アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−2020年)
Richie Kotzen― Salting Earth World Tour 2017
日付:2017年8月21日                            会場:Esplanade Annex Studio 
 これも衝動的に、コンサートの数日前にチケットをとり参加したライブである。もともと当日夕刻、大使館主催の重要なレセプションがあり、こちらへの参加は難しいと諦めていたが、レセプションが午後6時には終了するということが直前に分かったことから、それでは8時開始のライブに間に合うということでチケットを取得した。しかし、その直前の週末はバンコクに滞在予定であったこともあり、バンコクからの帰途、近所のエージェント窓口で翌日のチケットを受取り、当日はレセプションから戻り着替えをして飛び出すという、やや慌しいスケジュールとなった。

 この米国人ギタリストは、私が持っている音源としては、同じフュージョン系の技巧派ギタリストである、Greg HoweとのデュオCD(「Tilt」,1995年)だけで、この作品が、完全なフュージョン系インストルメンタルであったことから、もともとこのギタリストは、今年2月にライブに参加したJoe Satrianiと同じタイプのギタリストだという先入観を持っていた。以前に、PoisonやMr.Bigにリード・ギタリストとして参加したり、Dream TheaterのMike Portney、Mr.BigのBillySheehanと一緒にWinery Dogsというスーパーバンドを結成したり、というのも、Joeとの近さを感じさせていた。

 ただ結果的には、上記の直前のスケジュールもあり、手持ちのCDもまったく聴かないまま、当日会場に出かけていった。会場は、Esplanade Annex Studio。シンガポールに来た直後に、Mike Sternのライブで、Esplanade Theatre Studioという会場に行ったことがあり、久方振りにここか、と思っていたが、それから8年の歳月を過ぎ、今回は以前と別の場所で、本来のホールの裏手にある建物の一階にあるライブハウスであった。開演の8時直前に会場に入り、全席立ち見S$118のチケットについているドリンク券でビールを飲みながら開演を待った。

 ネット情報によると、彼は1970年2月、米国フィラデルフィア生まれということなので、現在40台後半という年齢。レコード・デビューは1989年、19歳の時で、その後、上記のようにPoisonやMr.Big あるいはWinery Dogsなどで活動してきたが、結構癖がある男のようで、若い頃はそれぞれのバンドでいろいろトラブルがあったようである。ここ数年は、現在のメンバーで活動しているようで、今回は、最新作である「Salting Earth」(2017年)のツアーである。シンガポールの前は、8月14日に名古屋、15日に大阪、16日、17日に東京で公演しており、この後は、豪州ブリスベーンやメルボルンを回り、今月末からは、欧州でドイツ、フランス、英国、スペイン等に移動するようである。

 定刻8時を少し過ぎた8時15分、トリオがステージに現れ、ライブが始まった。

 上記のとおり、私は彼の熱心なリスナーではないことから、演奏曲名にはほとんど興味がないが、ネットに7月25日のメキシコでのセットリストが掲載されているので、参考までにそれを記しておこう。それと当日の演奏曲との関係は、まだ確認できていない。

(演奏曲目)
1. End of Earth
2. Socialite
3. Meds
4. Go Faster
5. Love Is Blind
6. Your Entertainer
7. My Rock
8. I Would  (acoustic)
9. High  (acoustic)
10. Doin' What the Devil Says to Do
11. Fear
12. Help Me
13. This is Life
14. You Can't Save Me

 まずはアップテンポのロックでの開始である。リッチー以外の二人の名前も、まだ確認できていないが、ベースとドラム、それぞれ若いサポートである。プリンスに傾倒しているということで、ライブの広告では彼に似た長髪の写真が使われていたが、登場したリッチーは、サポートの二人と同様、むしろ短髪である。そして、上記のとおり、私は自分の持っている唯一の音源から、インストルメンタル主体の演奏を予想していたが、一曲目から、彼のボーカルを主体とした楽曲で、彼のソロは、サビの部分で聞かせる程度である。しかし、さすがにそのソロは、なかなかシャープなフレーズが繰り出される。ドラムのタイトなリズムをバックに、何曲か進んだところで、リッチーは、ギターを肩から外し、Korgのエレピの前に座る。エレピがセットされていたので、誰が弾くのかな、と考えていたが、これもリッチーのレパートリーであった。もちろん、Chick CoreaやAlan Pasqua等のジャズの専門プレーヤーと比較すると見劣りするが、それでもボーカルの合間に早弾きのフレーズを聴かせる。ただやはり、こちらもボーカルが主体の楽曲である。そして今度はエレピから、アコースティック・ギターに持ち替える。

 アコギでは、スローな2曲が披露され、やはりリッチーの歌が中心であるが、ここでむしろ特筆されるのはアコースティックに持ち替えたベースのソロである。サビで、まずは弓でのソロから始め、続けて指での早弾きソロに移っていく。ロックというよりも、ジャズに近いソロである。やはりこの手の実力者は米国の巷には溢れているのだろう。他方、アコギでのリッチーのソロは、期待していたがまったく披露されなかった。

 アコギの2曲では、ドラマーは、四角いリズム・マシーンで、静かなリズムのサポートだけをやっていたが、続けて彼のソロに移る。まずはリズム・マシーンで、指先を使ってのラテン的なソロを聴かせ、その後ドラムに戻り、力強いソロを叩き出す。ただこれといった特徴はない。

 ドラム・ソロが終わり、リッチーらがステージに戻り、また通常のアップテンポのロック。まずはリッチーはエレピから始め、曲の途中でギターに持ち替え、盛り上げていく。そしてこれがメインステージの最後であった。そして短いインターバルで再びアンコールで登場し、やはりボーカルとサビのギターソロを交えた2曲が演奏され、そして最終的にこの日の公演が終了したのは9時55分、約1時間40分のステージであった。結局、この日の演奏は、すべてボーカル物で、インストルメンタルは一曲もなかった。

 終了後、会場前の停留所からバスに飛乗り、15分後には既に家に帰り着いた。

 ライブ後に、ようやくYouTubeでの彼の2015年のライブ映像やネットでのCD評・投稿などをさっと眺めることができた。まず2015年のライブは、まさにこの日と同じメンバー二人とのもので、まだ彼が長髪であったことを除けば、内容的にはこの日のライブと同じ感じである。またネット投稿の多くで触れられていたが、彼はMr.BigやWinery Dogsでもボーカルをとっており、彼の歌も結構評価されている。確かに、この日も、時折混じる裏声を含め、時として結構セクシーなボーカルを聴かせていた。ただそのあたりは私の先入観によるのだろうが、もう少し緊張感のあるインストルメンタルを聴かせて欲しかったな、という感覚は拭えなかった。やはりボーカル物の場合は、そのメロディーにどれだけ親しみがあるかで、ライブの印象が異なってしまう。Mr.Bigに在籍していたということで、例えばアコギに持ち替えた時は、ふと「To Be With You」をやらないかな、などと期待してしまったのである。しかし、実際は、すべて私が初めて聴く曲であったことから、なかなか印象が残ることがなかった。ただ、周りの聴衆は、時々声を合わせて歌っていたので、それなりのファンには知られた曲もあったのだろう。

 そんなことで、久し振りの立ち見ライブ、しかも狭いホールでのほとんどかぶり付きでのカタルシスであったが、予習不足で、残念ながら思ったほどは楽しめなかった。この週末は、もう一度上記のYouTube上の2015年ライブなどをゆっくり眺めてみようと思う。
彼が一時在籍したMr.Bigも、10月に当地でのライブが予定されている。こちらはきちんと予習してから参加しようと考えている。

2017年8月23日 記