ味の良い音を出していたので、これはサポートのスタジオ・ミュージッシャンの演奏だろうか、等と考えていた。

 しかし、やはりこのバンドの中心がボーカルのハルナであるのは間違いない。小柄ではあるが、小さなアイドル顔としっかりしたボーカルで、この日の演奏の中心であった。コンサート後、彼女の年齢が4人の中で最も上であることを知ってやや驚いたが、どうしてもこうしたバンドがメジャーにのし上がっていくためにはボーカルのアイドル性は欠くことができないのだろう。

 こうして、この日のライブは8時15分に、いったんメイン・ステージを終え、その後アンコールで2曲を演奏し、終了したのは丁度8時半。1時間半の立ち見公演であった。

 前述のネット試聴などで復習した結果としては、この日の演奏曲目は、最新アルバムの「Encore Show」やその前の「切り札はクイーン」からの曲(「太陽スキャンダラス」等)が多かったような印象であるが、後半にはややメロディーが歌謡曲ぽい曲もあったので、このあたりが初期の人気曲で、むしろ最近がハードロック色を強めているということなのであろうか?前述のとおり、リード・ギターを筆頭に、楽器のテクニックはいま一つであったが、ハルナとトモミの掛け合いボーカルや、マミも加わったコーラスなどは安定して心地よいサウンドを作り出していた。そして夫々の曲も、私は予習不足ではあったが、きちんとしたメロディーラインを持っており、何度か聴けば、記憶に残るように思われた。そして何よりも、そのリズムは、私が若い頃に傾倒したシンプルなハード・ロックのそれである。立見席で軽いステップを踏みながら、そうしたリズムに身を任せるというのはまさに久々の体験であると共に、自分の若かりし時代を想起させるものとなった。その意味で、この日のライブは、ここシンガポールでの、週末の気楽なカタルシスのひと時となったのであった。

2013年3月17日 記

(追記)

 コンサート後の3月20日付当地新聞(The Strait Times)に、彼女たちのインタビュー記事が掲載されたので、簡単に紹介しておく。

 記事のタイトルは、「Hanging on to high school girl’s look」。「女子高生スタイルでいくわよ!」とでも訳すのだろうか、彼女たちが高校生でデビューしたことに言及しながら、彼女たちがインタビューで「女子高生時代は私たちの原点なので、ちょっと歳はとったけど、ファンが期待しているのであれば、制服スタイルで歌うことも気にしないわ」と答えたことを伝えている。

 記事は、彼女たちがバンドを始めた経緯や、大阪城公園でのストリ−ト・ライブ時代の挿話に触れた上で、メジャー・デビュー後の話に移る。ここで記事が強調しているのは、彼女たちが、アニメのテーマソング(アニソン)を作り、歌うようになって、より人気が高まったという点である。「少女S」や「瞬間センチメンタル」、そして最近では「春風」といったアニソンがオリコンのトップ10にランクし、それに従って彼女たちの人気も上昇したという。これらのアニソンは、「Bleach 10th and 15th」や「Fullmetal Alchemist:Brotherhood」といったアニメのテーマであるということであるが、このあたりは私が最も疎い若者文化の世界である。これらの曲が今回のライブで演奏されたかどうかについては、記事では触れられていない(前述のとおり、最初の3曲がこれらであった。)が、少なくとも、この説明で、彼女たちが最初にこの地を訪れたのがアニメ・フェスであったことの理由が分かったのであった。

 彼女たち自身、こうした漫画の大ファンで、もちろんアニソン以外の一般の曲も多いのであるが、海外のファンにアニソンのバンドとして認知されることは、それはそれで歓迎だし、アニメを見て音楽に関心を持つ海外のファンがいるのは嬉しい限り、と語っている。

 最後は、メンバーの間で喧嘩になることはないの?という質問に、「私たちは夫々性格も違うし、音楽の嗜好も時々違うことがあるけれど、今は家族のような関係。何かあれば相談しながらやってるわ」と優等生的な回答が出てきたところで、この記事は結ばれている。

2013年3月21日 記