アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−2020年)
Extreme - Asia Tour 2018
日付:2018年6月11日                                             会場:Zepp@BIGBOX 
 1985年にデビューした米国ハードロック・バンドのシンガポール公演。このバンドは、かつて「More Than Words」というバラードが、ヒットチャートを賑わしたことで名前を知ることになったが、音源としては、その後、レンタルショップで借りたベストアルバムを一枚聴いた程度で、私はあまり熱心なリスナーであった訳ではない。しかし、今回、しばらくロック系のライブがなかったこともあり、衝動的にチケットを購入することになった。

 ネットでこのバンドの来歴を調べてみると、1985年にボーカルのゲイリー・シェローン(以下「ゲイリー」)とギターのヌーノ・ベッテンコート(以下「ヌーノ」)らで結成された後、1989年5月にデビューアルバムを発表。続いて1990年の第2作「Pornograffitti」からのアコースティック・バラード「More Than Words」が、ビルボードの全米1位を獲得しブレイクするが、基本的にはハード・メタル系のバンドである。その後、1992年の Queen、Freddie Marcury の追悼公演で、延べ11曲のメドレーを聴かせるなどで話題を集めるが、1995年発表の4作目「Waiting For The Punchline」を最後に、事実上解散。ゲイリーは、一時 Van Halenに参加したり、ヌーノはソロ作品を発表するなどしていたようである。そしてその後、彼らとベースのパット・バッジャー(以下「パット」)で2008年に再結成され、現在に至っている。ということで、今回のメンバーは

・ゲイリー・シェローン(Gary cherone) ヴォーカル (1985- )   
・ヌーノ・ベッテンコート(Nuno Bettencourt) ギター (1985- ) 
・パット・バッジャー(Pat Badgerベース (1986- )
・ケヴィン・フィグェリド(Kevin Figueiredo)ドラム (2007- )(以下「ケヴィ
 ン」)

となっている。ドラムのケヴィンだけが、最近の参加ということになる。

 今回の会場は、先日参加した Dream Theatr e公演と同じ、Zepp@BIGBOX。勤務先から地下鉄で3駅の Juron East にあるライブ・スペースである。折から、当地では米国トランプ大統領と北朝鮮金正恩委員長の首脳会談を翌日に控えたタイミングであるが、それは忘れ、夕刻軽く食事を済ませてから、会場に向かった。公演前の予習は、YouTube にあった2018年のシドニー公演のフル・コンサートの映像である。因みに、今回の彼らのアジア・ツアーは、6月1日の豪州ブリスベーンから開始され、3日シドニー、6日メルボルン、7日アデレード、8日パース、10日クアラルンプールを経て当地に入っており、その後は13日バンコクと続いている。ということは、YouTube の映像は、約一週間前の映像ということになる。それが早々にアップロードされているというのも、驚くばかりである。

 今回は Dream Theatre と同様全席立ち見の、S$102のチケットであるが、やはり認知度の差であろうか、Dream Theatre に比較すると、狭いスペースで、開演予定の8時半直前に会場に入ったが、まだ観客はまばら。昔オーチャドのライブ・ハウスで見た、日本人女学生ロックバンド Scandal よりも観客数は少ない、という感じである。しかし Dream Theatre や Scandalの立ち見は、前と後ろのスペースで2段階の値段設定になっていたが、今回はそれがない。従って間近で見ることができる、ということでもある。しかし、月曜日から立ち続けるのも厳しいので、まずは後方で座って開演を待ち、8時40分、会場が暗転したのを受けて、前に位置を移した。

 今回のセットリストとしては、ネットに掲載されていた6日のメルボルン公演のリストを参考までに持っていったが、私が認知できた範囲ではほぼ同じ。違いは、唯一、アンコールでQueen の We Are The Champion が演奏されたことだけである。

(演奏曲目)

1. It ('s a Monster)
2. Li'l Jack Horny
3. Get the Funk Out
4. Rest in Peace
5. Hip Today
6. Play with Me
7. Tragic Comic
8. Hole Hearted
9. Midnight Express (Bon Joviの"Wanted Dead or Alive"挿入)
10. Cupid's Dead
11. Take Us Alive (That’s all Right挿入)
12. Am I Ever Gonna Change
13. More Than Words (Stairway to Heaven intro)
14. Flight of the Wounded Bumblebee
15. Decadence Dance
(アンコール)
16. We Are The Champion

 まずはアップテンポの1、でのオープニングからミディアム・テンポの2、ファンク・リズムでの3、と続いていくが、曲は、残念ながら私には馴染みはない。ただ、やはりYouTubeで見ていた映像のとおり、ヌーノのギタープレイは、先日見たDream TheatreのJohn PetrucciやMr.BigのPaul Gilbertに勝るとも劣らない早弾きで、テクニックをこれでもかと顕示している。ボーカルのゲイリーは、一時期Van Halenにも参加していたというだけに、激しくステージを動き回りながら、カリスマ的雰囲気を漂よわせている。やはり、これは、この二人のバンド、という感じであるが、Patも、太い音質のベースで支えている。冒頭は、やや単調な進行であるが、6のイントロで、新規加入のケヴィンと、ヌーノのパーカッションとの掛け合いが始まるころから、新鮮な展開に移行していく。

 7で、ヌーノが、ジャケットとカウボーイハットといういでたちに変身し、白いアコースティックギターに持ち替え登場。7,8、と続くバンドでの演奏から、ヌーノのソロでの9。ここではボン・ジョビの「Wanted Dead or Alive」等が挿入され、ヌーノの「俺の作品だったら良いのにね」というジョークで会場の笑いを誘うが、その後のソロは緊張感ある素晴らしい演奏であった。10から再びエレキでのハードな演奏になるが、11ではプレスリーの「That’s All Right, Mama」に移行して会場を盛り上げる。そして、ゲーリーとヌーノの二人となり、大ヒットの13。これも冒頭では、ヌーノが「Stairway to Heaven」のイントロで会場を沸かせるが、これも事前に見た映像の通りである。ヌーノの早弾きで始まる14から、アップテンポの15で一旦彼らはステージから下がる。メルボルンのセットリストは、ここまでであったが、彼らはアンコールで登場し、最後に Queen の16でこの日の公演を終えた。Freddie Marcury 追悼公演の11分の1が、この日のエンディングとなった。終了時間は10時15分。約1時間半の公演であった。

 基本的には、Mr.Big と同じスタイルのハード・メタル系のギターバンドであるが、やはり私にとっては Mr.Big 以上に曲を知らないことから、特にヌーノのギターテクニックを楽しむのが精一杯であった。ただ会場の狭さと観客の少なさから、彼らの迫力は間近で感じることができ、十分なカタルシスを感じた週明けの一夜となった。私が、やや疲弊して帰りの地下鉄に揺られていた頃、北朝鮮の代表が、突然夜の市内観光に出向いていたことを知ったのは翌朝のことであった。

2018年6月12日(シンガポールでの米朝会談の日に) 記