アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−2020年)
Santana ― Transmogrify Tour
日付:2017年4月4日                                                                  会場:Suntec Convention Centre 
 年初の4連荘から一服した後、今年4本目のライブは、サンタナの「Transmogrify Tour」と名打ったコンサートである。シンガポールでの彼の前回のライブは、2011年3月7日。忘れもしない、東日本大震災の直前で、このコンサート評を書いていたまさにその時、この震災が日本を襲ったのだった(別掲「シンガポール音楽日記、2011年参照」)。それから6年、彼も今や69歳となった。しかし、最近の活動を見ると、まだまだ現役バリバリである。「Transmogrify」というのは聞き慣れない単語であるが、「(奇怪な姿・性格に)変わる・化ける」といった意味合いのようだ。69歳の彼が、どのように化けるのか?

 会場は、昨年Deaf Leppard、Scorpions、そして今年に入ってからのBryan Adamsのライブが行われたSuntec Convention Centre。今回の公演は、4月のアジア・オセアニア・ツアーの皮切りのようで、彼の公式ウェブサイトによるとシンガポールの後は豪州で、パース、メルボルン、シドニー、キャンベラ等を回り、何故か4月22日、盛岡に跳ぶ。そして24日大阪、25日名古屋、27日東京(武道館)を経て、30日にホノルル。それから11月半ばまで、米国各地でのスケジュールが組まれている。日本の4公演を除くと、アジアはシンガポールだけ、というのはやや不思議ではある。

 同じサイトによると、昨年の10月に米国でのライブCD/DVDが発売されたとのことであるが、このライブでは、初期のメンバー(Neal Schon / Gregg Rolie / Michael Shrieve / Michael Carabello)が集結したという。さすがに今回のアジア・ツアーでこうしたメンバーが参加することは期待できないが、決して同窓会バンドではない現役バンドであるので、その質は十分に期待できる。
まずは、公演前の当地新聞に「ビヨンセやアデルと競演。もちろん」という記事が掲載されたので、これをさっと見ておこう。

(The Strait Times、3月22日付)

 ギター・リジェンドのカルロス・サンタナは、先月のグラミー賞の場で、「アデルと比べると、ビヨンセは歌手とは言えない」と発言し集中砲火を浴びた。しかし、本紙との電話インタビューで彼は、これは趣旨が誤って伝えられたもので、彼は二人を差別している訳ではない、どちらとも喜んで競演すると、この10回のグラミー賞を受賞した69歳のギタリストは答えている。

 その彼は4月4日に、4年振りにシンガポールでライブを行う。50年に渡って活動している現在も、彼は新しい作品を次々に発表している。そして今回のツアーでは米国全土と日本、豪州を回り、また昨年は23枚目の作品になる「Santana W」という新作を発表、米国、英国、ドイツ、ニュージーランドでトップ10に入る売上げを記録している。彼は自分の音楽が単なる娯楽以上の使命(calling)を持っているので、いまだに聴衆を引き付けるのだという。
「音楽は水で、私はホース、人々は花のようなもの」と彼は言う。「私は、ボブ・マレーやジョン・レノンの音楽と一心同体になっている。私たちは、自分たちの音楽で、世界がより慈悲と思いやり、心使いと寛大に満ちたものになればと考えている。」メキシコで生まれ、1960年代に米国に移住した彼は、自分の名前を冠したバンドによるラテン・ロック、ジャズ、ブルース、アフリカン・リズムが混ざりあった音楽で、小さなクラブから始まり、伝説的な1969年のウッドストックへと登りつめていく。このウッドストック出演直後に発売された彼のデビューアルバムは全米4位に留まったが、続く2枚の「Abraxas (1970)」 と「SantanaV(1971)」は、続けて全米1位となり彼の評価を確立させた。

 その後数10年にわたり、彼はコンスタントに作品を発表し続けたが、彼が再評価されるのは1999年のSupernaturalを待たねばならなかった。この作品は世界のチャートのトップを占めただけでなく、「Album Of The Year」を含め、この年のグラミー賞の8部門を受賞することになる。Rob Thomas やThe Product G&Bと競演したこの作品は、世界で30百万枚を売上げ、ラテン・アーチストによる歴代最大のセールスとしてギネス・ブックにも認定されたのである。

 決して活動をスローダウンする兆しは見えないが、もしギターを放り出し、演奏を止めた時は、彼は精神活動に入りたいと言う。「私は、聖職者になり、”光の館 (Abode of Light)”という場所を持つだろう。そこは教会とは言えないが、あなた自身の尊厳、あなた自身の心に改めて灯りを差し出す場所だろう。」

 ということで、大昔に、John McLaughlinらとインド出身のヨガ指導者にして宗教家のスリ・チンモイ師に傾倒した頃と変わらない、半分宗教的な雰囲気を漂わせる彼のライブに、いつものとおり会場近所のレストランで、同行する友人と簡単な夕食を済ませてから出かけていったのである。今回もすべて着席席で、我々のS$143の席は、ステージに向かい正面右の略真横の位置である。Bryan Adamsの時とほぼ同じ位置であるが、値段は今回のほうがずっと安い。8時少し前に席に着いたが、最近の同じ会場での幾つかのライブと比較するとやや客の入りが少ない感じであり、私の横の5−6席も、結局コンサート終了まで空いたままであった。この週末の金曜日、土曜日にStadiumで行われたColdplayのライブが、2日間で10万枚のチケットを完売した、ということなので、サンタナは、やや当地では人気が下がってきているのかもしれない。そして、驚いたことにほぼ定刻8時丁度に会場が暗転しコンサートが開始された。


 現在のメンバーは、ネットによると以下のとおりであるが、当日のメンバーがどうなっているかは不明である。

Main lineup

• Carlos Santana – lead guitar, vocals, percussion (1966–present)
• Benny Rietveld – bass (1990–1992, 1997–present)
• Karl Perazzo – percussion (1991–present)
• Tony Lindsay – vocals (1991, 1995–2003, 2012–present)
• Ray Greene – vocals (2016–present)
• Andy Vargas – vocals (2000–present)
• Bill Ortiz – trumpet (2000–present)
• Jeff Cressman – trombone (2000–present)
• Tommy Anthony – rhythm guitar, vocals (2005–present)
• David K. Mathews – keyboards (2011–present)
• Paoli Mejías – percussion (2013–present)
• José "Pepe" Jimenez – drums (2014–present)

 直前の公演である2月4日のヒューストンでのセットリストがネットで公開されていたが、当日の演奏曲目は、それと部分的に異なっており、一部は認識できなかった。取りあえず分かった範囲で再現すると以下のとおりである。また前回2011年3月のコンサート時の演奏曲は●のとおりである。

(演奏曲目)

1. O Paradiso
2. People Are You Ready (General Echo cover)
3. Love Makes the World Go 'Round (Deon Jackson cover)
4. Corazón espinado (Santana feat. Maná cover)
5. Maria Maria ●
6.   Foo Foo
7. Shine
8. Incident at Neshabur ●
9. Jin-go-lo-ba (Babatunde Olatunji cover) ●
10. Evil Ways (Willie Bobo cover) ●
11. A Love Supreme (John Coltrane cover)
12. Orinoco Flow (Sail Away)
13. Keyboard solo→Bass solo→Guitar参加→She’s Not There
14. Papa Was A Rolling Stone
15. Samba pa ti
16. Toussaint L’Overture
17. Black Magic Woman/Gypsy Queen ●
18. Oye como va (Tito Puente cover) ●

Encore:

1. Soul Sacrifice ●
2. Smooth ●
3. Love, Peace and Happiness (The Chambers Brothers cover)

 冒頭から、アップテンポのラテン・ロックの炸裂である。最初の数曲は私の知らない曲が続くが、歌詞などから判断すると、持参した2月のヒューストンでのセットリストと同じ感じである。メンバーは、サンタナに加え、ギター、ベース、キーボード、ドラムに、パーカッション2名、ボーカル2名の総勢9名のバンドである。サンタナは、最近の定番であるダークカラーの帽子をまとい、聴き慣れたフレーズを連発していく。ボーカルの2名も、時折トランペットやトロンボーンを持ち、アクセントを加えていく。デビュー以来のこのバンドの売りであるパーカッションも、一人はコンガ、一人はスネアといういつもの布陣で、強力なリズムを作り出している。ドラムは、小柄の黒人女性であるが、彼女は、2011年のライブでは、一部だけ登場し、サンタナの奥さん、と紹介されたCindy Blackmanであるが、この日は、最後まで彼女が演奏することになる。途中のメンバー紹介で、ギターのTommy Anthonyと、キーボードの David K. Mathews は特定できたが、その他のメンバーが、上記のラインアップの誰であるかは分からないままである。

 Maria Maria あたりから、ようやく聴き慣れた曲が始まり、Incident at Neshabur 以降、個人的には一気に盛り上がる。前回は演奏されなかった コルトレーンの A Love Supreme は、今回事前に結構聴き込んで出かけた一曲である。この曲の終了と共に、サンタナによる「Love & Peace on Earth云々」という定番のメッセージが送られる。そしてこれ以降は、怒涛のエンディングに向かっていく。エンヤの Orinoco Flow、キーボード/ベースソロからサンタナのギターが加わり、She’s Not There に繋がっていく。抑えたキーボードから Papa Was A Rolling Stone が始まり、前回は演奏されなかった Samba pa ti や、 Toussaint L’Overture に続く。後者でのパーカッションは、DVD映像で見慣れているものであるが、ライブは更に素晴らしい。そして定番の2曲でメインが終了するが、直ちにアンコールが始まる。

 アンコールも、これまた定番のSoul Sacrifice。前回同様、ウッドストックの映像も挟みながら、後半Cindyのドラム・ソロに移っていく。前回の印象と同様、華奢な体格の割には頑張っているな、という感じではあるが、サンタナバンドのドラナーとしては、やや弱いのはしょうがない。ギャラを家族内に留めたくなったのかな、などと同行した友人とは話していた。そしてあと2曲が披露され、午後10時10分、2時間10分のコンサートが終了した。

 69歳のサンタナは、予想していた以上に元気であった。私が親しんだ、ほぼ半世紀以上前の曲のフレージングにも衰えはなく、むしろオリジナルよりも力強くなっているかのような印象さえ覚えたのである。そしていつもながらのラテン・リズムでの盛り上がりは、聴いている私のほうが、コンサートご疲労感が残るくらいであった。質的にサンタナが「化けた」とは感じられなかったが、これから豪州、日本、米国と延々と続くツアーをこなす体力があるということ自体を驚異的に感じた、この日のライブであった。

2017年4月5日 記