アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−2020年)
Judas Priest - Firepower 2018 with BABYMETAL
日付:2018年12月5日                                                            会場:Zepp@BIGBOX 
 1969年結成の英国のメタル・バンド、ジューダス・プリースト(以下、「JP」)が元気である。彼らは、今年初めに18作目の新作、「Firepower」をリリースしたが、これは米国ビルボードのアルバム・チャートで、彼らとしては最高の5位まで上り詰めたとのこと。69歳のリード・シンガー、「メタル・ゴッド」Rob Halfordに率いられたこのバンドは、2012年にもシンガポールで公演しているということであるが、今回はそれ以来6年振りの当地でのライブである。

 このバンドは、私は、ロンドン時代に、「Point of Entry(日本題:黄金のスペクトル),1981年」のアナログ版を、安売りで購入したが、丁度Whitesnakeのライブ経験等から、メタル系から距離を置き始めた時期だったこともあり、その単調なメタルに面白みを感じず、そのまま現在まで、ほとんど音源を聴くことがなかった。しかし、彼らはその間もメンバーを替えながら、3−4年毎に新作を出し続け、メタルの大御所として認知されてきたようである。ただ、それだけでは、私も今回の公演に行こうという気にはならなかっただろう。今回、直前まで悩んだ末に、最終的に、全席立見の内の安いスペースのチケット(S$118)を購入したのは、今回のツアーの前座が、日本のBABYMETALであったことが、その大きな要因であった。

 この日本の「可愛いメタル」グループは、ボーカルの中元すず香(SU-METAL)を核に、菊地最愛(MOAMETAL)、水野由結(YUIMETAL)の3人で2011年に結成された、アイドル+メタルというコンセプトでのグループであるが、その後レディ・ガガやレッド・ホット・チリペパーズなどの大物と競演したり、海外のロックフェスに出演したりと、世界的な知名度を高めている。そんなこともあり、音楽的には今一つではあるが、視覚的な面白さはあるので、せっかく当地に来るのであれば、話のネタにもなることもあり一回見ておこうということで、今回のチケットを購入したのであった。

 今回のJPのFirepower World Tourは、3月の米国、カナダを皮切りに、6月―8月は欧州各地、再び8月ー9月は米国、カナダに戻り、10月―11月は南米、そしてアジア・ツアーは、まず11月21日、札幌(Zepp)を皮切りに、23日、岐阜(多治見文化ホール)、25日、岡山(市民会館)、26日、大阪(グランド・キューブ)、28日、29日、東京(東京ドーム・シティ・ホール/武蔵野の森総合スポーツプラザ)と、日本で6回。続いて12月1日にソウル、3日、シンガポール、7日、ジャカルタとアジア3都市を回り、再び1月から欧州、3月に豪州とNZ、南アフリカで終了する長丁場である。


 ネット情報によると、現在のメンバーは以下のとおり。

• Rob Halford - vocals
• Andy Sneap - guitars
• Richie Faulkner - guitars
• Ian Hill - bass
• Scott Travis - drums

Guest Musician

• Glenn Tipton - guitars

 いうまでもなく、ボーカルのRob HalfordとベースのIan Hillが、古株で、それ以外は、バンドの長い歴史の中で参加してきたメンバーである。またゲストとして登録されているGlenn Tiptonは、古くからのメンバーではあるが、最近パーキンソン病を患っているということで、今回はゲスト扱いである。1年前に見たMr.Big公演でも、オリジナル・ドラマー、パット・トーペイがパーキンソン病ということで、一部だけの参加であったが、ロック・ミュージッシャンも、今やパーキンソン病など、数々の疾患を抱える年代になっているということであろう。

 今回の会場は、1年前のDream Theater以来、何度か行っているZepp@BIGBOX, Jurong Lake。事務所近所のレストランで同行者と待ち合わせて、夕食をとった後、地下鉄でJurong Eastに移動し、会場に入る。今回の同行者とは、偶々別々にチケットを手配していたのであるが、彼はS$158の高いスペース。私は、上記のとおり安いスペースということで、会場入り口で別れることになった。

 会場に入ったのはちょうど開演予定の8時の10分ほど前。安いスペースは、今までと異なり、ステージに向かって左側の一部のみで、それ以外の大部分はPAを含めた「VIP席」となっている。高い席との境界が横に長くあることを想定していたのであったが、やや残念。高いスペースも、例えばDream Theater等に比較すると、限られた広さになっていることから、多くの観衆で埋まってはいるが、人数はそれほど入っていない感じである。安いスペース正面の間仕切り前は、すでに多くの人で溢れているので、「VIP席」との境界の間仕切り横に落ち着いたところで、午後8時、直ちにBABYMETALが登場した。

 その前座の(しかし、個人的には今日のメインの)BABYMETALであるが、ネットによると、この公演の直前10月に、オリジナル・メンバーの水野由結(YUIMETAL)が脱退したとのことであったが、この日は補充メンバーが入ったのであろう、3人で登場。ギター2台、ベース、ドラムのサポート(相変わらず、妖怪風の化粧をした連中である)を受け、中元すず香(SU-METAL)のボーカルと、その他二人のダンスというパフォーマンスを繰り広げた。冒頭の「サクラ・サクラ」のイントロから始まり、基本的にはハードなメタル演奏をバックに、中元が、そのよく通るボーカルを聴かせる。歌詞はほとんど日本語のようであるが、ところどころしか聞き取れない。外人受けを狙っているのだろうか、時々日本の民謡風のフレーズをメタルにアレンジしている。途中、「メタル・ヒーロー」と聴こえたマーチ風の曲だけが、辛うじて歌詞が聴き取れた程度であったが、まあ歌詞の内容は他愛無いものであるので、どうでも良い。一気に35分のステージを終えたが、やはり視覚が主体のユニットなので、この日はやや見難く、個人的な盛り上がりは今一歩であった。

 セットの変更を兼ねた休憩に入る。一旦会場の外に出て一服してから午後9時前にスペースに戻るが、その時、「開演まであと15分」とのアナウンスがあり、結局JPが登場したのは9時15分頃であった。前半占めていた場所は、既に取られていたこと、また前に大男が多くいたこともあり、今回はスペース最後部の間仕切り沿いに位置をとった。

 今回のJPのツアーについては、ネットで、直前の東京2回とソウルでのセットリストが公開されているが、それらは全て同じ構成となっている。前週末、今年夏のブタペスト公演の映像などをYouTubeで眺めて予習をしていたが、JPの個々の作品は、ほとんど頭に入っていないことから、当日も、このリストを手元でチェックしながら観ることになったが、私の感じでは、この日の演奏曲も、これと全く同じであった。

(演奏曲目)

1. Firepower
2. Running Wild
3. Grinder
4. Sinner
5. The Ripper
6. Lightning Strike
7. Desert Plains
8. No Surrender
9. Turbo Lover (1986)
10. The Green Manalishi (With the Two Prong Crown) (Fleetwood Mac cover)
11. Night Comes Down
12. Rising From Ruins
13. Freewheel Burning
14. You've Got Another Thing Comin'
15. Hell Bent for Leather
16. Painkiller (1990)

(Encore)

17. Metal Gods (with Glenn Tipton)
18. Breaking the Law (with Glenn Tipton) (1980)
19. Living After Midnight (with Glenn Tipton)

 JPの音楽は、兎に角シンプルなハード・メタルであり、それほど個々の曲に特徴がある訳ではない。ボーカルの「Metal God」こと、スキンヘッドのRob Halford(以下「ロブ」)を核に、ギター2台、ベース、ドラムの5人。ギターは、事前の映像でも見ていたが、二人ともフライングVを使用。最新作のタイトル曲から始まり、次々とハードな曲が繰り出される。ロブのボーカルは、シャウトを含め、声はそこそこ出ており観衆を引っ張るが、動きはやはり69歳とあって、ステージをフラフラと歩き回る程度。時折、舞台横に入り、上着だけ、銀ラメや黒ジャンなどに着替えている。背後のスクリーンに、曲のイメージで作成された映像が映し出されることから、手元のセットリスト上の曲を確認することができる。数曲進んだところで、同じ間仕切り沿いにいた連中が、間仕切りの上によじ登り、座って見始めたので、私もそれに倣うことにした。距離はあるが、それによって、前にいる大男たちに煩わされることな、ステージ全体を見渡すことができるようになった。以降、最後までその姿勢で過ごすことになったが、鉄の細い間仕切りに着席するので、バランス上あまり動くことはできず、おとなしく時間を送ることになった。

 午後10時半に、メインが終わるが、直ちにアンコールで登場。そこでまず3人目のギタリストにスポットライトが当たるが、彼が、冒頭に紹介したオリジナル・ギタリストのGlenn Tiptonである。同時に、ロブが、彼のステージ・アクションの定番であるハーレー・ダヴィッドソンのバイクでステージに登場。トリプル・ギターになって、アンコールの3曲が演奏される。Glenn Tiptonも、いくつかのソロを聴かせるが、先入観のせいか、まあご愛嬌のソロといったところであった。こうして全てのステージが終わったのは、11時少し前。同行の友人と会場出口前で合流し、駅前のSC、JEMのビストロでビールを一杯引っ掛けてから終電直前の地下鉄に乗り、家に帰り着いたのは、丁度時計が午前0時を回ったところであった。

 ロック系のライブは、今年6月のExtreme以来であったこともあり、あまり聴きこんだバンドではなかったが、それなりに楽しめたコンサートであった。久々の日系ユニットであるBABYMETALは、やや見難い位置ではあったことで、視覚的な楽しさは十分は享受できなかったが、JPは、それほど音の洪水ということもなく、適度なカタルシスとなった。基本的にメタル系のバンドのライブであっても、シンガポール人の反応はおとなしく、事務所帰りでも、気楽に参加することができるのは、この地にいることのメリットである。「Metal God」ことロブも、そろそろ限界に近いという感じもあったが、それでも若いサポートメンバーと共に、必死でがんばっているのを見ると元気つけられる。今のところ、次のライブ予定はないが、またこの手のバンドであっても、機会があれば参加したいと思うのであった。

2018年12月5日 記