アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−2020年)
Joe Satriani - Surfing to Shockwave Tour
日付:2017年2月21日                 会場:Kallang Theatre 
 衝動的に、コンサートの2日前にチケットをとり参加したのは、米国のインストルメンタル・ギタリストの Joe Satriani(以下「ジョー」)のシンガポール・ライブである。

 このギタリストは、音源的にはCDは持っておらず、彼が主催しているG3という、インストルメンタルのギタリスト3人による映像を数枚保有しているだけである。それもあまり熱心なファンということではなく、競演している他のギタリストであるSteve Vaiなどへの関心から入手したものであるが、こちらにも持ってきていないので、事前に見ることもできない。そして実際にこれらのテクニカルなギタリストの映像は、ジャズ・サイドからのアプローチに比べると、今一つ曲としての特徴がなく、そもそも日本にいた時も繰り返し見る、ということはあまりなかった。ただ今回、彼のシンガポール公演が、相対的に狭いホールで開催されるということで、上記のとおり衝動的にチケットを入手したのである。会場のKallang Theatreは、先日 Metallica の公演で訪れた Indoor Stadiu mの隣にあるSC併設のホールで、ここを訪れるのは、私は初めてである。

 ネット情報によると、彼は1956年7月、米国ニューヨーク生まれということなので、ほぼ私と同年代で還暦を過ぎている。レコード・デビューは1989年であるが、それ以前はギター教師をしていたようで、G3で競演した Steve Vai や、先日見た Metallica のギタリスト Kirk Hammett なども、彼の教え子であるという。今回の公演は、2015年にリリースした彼の最新ソロCD「Shockwave Supernova」のツアーということで、アジアでは2月7日の大阪(なんばハッチ)から始まり、8日東京(中野サンプラザ)、10日ソウル、12日台北、14日上海、16日北京、19日バンコクと続き、当地が最終のようである。彼のように地味なギタリストでも、上海や北京でもニーズがある、というのは、やや意外である。

 当日、家から地下鉄で20分程度の会場に到着し、入り口でチケットを提示すると、横のカウンターに行けと指示された。理由が分からないまま、横に行くと、チケットに別の席を示すステッカーが貼られた。会場に入り、案内人にチケットを示すと、アリーナのステージに向かって右手半ばほどにある席を示された。私が直前に購入したS$112という最も安い席は、2階席であったはずだが、何とアップグレードされていたことに気がついた。アリーナの空席が目立つのを避けようという配慮と思われるが、まずはラッキーと心の中で叫んだのであった。こうして、定刻をやや過ぎた午後8時10分、ライブがスタートした。

 上記のとおり、私は彼の熱心なリスナーではないことから、演奏曲はほとんど興味がないが、ネットに直前の公演のセットリストが掲載されているので、それを記しておこう。バンコク、台北、ソウル、そして東京、すべて同じセットリストであるので、今日もおそらく同じだろうと考えていたところ、結果的にはそのとおりであった。

(演奏曲目)
1. Shockwave Supernova
2. Flying in a Blue Dream
3. Ice 9
4. Crystal Planet
5. On Peregrine Wings
6. Friends
7. If I Could Fly
8. Butterfly and Zebra
9. Cataclysmic
10. Summer Song
11. Drum Solo
12. Crazy Joey
13. Keyboard Solo
14. Luminous Flesh Giants
15. Always With Me, Always With You
16. Bass Solo + Rock Medley
17. God Is Crying
18. Crowd Chant
19. Satch Boogie
(アンコール)
20. Blues Jam
21. Big Bad Moon
22. Surfing With the Alien
23. Ending Jam

 会場が暗転すると、まず中央のスクリーンに、ポップアート的なイメージ・ビデオが映し出され、その後バンド・メンバーがステージに登場する。メンバーは、ジョー以外は、ネット情報によるとマルコ・ミネマン(Marco Minnemann):ドラムス(以下「マルコ」)、ブライアン・ベラー(Bryan Beller):ベース(以下「ブライアン」)、マイク・ケネリー(Mike Keneally):キーボード、ギター(以下「マイク」)という4人編成である。ジョーは、スキンヘッドにお決まりのサングラス、黒のTシャツ、パンツといういつものスタイルで、アップビートに乗せて、最初からギンギンと弾きまくる。サポートの3人の中では、マイクが、キーボードとギターを頻繁に持ち替えているのが目につく。1−3までいっきに演奏したところで、ジョーのMCが入り、メンバー紹介を経て、4ではジョーとマイクのギターバトルが繰り広げられる。マイクは、ロック・ミュージッシャンというより、どこにでもいるおっさんの風貌であるが、ギターの腕はなかなかで、G3でそれこそ有名ギタリストと競演してきたジョーをもってしても、一目置く存在であることは明らかである。7では、そのマイクが結構長いギターソロをとり、その後ジョーとの激しい掛け合いに移っていった。

 8では、珍しくドラムが入らず、ギター、ベース、キーボードだけで、スローでメロディアスな演奏が披露されたが、9,10と再びスピードが上がり、11のドラム・ソロに入っていく。まあ、このドラム・ソロは、それなりのテクニックは見せたが一般的なもの。また13ではマイクがキーボードのソロを聴かせるが、こちらも2台のキーボードを使った効果音的なソロであった。確かにギターとの二刀流なので、これでも良しとするかといった感じである。そして16のイントロでの短いベース・ソロから、まずジョーとベースの、続いてジョーとキーボードの掛け合いと、緊張感ある展開が続いていく。そしてこのあたりから、聴衆が席を離れてステージ前に動き始めたこともあり、私も久々の機会とばかりに、ステージ前に移動、その後はアンコールの二曲目まで、かぶりつきで彼らの演奏を楽しんだのであった。アンコールを含めて2時間強の演奏。最後は30分ほど立ち見をしていた感じであるが、むしろそれまで座っていたので、久々のスタンディングは心地よい時間であった。アンコールの最後は、また後ろのゆったりした空間に移り、10時20分の公演終了と共に飛び出し、11時前には帰宅した。この日は、先日のMetallicaのコンサート後のように、雨に降られることはなかった。

 実は、このライブの前日、予習を兼ねて、自宅でYou Tubeで彼の一時間程度のライブ映像を見ていたところ、途中で居眠りをしてしまった。ギター弾きまくりのジョーの演奏であるが、どの曲も同じような展開で、メロディー的にも変化に富んでいる訳ではない。更に、この日も、スローでメロディーを聴かせる作品も僅かはあったが、基本的にはアコースティックに持ち替えることもない。その辺りが、Pat MetheneyやAl Di Meolaあたりと比較して、今まであまりこのギタリストを聴き込まなかった理由であった。そしてこの日も、前日の経験から、もしかしたら、ライブの途中で居眠りをしてしまうのではないか、という懸念も抱いて会場に向かったのだった。

 確かに、この日も演奏はそれほど変化に富んでいた訳ではないが、一つには、背後のスクリーンでそれぞれの曲に応じたイメージ・ビデオが映し出されていたこと、そしてジョーとマイクのバトルを含め、それなりに緊張感に富んだ演奏が繰り広げられたこともあり、結構退屈せずに最後まで過ごすことができた。

 更に、この日は、会場で販売されていた彼が参加したG3の東京でのライブCDを初めて購入することになったが、シンガポールでは昨今CD店はほとんどなくなり、またあってもこうしたジャンルのCDを見つけるのは困難であることから、これは彼の音源を入手する貴重な機会であった。最近は就寝前は静かなジャズを聴くことが多かったが、この日だけは、帰宅後このエレキ弾きまくりのCDを聴きながら、それなりに心地よく眠りにつくことになった。その意味では、行く前に懸念したのとは反対に、いろいろな意味で期待以上に楽しめたライブであった。

2017年2月22日 記