ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
Loudness-Live in Singapore
日付:2019年6月16日 場所:The Pavilion
日本のハード・ヘヴィーメタルの先駆けであるラウドネスのシンガポール・ライブに出かけていった。
このバンドは、80年台、私がロンドンに滞在していた頃、毎週のように眺めていたイベント雑誌「Time Out」で、若きE.クラプトンやJ.ベック等が頻繁にライブを行っていた市内のMarqueeというクラブで英国にデビューすることが報じられていた。私は、その頃、このバンドについては何も知らなかったが、今や日本のロックバンドも英国に進出することになったのか、という感慨を抱いたものだった。しかし、理由は忘れてしまったが、公演自体には行くことはなかった。そしてその後の歳月、このバンドについて情報が入ってくることはほとんどないままであった。
そんなバンドが、ここシンガポールでライブを行う、ということを知ったのは、いつもチェックしているイベント予約サイト「SISTIC」を通じてであった。それによると、今回のツアーは新作「Rise to Glory」を引っさげてのアジア公演ということであった。ネットで最近の彼らのライブ活動を見てみると、今回のツアーは、5月4日のメルボルンから始まり、シドニー(5/10)、ブリスベン(5/11)を経て日本に戻り、大阪(5/17)から広島(5/18)、福岡(5/20)、仙台(5/24)、札幌(5/26)、そして東京(Zepp、5/31)と回っている。そして直前は、6月15日の台北を経て、この日のシンガポールということになる。まだこのバンドは現役で活動しているのか、そうであれば久々にハード・ヘビメタ系の生に接するのも悪くないということで、日曜日の夜、会場であるThe Pavilionに出かけていった。この会場は、今年2月に、ピンクフロイドの地元カバーバンドを聴きにいったところである。今回のチケットは全席立ち見、S$84である。
ネット情報によると、このバンドはもともとは、1981年、元々はアイドル・バンドであったレイジー(そんなバンドがTVに出ていた記憶がある)の高崎晃(ギター)と樋口宗孝(ドラム)により結成され、現在のメンバーは、二井原実(ボーカル)、高崎晃(ギター)、山下昌良(ベース)、鈴木政行(ドラム)の4人。メンバーチェンジを経ながらも活動を継続し、現在までに27枚のオリジナル・アルバムを発表してきているという(ネットには結構このバンドの情報が溢れているが、それは省略)。最近では、2017年に、シンガポール、タイ、マレーシアでライブを行い、特にマレーシアでは結構熱狂的なファンに迎えられたとの、メンバーによるインタビュー等もネットには掲載されている。
日曜日午後の定例テニスから戻りシャワーを浴びて直ぐに飛び出し、地下鉄で移動。会場近くのTerok Ayerにあるバーレストランで、同行する友人とビ−ルと摘みで軽い夕食を済ませてから、8時丁度に会場に入る。2月のライブの時と同じ程度の観客(200-300人程度?)であるが、ステージに近いスペースは埋まっているので、ステージに向かいやや右の後方に落ち着いたところ、直ぐにライブが始まった。
今回は、少し前にYouTubeで、このバンドの若干の最近の画像を眺めただけで、余り予習はしていない。また27作あるというこのバンドの音源も持っている訳ではないので、曲にもほとんど馴染みがない。ただ兎に角メタルの音でカタルシスを感じられれば良い、という程度の乗りである。ただ。直前の台北ライブのセットリストはネットに掲載されていたので、それは持っていったが、結果的には、当日の演奏は、それとまったく同じであった。
(演奏曲)
1. Soul on Fire
2. I'm Still Alive
3. Crazy Nights
4. Like Hell
5. Heavy Chains
6. The Sun Will Rise Again
7. Go For Broke
8. Until I See The Light
9. Kama Sutra
10. Drum Solo
11. In My Dreams
12. Ares' Lament
13. This Lonely Heart
14. Crazy Doctor
15. In the Mirror
16. S.D.I.
オープニングから4、まではハードメタルのロックが続く。ドラムとベースによるしっかりしたリズムに乗せて、英語によるハイトーンのボーカルと、鋭いメタル系のギターソロが被さる、典型的なメタル・ロックであるが、音は意外と大きくない。ネットでは、かつて、富士急ハイランドで野外ライブを行った際に、結構離れた場所の住民から苦情が来た、という話も紹介されていたが、かつてロンドンで体験したUFOのライブの轟音とは比較にならないほど大人しい。またおそらく年齢は私よりも上だと思うので、外見はかつてのアイドル・バンドの面影など微塵たりともない叔父さんバンドであるが、演奏やPAはしっかりしているので、私でもついていける。4、は、ややスローなイントロから始まったが、やはり後半はハードに展開していく。夫々の曲は、私は馴染みはないが、歌詞は簡単な英語で、かつタイトルが必ず入っているので、セットリストで確認ができる。演奏が終了すると、ボーカルが毎回「Thank you, Singapore, ありがとう!」と叫ぶのはご愛嬌。アップテンポのロックが続き、9、ではギターソロ中心のインストゥルメンタル、そしてそのまま10、のドラム・ソロに移る。12、のスローバラードでは、ボーカルが「Let’s sing together!」を叫ぶと、周囲の観衆が一緒に歌い始めたので、それなりに知られている曲なのであろう。13、が終わったところで、メンバー紹介。二井原実(ボーカル)、高崎晃(ギター)、山下昌良(ベース)はオリジナル・メンバーであるが、ドラムは、「本来のメンバーが病気で参加できず、替りに西田竜一」、と紹介されていた。「替り、というのは英語で何と言うんだっけ・・。いずれにしろ西田なしでは、我々はやっていけないんだ」という二井原のコメントにはやや苦笑。そして始まった15、では、ふっと気がついたら、彼はこの日初めて日本語で歌っていた。「今晩の最後の曲だ」ということで、こちらも一部日本語が混じった16、が演奏され、ライブが終了したのは9時40分。アンコールはない、1時間40分のコンサートであった。
こうした日本のハード・メタルバンドが、40年にもわたり続けてこられた、というのは、それなりに素晴らしいことである。ベテランらしく演奏の水準も高く、シンガポール人中心の観衆にもそれなりに受けていた(さすがに欧米系の観客は少なかった)。ただ、友人との昼食から始まり、テニスからこの立ち見ライブと続いたこの日曜日の最後は疲労困憊の状態であった。かつて、30歳代の初めのロンドン時代に、ホワイトスネークのライブで、「もうハード・メタルの歳ではない」と感じてから30数年。いまだに時々こうしたライブに行きたい衝動を感じるのは困った性癖であるが、これからは体力との勝負だな、と痛感した週末であった。
2019年6月18日 記