アジア・ドイツ読書日誌と
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日誌
ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
第五部:シンガポール編 (2008−2020年)
Whitesnake / Scorpions― Singapore Rockfest U
日付:2020年3月5日                                                                     会場:The Star Theatre 
 過去に夫々一回ずつ、こちらで参加した「ハードロック」古参バンドが、ジョイント・ライブをやることになった。折からの新型肺炎騒ぎの中、週初の Pat Metheny に続く、今週2つ目のライブで、流石にやややり過ぎと感じるのは否定できない。しかも、このライブは、当初は、1日早い3月4日に、私の自宅から至近の Fort Cunning Park で、オープンエア(立ち見)で開催される予定であったが、何故か直前に、開催日が1日遅れただけでなく、会場が、私の勤務地に近い、インドアの劇場に変更になってしまった。アウトドアよりも感染リスクの高いインドアになった理由は不明であるが、チケットを無駄にしたくないという貧乏根性から、リスク覚悟で参加することにした。チケットは、そのまま当初のものが使えるということであるが、変更後の会場は、普通に席が用意されている(ここでは以前に Journey や Elton John 他を着席で見ている)。そのまま立ち見チケットが使えるというのは、席を全部外すのだろうか?

 当日のスケジュールは、まず6時半から、Rock Weller というシンガポールのローカル・バンドが前座を務め、その後7時半から Whitesnake、9時半から Scorpions というプログラムになっている。

 さて、まず Whitesnake であるが、前回は、2011年11月、今回当初予定されていた Fort Cunning Park のオープンエアで見ている(別掲参照)。彼らのライブは、この時が、1984年のロンドン公演以来であったが、今回は、当地で9年振り2回目ということになる。前回は、Whitesnake としては11作目に当たる最新CD「Forevermore」のリリースに合わせたツアーであったが、今回は、それに続く9年振りのアルバムとして、昨年5月にリリースされた、「Fresh and Blood」のツアーである。前回は、その新作を購入し聴き込んだが、今回は、それは調達できないまま当日のライブに行くことになった。

 今回のメンバーは、デヴィッド・カバーデイルに加え、ギターがジョエル・ホークストラとレブ・ビーチ(前回も参加)、ベースがミヒャエル・デビン(前回も参加)、ドラムがトミー・アルドリッチ、キーボードがミケーレ・ルッピという編成であり、デヴィッドとレブ、ミヒャエル以外の3人は、メンバーが新しくなっている(ただその後チェックした、2005年のライブDVDでは、トミーがドラムを叩いているので、出戻ったということであろうか?)。

 次にScorpionsであるが、こちらは2016年10月に、Suntec Convention Centre での公演で、初めてのライブに接している(別掲参照)。その際の評にも書いた通り、私はあまり関心がなかったバンドであることから、この公演時に、実質初めて彼らのベスト・アルバムを聴きこんだくらいであった。それから約3年半、2回目の参加である。今回のメンバーは、前回と全く同じ以下の面々である。

• クラウス・マイネ Klaus Meine – ヴォーカル (1969- )
• マティアス・ヤプス Matthias Jabs - リードギター (1978- )
• ルドルフ・シェンカー Rudolf Schenker - リズムギター (1965- )
• パウエル・マキオダ Paweł Mąciwoda - ベース (2004- )
• ミッキー・ディー Mikkey Dee - ドラムス (2016- )
 
 今回の会場は、前述のとおり当初予定の Fort Cunning Park のオープンエアが、The Star Theatre のインドアに変更となっている。会場下のレストランで、当日同行する友人の友人も加えた20人位程と合流し、前座は無視して、ビールと軽食をとった後、7時15分に店を出て、階を上がり会場に入る。入り口では、今回は体温チェックもなく、案内係に指示されたとおり会場に入る(その際、ショップで Whitesnake のCDを販売していたので、衝動的に2005-2006年頃のライブを収録した2枚組をS$25で購入した)と、何とそこは、席はそのままで、当初のチケットの値段(私はS$162のチケット)に合わせたブロック毎のシッティングであった。長時間のライブで、立ち見は厳しいなあ、と考えていたので、ほっとしつつ、ステージを向かって右側に見下ろす位置(2階)に席をとった。ステージのセッティングは既に完了している。

 7時45分、前回同様、The Who の My Generation のBGMが最高潮に達したところで、会場が暗転し、Whitesnake のステージが開始された。当日のセットリストは、2月26日のシドニー公演がネットで公開されていたが、それと全く同じであった。この内、前回も演奏されたのは、@BJKLMNの7曲である。

(演奏曲)

@ Bad Boys (with "Children of the Night" snippet) (Whitesnake, 1987)
A Slide It In (Slide it in,1984)
B Love Ain't No Stranger (Slide It In, 1984)
C Hey You (You Make Me Rock) (Fresh and Blood,2019)
D Slow an' Easy (Slide It In, 1984)
E Ain't No Love in the Heart of the City (Whitesnake,1978)
F Trouble Is Your Middle Name (Fresh and Blood,2019)
G Guitar Duel (with "Waltzing Matilda" snippet)
H Shut Up & Kiss Me (Fresh and Blood,2019)
I Drum Solo
J Is This Love (Whitesnake, 1987)
K Fool for Your Loving (Ready An’Willing,1980)
L Give Me All Your Love (Whitesnake, 1987)
M Here I Go Again (Saint & Sinners,1982/ Whitesnake, 1987)
N Still of the Night (Whitesnake, 1987

 選曲はいつもの通りであり、最新作から演奏された3曲以外は、なじみの曲である。冒頭から、デヴィッドを含め、全員アクセル全開である。特にデヴィッドは、9年前の公演時に60歳になったばかりということであったので、現在は68歳。私より3歳上であるが、9年前と全く変わっていない外見に加え、声も十分に出ている。まさにメタルの怪物である。そしてサポートも、抜群のテクニックとメタル的外見で楽しませてくれる。今回初めて聴く、ギターのジョエルは、前回のギタリストであるダグ・アルドリッチと、ギタータッチも外見も似通っている。もう一人のギタリストのレブは、前回のみならず、私が持っている2004年ロンドン公演のDVDでも参加している古株である。途中で行われたメンバー紹介で、デヴィッドから「バンド・リーダー」として紹介されていたので、デヴィッドの信頼が厚いのであろう。Gでの二人のギタリストの掛け合いは、一部エディ・バンヘーレンの Eruption を思わせる奏法やジミヘンのフレーズ等が垣間見られたので、やはりこうした連中の影響が強いのであろう。やや不満足であったのは、イタリア人キーボード奏者ミケーレのソロがほとんどなかったこと。前回は、Deep Purple 時代の Burn 等も披露されたことから、キーボード・ソロも聴けたが、今回はそれがなかったことも理由であったのだろう。

 いずれにしろ、ドラム・ソロも挟みながら、後半はヒット曲オンパレードの1時間半の十分満足できるライブであった。9時15分終了で、アンコールはなし。

 続いて、スコーピオンズである。Whitesnake 終了後、セッティングの変更が行われ、9時40分に彼らの演奏が開始された。こちらも、3月1日のインドネシア・ジョグヤカルタ公演のセットリストがネットで公開されており、当日の演奏もその通りであった。

(演奏曲目)

@ Going Out With a Bang
A Make It Real
B The Zoo
C Coast to Coast
D Top of the Bill / Steamrock Fever / Speedy's Coming / Catch Your Train
E We Built This House
F Delicate Dance  
G Send Me an Angel
H Wind of Change
I Tease Me Please Me
J Drum Solo (by Mikkey Dee)
K Blackout
L Big City Nights

(Encore):

M Still Loving You
N Rock You Like a Hurricane

 こちらも、オープニングから、ストレートなロックであるが、Whitesnake を聴いた後だと、やや軽いポップ的な感覚である。特にヴォーカルのクラウスが、デヴィッドと比較してしまうと、小柄で「とっちゃん坊や」的な外見と、澄んで通るけれどやや軽い声質から、ややカリスマ性に欠けてしまうのは否定できない。むしろCやFのインストが、最も聴きごたえがあったというのが正直なところである。選曲は、前回公演とFまでは全く同じ。その後は、一部を飛ばすが、その上で同じ順序で同じ選曲であったので、個々の演奏は、前回の評でカバーされていると思う。ベテラン・バンドであるので、安定した演奏で、ヒット曲で盛り上げるところはさすがではある。

 時間も11時に近くなり、着席ではあったが、さすがに疲労感が溜まってきた。アンコールも、セットリストによると、3曲中2曲が前回と同じであったこともあり、メイン・ステージが終わったところで、帰りの混雑でのロスタイムを避けるべく、また疲労が溜まると新型肺炎への感染リスクも高くなると思われたので、同行の友人に詫びた上で、アンコール前に会場を後にしたのであった。

 もちろんScorpions も、それなりに楽しめたが、やはり個人的には、この日のライブはWhitesnakeがメインであったのは否めない。終了後も、Whitesnake の前記 DVD や会場で購入したCD を聴き続け、改めて年齢を感じさせないデヴィッドのカリスマ性に浸ったのであった。次は70歳台になった彼のライブに参加することになるのだろうか!

2020年3月7日 記

(追記)

 3月9日(月)の当地新聞(The Straits Times)のこのライブについて、「Covid-19にも関わらず、ベテラン・ロッカーたちは燃え上がった」と題された評が掲載されたので、簡単に紹介しておく。

 記事は、「この地で行われたハードロック・バンド、WhitesnakeとScorpionsのジョイント・ライブは、演奏者とファンの確かな決意と持続力を示した」として、新型肺炎の影響でのコンサートの延期やキャンセルが続く中で、この2つのバンドのジョイント・ライブが予定通り行われたことを、「ほとんど超現実的」と称している。そして新型肺炎の拡大による管理上の問題から、日付や会場が変ったにもかかわらず、当日はほぼ会場一杯の5000人のファンが参加したという。またこのロックフェスティバルとしては、次に予定されていた米国のバンド、SlipknotとTriviumの公演が延期され、イタリアのバンドLacuna Coilがキャンセルをしたことから、唯一のイベントとなった。しかし、古いものではほとんど50年前に遡る彼らの歌と演奏に合わせて、拳を振り上げ、コーラスを歌う姿は、バンドとファンの確かな決意と持続力を示したのである。新型肺炎の世界的拡大に対する不安が、素晴らしいロックショウを損なうことはなかったのである。

 Whitesnake は、7時45分に登場し、1時間半の演奏を繰り広げた。68歳のボーカル、デヴィッド・カバーデイルは、何故彼が年齢を重ねながらも依然主要なロック・ボーカリストの一人であり続けているかを示すことになった。主として彼らの2つのアルバム、Slide It In (1984) とWhitesnake (1987) からの作品は、観客を熱狂させ、またBobby “Blue” Bland のカバー曲である Ain’t No Love In The Heart Of The City の終盤では、高音でのシャウトも依然問題ないことを披露した。もちろん、代表曲である、シンセがリードする Here I Go Again や、パワーバラード Is This Love、そしてドラマチックな Still Of The Nightやギター、ドラム・ソロは、ファンを魅了したのであった。

 これは単に懐古趣味のライブであった訳ではなく、昨年発表された彼らの13作目のアルバムからも何曲かが演奏された。それらは、まさにこのバンドの魅力―デヴィッドの歌に被さる他のメンバーによる4者の重厚なハーモニーーを踏襲した作品であった。

 Scorpionsもまた、1970年台の初期の作品から、1980年代のヒット曲、そして18作目となる最近のアルバム ”Return To Forever (2015)” からの作品を含め、1時間半のステージを披露した。彼らのミキシングは、Whitesnake ほどバランスが取れていなかったが、それにも関わらずこのベテラン・バンドは、十分油が生き渡った完璧な演奏を繰り広げた。ヴォーカルの Kraus Meine(71歳)は、時として弛緩することもあったが、とても数週間前に肝臓結石の緊急手術を受けたとは思えないパフォーマンスであった。またギタリストで、結成メンバーである Rudorf Shenker(71歳)の演奏も派手で、ある時はギターに仕組まれたスモークマシンの煙に包まれた。しかし、彼のプレイは決して気ままであった訳ではない。

 大ヒットバラードである Still Loving You、Send Me An Angel、Wind Of Change だけでなく、アップテンポのロック曲、 Blackout、Big City Night、Rock You Like A Hurricane でも、観客は一丸となってコーラスに加わったのだった。

 この Scorpions の演奏前に、内務省と保健省の上級議員である Amrin Amin が登場し、聴衆に向けて、彼は若い頃からこれらのバンドのファンであったと語った。彼は観客に向けて、重要なメッセージを告げたのだった。「Covid-19があろうとなかろうと、シンガポールでは人々の暮らしは続いていく」と。

 Scorpions の「とっちゃん坊や」的なヴォーカルが71歳と、デヴィッド・カバーデイルよりも更に3歳年長であることには正直びっくりした。併せて、セッティング中に現れた、誰だか分らなかった男が、まさに保健省も兼務する国会議員であったことも、この記事で初めて知ることになった。新型肺炎の感染拡大リスクもあるこうしたライブに議員が登場するというあたり、シンガポールがこの疫病対策にほぼ自信をもっていることの表れなのだろうか、と感じたのであった。

2020年3月10日 追記