アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−2020年)
Bryan Adams― Live in Singapore
日時:2017年1月20日                                                      会場:Suntec Convention Centre 
 2017年新年初のライブは、カナダのロッカー、ブライアン・アダムスのシンガポール公演である。

 ブライアン・アダムスは、1959年生まれで、1980年代からメジャーで活躍してきた。私が彼を同時代で聴き始めたのは、1990年代のドイツ滞在時に発表された「Waking Up Neighbors」(1991年)を購入してからで、その次の作品である「18 Till I Die」(1996年)のツアーであったフランクフルト公演で初めて彼のライブに接することになった。この時は、歩いてもたいしたことのない距離を車で移動したため、公演開始に間に合わなかった苦い思い出があるが、コンサート自体は能天気なロックンロール・パーティーとして楽しんだことは、当時のレポートのとおりである(1997年4月、別掲「フランクフルト音楽日記」参照)。

 それから約20年。当時はまだ30歳代のバリバリであった彼も、今や50歳代後半に差し掛かっている。もちろんストーンズやポール・マッカートニーのように70歳代ということはないが、それでもロックンロールを続けるのは結構体力的にきつい年代に入っている。それは聴く方の私も同様であるが、それでもその20年間、間歇的に彼の音楽を聴き続けてきた(また時折カラオケで彼の歌を歌ったりしてきた)人間にとっては、まことに懐かしいライブである。

 会場は、昨年Deaf Leppard やScorpionsのライブが行われたSuntec Convention Centre。今回の公演は、1月14日香港、16日ジャカルタ、20日マニラで始まったアジア・ツアーで、この後は21日クアラルンプール、23日大阪、24日東京と続き、2月からはドイツ、エアフルトを皮切りにした欧州ツアー、3月は中東、そして4月は南米に移っていくようである。一旦ツアーが始まるとロッカーもたいへんである。

 いつものとおり会場近所のレストランで、同行する友人と簡単な夕食を済ませ、会場に向かった。Deaf Leppard やScorpionsの時は、ステージ前は立ち見であったが、今回はすべて着席席である。我々のS$199の席は、ステージに向かい正面右の略真横の位置である。値段の割に、ややステージには遠いのは残念である。入場に時間がかかり、我々が着席したのは8時20分頃であったが、会場が暗転しコンサートが開始されたのは、予定時間から30分遅れた8時半であった。

 何と驚いたことに、ブライアンを含め、バンド全員がダークジャケットを羽織った姿で登場。さすがにネクタイはしていなかったが、ブライアンを含め全員短髪であることもあり、雰囲気は60年代米国の初期のロックンロール・バンドという感じである。中央にブライアン、それをギター、ベース、キーボード、ドラムの4人が支える。ネットによると、バンドの現在のメンバーは、ギターがキース・スコット、ドラムスがミッキー・カリー、ベースがノーム・フィッシャー、キーボードがガリー・ブレイト。彼はその長いキャリアのほぼ全てにおいて、レコーディング及びツアーのバンド・メンバーを変更していない」ということであるが、この日のメンバーがその通りであったかは、まだ確認できていない。

 演奏曲目は、1月16日のジャカルタでのセットリストがネットで公開されていたが、それと略同じであった。18曲目のみが、そのリストに入っていない唯一の曲であった。

(演奏曲目)
1. Do What Ya Gotta Do
2. Can't Stop This Thing We Started
3. Don't Even Try
4. Run to You
5. Go Down Rockin'
6. Heaven
7. Kids Wanna Rock
8. It's Only Love
9. This Time
10. You Belong to Me
11. Summer of '69
12. Here I Am (solo acoustic)
13. Let's Make a Night to Remember (solo acoustic)
14. When You're Gone (solo acoustic)
15. (Everything I Do) I Do It for You
16. If Ya Wanna Be Bad Ya Gotta Be Good
17. Back to You
18. Unknown
19. Somebody
20. Have You Ever Really Loved a Woman?
21. Please Forgive Me
22. 18 til I Die
23. The Only Thing That Looks Good on Me Is You
Encore:
24. Brand New Day
25. C'mon Everybody (Eddie Cochran cover)
26. All Shook Up (Elvis Presley cover)
27. She Knows Me (solo acoustic)
28. Straight From the Heart (solo acoustic)
29. All for Love (Bryan Adams, Rod Stewart & Sting cover) (solo acoustic)

 1曲目からアップテンポのロックンロール・ナンバーで会場は盛り上がる。私は彼の全ての曲を押さえている訳ではないが、それでも知らない曲もどこかで聴いたことがあるような感じにさせる。多くはシンプルなロックであるが、どの曲も印象的なフレーズを持っているのが、彼が長くやってこられた要因であろう。初期のヒットの4を終えたところで、最初のMCが入る。「シンガポールは1993年以来かな?」「今夜は長いショウになるぞ!」続いて演奏された5は、最新アルバムからの曲とのこと。しかし私にとってはやはり、6、8、9、そして11といったヒット曲が心地よい。8ではリードギターが、エンディングでややフリーフォーム的なソロを聴かせていた。

 12からブライアンはアコギに持ち替え、12はピアノとのデュオ、13、14は彼のみでの演奏。そしてバンド演奏に戻り、私のカラオケ・レパートリーでもある15。20年前のドイツでのライブでこれが演奏されたかは印象に残っていないが、これが聴けただけでも、この日のライブは満足できるものであった。

 「さあ皆で踊ろう」ということで始まったのが16。ドイツ公演の時は、一般観衆をステージに上げ踊らしていたが、この日は私たちの席のすぐ右前にいた白人3人娘が選ばれたらしく、演奏中、バックのスクリーンにその3人が映され、演奏終了後記念品が渡されていた。

 コンサートも終盤に差し掛かり、ヒット曲のオンパレードである。冒頭に述べたとおり、18だけ、持参したジャカルタのセットリストに入っていない曲。スタジオ録音ではパコ・デ・ルシアが伴奏した20、しっとり系バラードの21、彼のブレーク曲22、20年前のツアーのアルバムタイトル23等が続き、10時半にいったんメンステージが終わる。

 短時間で、またアンコールで登場するが、ここでの演奏もジャカルタのセットリストと同じである。25、26とエディー・コクランやプレスリーのオールド・ロックンロールが演奏されるが、これがまさに彼の原点なのであろう。そして26が終わったところでバンド・メンバーが引っ込み、ブライアンによりアコギのソロに移る。28ではハーモニカも加え、聴衆も参加させながら、29でこの日のステージを終えた。終演は10時50分。約2時間半の充実したライブであった。

 彼はヒット曲を量産しているが、基本的にはアップテンポのロック・ナンバーとバラードの2つのパターンのみで、夫々の曲がそれ程変化に富んでいる訳ではない。それでも其々の曲を楽しめるのは、やはりそのフレージングの巧みさと、それを能天気に楽しめるシンプルなリズム、そして出過ぎないがしっかり聴かせるサポート・バンドの力量の故であろう。スタジオだと時としてハスキーなダミ声に聴こえるブライアンのボーカルも、このライブではむしろ非常にクリアーな美声であった。60年代アメリカン・ロックンロールの正統な後継者としての彼のスタイルを堪能した一晩であった。

2017年1月21日 記

(追伸)
  
 週明け、1月23日のThe Straits Times にこの日のコンサート評が掲載されたので、簡単に紹介しておく。

 「Less talk, more rock」と題された記事は、まず、「当地で23年振りの彼のコンサートは、彼の歌がすぐにファンの心を掴むことができることを証明した」と始まっている。

 {ずいぶん長く来なかった。前回は、1994年を迎えようという大晦日の夜のコンサートだった。この日、55歳のカナダのロッカーは、集まった5500人の観衆に対し丁重で暖かく接していたが、他方でシンガポールとそこのファンに対し、少し親近感を欠いていたような雰囲気があった。彼の公演は、23年間離れていた友人との再会のようなものだった。そこでどのようにその友情を示せるのだろうか?

 昨年彼の同じツアーのニューキャッスル公演に参加した時、私(筆者)は、彼が英国のファンたちともっと多くを共有しているように感じた。そのショウで、彼は自分のカナダでの少年時代や、自分の子供、そして彼の歌の背景など多くを語っていた。この日は、こうしたおしゃべりは少なく、彼の1994年の経験を、「生涯最高の大晦日パーティーだった」と回想して、観客に感謝するくらいに留まった。

 そうは言っても彼は多忙だったのだ。13のスタジオ録音の作品を発表し、今回のツアーでも世界を飛び回っている。シンガポールの前にの水曜日はマニラで、そしてすぐに、翌日のマレーシアでのライブのために飛び立って行った。それでもこのコンサートは十分油が補給された機械のように滑らかなものだった。彼が登場するや否や多くの観衆は興奮し、ショウは30曲、2時間半続くことになった。6曲―You Belong To Me, Go Down Rockin’ , We Did It All, Don’t Even Try, Do What You Gotta Do, Brand New Day は、彼の最新アルバム Get Up からで、彼の特徴的なハスキーな声とクールなギターリフで演奏された。ひとつのハイライトは、彼がIf Ya Wanna Be Bad Ya Gotta Be を歌いながら、女性の観客に踊るよう招いた時だった。スポーティな女性が自信に溢れてその尻を揺する様子が、背後のジャンボスクリーンに映し出され、しばしの間、観客を釘付けにしたのであった。
 
 もちろん、1994年の公演でも披露された懐かしいナンバーーSummer 0f ’69, Please Forgive Me―も演奏され、この晩最大の歓声を受けていた。1980年のヒット Heaven では、女性客の叫びと男性客の騒ぎ声に迎えられ、彼らは携帯のライトで星の海を作った。彼は歌う必要なく、マイクを観客に向け、観客はすべての歌詞を覚えていることを示したのだった。分かっただろう、アダムス君、君の観客は君を愛している。君はもっと頻繁に戻ってこなければいけないんだ。次は、こんなに長く待たせることがないように!」

 スクリーンに映された女性客が“スポーティー”で踊りが官能的であったとはとても思えなかったが、まあ共感できる評ではある。

1月24日 記