アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−2020年)
Journey― Live in Singapore
日付:2017年2月10日         会場:Star Theatre 
 1月の2つのライブに続き、Journeyのシンガポール公演に参加した。

 このバンドは2013年3月に、Indoor Stadiumでのライブを見たので、この地では2回目である。前回のコンサートは、フィリピン人のArnel Pineda (以下「アーネル」。)が参加して初めてのシンガポール公演であった。そのアーネルは、確かに歌は上手いけれども、ステージを引っ張っていくカリスマ性を持つまでに至っていない、ということはその時の評に書いたとおりである。そして、「これはややアジア人蔑視になるのかもしれないが、他のメンバーと並ぶと圧倒的に小柄なアーネルがステージを駆け回り、ドラムの位置からジャンプしたりするのを見ていると、何か子供がはしゃいで跳ねまわっている姿を連想してしまったのである。その意味で、この日のコンサートでは、ニールのギターを筆頭に、バンドの演奏と過去の大ヒット曲のオン・パレードには満足したが、アーネルだけがやはりやや浮いていたように感じたのであった」というのがその時の正直な感想であった(別掲コンサート評参照)。それから約4年。私と同じ歳のNeal Schon(以下「ニール」)を含め、全員がまた年齢を重ねることになった。そしてアーネルのこのバンドのフロントとしての経験も、既に8年近くになった。彼らが、また前回とは違うステージを見せてくれるかどうか、というのが今回の大きな関心であった。因みに、今回のメンバーは、前述の二人に加え、ベースの Ross Valory(以下「ロス」)とキーボードの Jonathan Cain(以降「ジョナサン」)は変わっていないが、何とドラムに1980年代前半の黄金時代を支えたSteve Smith(以下「スティーブ」)が戻ってきたのである。2012年5月の上原ひろみのジャズトリオでも、彼女とベースのAnthony Jacksonと共に壮絶なバトルを繰り広げたこの熟練ドラマーが、ロック・バンドでどのようなプレーをするかも興味深々であった。

 今回の会場は、昨年Elton John公演で足を運んだ、勤務先至近のショッピング・センター(SC)に併設されているホール。エルトンの時と同様、SCで夕食を食べてから、会場に入った。この日の席(S$152)は、7階から10階まである会場の9階、但し位置は中央で、直前に予約をした割には、まあまあの席が取れたという感じ。それと言うのも、席から眺めていると、同じ階では、左右の脇に相当空席が目立っている。見下ろすアリーナ席はさすがにほとんど埋まってが、前回の彼らの公演のように、ほとんど一杯になっている、という感じはしない。4年振り、というのは、このバンドのシンガポールでのファン層を考えると、間がやや短く、希少価値が下がったのだろうか、等と考えている内に、8時20分、会場が暗転し、この日のライブが始まった。

 セッティングは、極めてシンプル。ステージ向かって左にキーボード、その横にベースとボーカル、そして右側にギター、後方の壇上にドラムという、前回同様のフォーマット。背後に、彼らのシンボルである羽を広げたカブトムシのオブジェが掲げられ、その左右にスクリーンが設置されている。

 当日の曲目については、ネットで公開されていたこの公演に先立つ日本での2月1日の大阪、そして6日の東京(日本武道館)でのセットリストと、11を除くと全く同じ。また4年前の公演とも比較すると、以下のとおりである。

(演奏曲目:●は、前回演奏曲)

1. Separate Ways (Worlds Apart) ●
2. Be Good to Yourself ●
3. Only the Young ●
4. Neal Schon Guitar Solo
5. Stone in Love ●
6. Any Way You Want It ●
7. Lights ●
8. Jonathan Cain Piano Solo
9. Open Arms ●
10. Who's Crying Now
11. After The Fall
12. Chain Reaction
13. La Do Da – Steve Smith Drum Solo
14. Neal Schon Guitar Solo - Wheel in the Sky ●
15. Faithfully ●
16. Don't Stop Believin' ●
Encore:
17. La Raza del Sol
18. Lovin', Touchin', Squeezin' ●
 
 前回同様、私のカラオケ定番でもある1、からのスタート。そして2、3とアップテンポのヒット曲が続く。ニールの鋭いけれども安定したフレージングは相変わらずで、最年長のロスはいつもの通り淡々と演奏を続ける。ジョナサンのキーボードも、前回同様、普段はあまり聴こえないが、時々重要なフレーズを挿入している。注目されたスティーブもまずはアップテンポのリズムを正確に刻んでいく。そしてアーネルのボーカルであるが、前回の評で、「オリジナルのスティーブや Steve Augeri ともまた少し違った声と歌唱スタイルを持っている」と書いたが、フロントマンとしての経験も長くなったことから、前回以上に安定した歌声を聴かせている。ただ、前回同様、短髪のアーネルは、どこにでもいるような東南アジアのお兄ちゃんという感じで、オリジナルのスティーブが持っていたカリスマ性のようなものは、青変わらずあまり感じられない。しかし曲は良いので、それはあまり気にせずライブに集中できる。

 ヒット曲が3曲続いたところで、早速ニールのギター・ソロとなる。前回公演のソロと同様、轟音でコードを掻きならす中に早弾きフレーズを挿入していく、というスタイルである。私と同じ年齢の彼が、相変わらずこうした轟音のソロを繰り広げていることにやや羨望を覚える。そのままヒット曲の4、5に移っていくが、ここではジョナサンがキーボードからギターに持ち替え、サイド・ギターとしてニールをサポートすることになる。

 7のイントロで、もう一度ニールのやや長いギター・ソロ。7のテンポに合わせたスローなブルースのアドリブであるが、これはこのバンドがブレークする前の初期のブルーズバンドであった時代の演奏を髣髴させたことから、この時代の彼らが原点である私にとっては結構心地よい。

続いて、ジョナサンのキーボード・ソロから9へ。これも私のカラオケ定番であり、全編を携帯に録画したつもりであったが、帰宅後チェックすると、最初の部分だけで、録画に失敗していたのは残念。10は、前回は披露されなかった大ヒット曲。

 11は、日本公演のリストに入っていなかったので、あれっと思ったが、同時にアーネルではない欧米系の男が、キーボードを弾きながら歌っていた。紹介は行われたのだろうが、きちんと聞き取れず、いったい彼は誰だったのか、という疑問が残ることになった(その後、当日撮影した写真をよく見てみたら、ほとんどスポットライトはあたっていなかったが、どの写真にもこのキーボードを弾いている男が映っていた。正式メンバーとしては紹介されなかったサポートがいた、ということで、彼にもこの一曲だけ歌わせた、ということであろう)。12も、前回は披露されなかったヒット曲である。

 13では、それまでやや退屈そうに正確なリズムを刻んでいたスティーブがソロを聴かせる。前述のとおり、さすがに上原ひろみ等と、編拍子満々のジャズでのバトルを演じたドラマーだけあって、ソロはなかなか聴かせる内容であった。それまで溜まっていたうっぷんを晴らすかのような、時に力強く、また時にデリケートなソロであった。

 14は、再びニールのソロで始まるが、今回は最初は音を押さえながらエコーを多用したスペーシーな雰囲気で始まり、その後轟音で盛り上げた後、再び静かに終息していった。そのまま最後の3曲の大ヒット曲に移行していったのである。いつものように、会場全体のコーラスで包まれた後、メインステージは、10時前に終了する。

 直ちにアンコールで現れた彼らが、まず演奏した17は初めて聴く曲であったが、ボーカル・パートが終了すると、ニール、続いてジョナサンのハモンド風の音色による長いソロから、両者の短い掛け合いへと展開していく。スティーブの時折変拍子を加えたスパイスがプログレ的な雰囲気を醸し出し、「俺たちもまだこうした演奏ができるんだ!」と自己主張しているかのような演奏であった。折しも、1月終わりにJohn Wettonが癌で逝去し、ここのところUKやAsia等のCD、DVDに浸っていたこともあり、そうしたプログレ曲をライブで聴いているかのような錯覚に襲われたのであった。この曲が10分近く演奏された後、前回と同じ18でコンサートは終了。時間は10時20分。丁度2時間のコンサートであった。

 前回の評にも書いたように、やはりこのバンドの魅力は、ニールのギターを中心に、ロックの激しさと、曲のリリシズムが共存しているところにある。その意味では、相変わらずアーネルはやや他のメンバーから浮いている感じもしなくはなかったし、「シンガポール、シンガポール」と繰り返すMCも、今一つ盛り上がりに欠けた。しかし、それでも、これだけヒット曲を持っているバンドであるので、観客を盛り上げる術は心得ている。スティーブのドラムイングに再び接することができた、というのもこの日の大きな収穫であった。先日のMetallicaのライブのように、轟音が耳に残ることもなく、心地良く、週末の家路についたのであった。

2017年2月11日 記

(2017年2月13日 The Straits Times記事)

 「Heady journey to the past(過去へのわくわくさせる旅)」と題された記事は、「米国のベテラン・バンド、ジャーニーは、素晴らしいアンコールにとっておきの演奏を披露した」と始めている。

 スター劇場での2時間の公演のほとんどは、彼らのもっとも知られた1980年代の曲が中心であったが、とっておきの演奏はアンコールで披露された。彼らの最大のヒット曲Don’t Stop Believin’ への観客の興奮が冷めないまま、アンコールで登場したこのベテラン米国バンドは、この曲が収められている1981年発表の同じアルバム「Escape」からのあまり知られていないLa Raza Del Solの演奏を開始した。この演奏は、多くの観客を魅了したロマンチックなロックバラードに傾斜した時に、彼らが如何に自身の音楽的才能を抑制していたかを認識させた。陽気なラテンロックとジャズが、プログレッシブな基調の中で融合されたこの演奏は、彼らの原点である1970年代に遡るものであった。

 ギタリストでバンドの創設者、62歳のニール・ショーンは、サンフランシスコでこのバンドを結成する前は、ラテンロックの偶像、サンタナと活動していた。高速かつ正確な彼のギターでの巧みな切り込みは、キーボードで66歳のジョナサン・ケインとドラマー、スティブ・スミスー二人とも長い間のメンバーであるーの作るタイトなリズムに適合している。バンドの卓越した演奏力は、特にギターやドラムのソロで至る所で示されることになった。

 そうは言っても、公演での演奏曲のとんどは、観客のやや歳をとったファンが期待している作品であった。それらは、バンドをもっとも有名にした「Escape」とそれに続いた1983年の「Frontier」という2枚からの作品で、バラードである Faithfully、 Open Arms、 Who’s Crying Nowは、会場からの大きなコーラスで増幅された。

 ユーチューブでバンドのカバーを歌っていることから発見されたことが知られているフィリピン人歌手のアーネル・ピネダは、10年前にバンドに加わり、バンドのオリジナル・シンガーであるスティブ・ペリーのハイトーンを模しながら着実に実績を重ねてきた。49歳と、バンドで最も若い彼は、小柄なフロントマンであるが、バンドの最大のショウマンで、ステージで何度も跳ね上がっていた。公演のオープニングのSeparate Ways(Worlds Apart)で、音をはずしたが、続く1986年の「Raised On Radio」からの Be good To yourselfでは直ぐに回復した。但し、観客への語りは、一般的な「ありがとう、シンガポール。ハッピーかい?」といった叫び以外は、ほとんどなかった。観客に気さくに話していたのは、ショーンや、68歳のベーシストロス・バロリー、そしてケインで、彼らはいくつかの古典作品の裏のストーリーを語っていた。例えば、1978年の「Infinity」からのLightsは、彼らの故郷サンフランシスコへに捧げた曲で、ションがペリーと初めて書いた曲である、といったことである。

 彼らのバラード曲は、それ以外の主要なトップ10に入ったヒット曲と比べると地味であるが、気持ちを鼓舞させる作品である。それらは、彼らの音楽的技術の高さを隠してしまうが、それでも決してどちらも損ねるものではないのである。

2017年2月14日 追記