ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
The CLASSIC TALES OF YES Tour 2024
日時:2024年9月16日 会場:人見記念講堂
丁度2年前の2020年9月に、日本に帰国して以来初のライブに参加したイエスが再び戻ってきた。2年前のライブの評で、「イエスのライブとしてはこれがおそらく最後の機会になるだろう」と書いたが、まだ彼らは健在であった。スティーブ・ハウ77歳。今回も、「おそらくこれが最後の機会だろう」と書かせて頂く。1989年のABWHロンドン公演を除くと、イエス名義のコンサ−トは、1974年の初来日時の渋谷公会堂、2003年9月の横浜公演、そして前回2022年9月のオーチャード・ホール以来、生涯4回目のライブである。
前回ツアー直前の2022年5月、アラン・ホワイトが死去。そしてその後2023年5月、最新作で通算23枚目の作品となる「MIRROR TO THE SKY」をリリースしたが、今回の来日メンバーは、前回と同じで、この作品の制作メンバーである以下の5人ということになる。
スティーブ・ハウ(G)
ジェフ・ダウンズ(Key)
ジョン・デイヴィソン(Vo)
ビリー・シャーウッド(B)
ジェイ・シェレン(Dr/Per)
その「MIRROR TO THE SKY」は、2021年発表の「THE QUEST」と同様、このバンドの基本路線を踏まえながらも、年齢相応の落ち着いた仕上がりになっており、もちろん悪くはない。ただ前回の評にも書いたが、やはり個人的にはこのバンドの核はジョン・アンダーソンのボーカルにあり、新曲であれば兎も角、かつての作品のカバーでは、代わりにボーカルを務めるジョン・デイヴィソンではどうしても違和感がある。そしてそのジョン・アンダーソン自身は、この7月に「Jon Anderson and the Band Geeks」名義で「TRUE」という最新CDをリリースすると共に米国中心にツアーを行っている。YouTubeには、このバンドでの2時間を超えるフル・コンサートの映像がアップされているが、こちらは相当良い出来であり、彼が来日していれば間違いなく参加しているが、彼の来日予定は現状全くないのは残念である。
今回の会場は昭和女子大学人見記念講堂、初めていく会場である。開場時間である16時に合わせて、初めて下車する三軒茶屋に向かった。駅から徒歩5分程度、国道246号線に面した大学の入り口に着くと講堂は直ぐである。既に入場中の人々で混雑しているが、前回同様、私の世代前後と思われる高年者がほとんどで、あまり若者の姿はない。一階中央39列の席に着くが、会場は思ったよりも大きく、ステージまではやや距離がある位置である。席は略満席である。
開演の定刻17:00ちょっと過ぎに会場が暗転し、5人が登場する。イントロには、恒例のストラビンスキーの「火の鳥」ではない、あまり聴いたことのないテープがかかっている。配置は、前回同様、左からスティーブ、やや後方に三方に置かれたキーボードを観客側に開いたジェフ、中央がジョン、やや後方にドラムのジェイ、そして右前にビリーという配置。機材は最小限、という感じで、シンプルなステージである。そして直ちに演奏が始まる。
当日の演奏曲目は、以下のとおりであった。
@ Machine Messiah ( Drama:1980)
A I’ve Seen All Good People ( The Yes Album:1971 )
B Going for the One ( Going For The One:1977 )
C America (Yesterdays:1974 )
D Time and a Word (Time and a Word : 1970)
E Turn of the Century ( Going For The One : 1977 )
F Siberian Khatru ( Close To The Edge : 1972)
(15 minutes Interval)
G South Side of the Sky (Fragile : 1971)
H Cut From the Stars (Mirror To The Sky : 2023 )
I “Tales from Topographic Oceans” Medley (Tales from Topographic Oceans : 1973 )
-The Revealing Science of God / Dance Of The Dawn
-The Remembering / Hight The Memory
-The Ancient / Giants Under The Sun / Leaves of Green
-Ritual / Nous Sommes Du Soleil
(Encore)
J Roundabout ( Fragile : 1971)
K Starship Trooper ( The Yes Album : 1971)
オープニングの@は、「ドラマ」からの選曲。オリジナルは、ボーカルがトレバー・ホーンで、ジョン・アンダーソンではない作品であることから、ジョン・デイヴィソン(以降「ジョン」)のボーカルでも違和感なく聴ける。アラン・ホワイトがまだ存命であった2017年リリースのライブ・アルバム「Topographic DRAMA」でもジョンのボーカルで収録されている。そのまま、スティーブはマンドリンに持ち替えて、聴きなれたAに移行する。そしてBは、あまり過去のライブCDやDVDでは演奏されていないが、スティーブがペダル・スティールでのソロを奏でることになる。
当然ながら、当日の関心は77歳となったスティーブのプレイであるが、薄茶のスーツを着た彼は、普通に立って、聞きなれたフレーズを奏でているのでまずは安心する。ただ前回同様、ジョン・アンダーソンがオリジナル・ボーカルのAやBは、やはり物足りない。
スティーブの「インストルメンタルをやる」というMCで始まったCは、それこそ初めてライブの音に接する曲である。初期の作品で言うまでもなくP.サイモンのオリジナルであるが、通常の公式盤には収録されておらず、初期作品のベスト盤的な「Yesterdays」(1974年発表)に収録された曲である。CDではボーカルが入っているが、この日はMCのとおり、スティーブのギンギン・ギターだけの演奏で、それこそ粗削りであった。まさにメジャーになる前の彼らの演奏といった感じであった。
そしてやはり初期の代表曲Dと中期のEという2つのバラード曲。これはやはりジョン・アンダーソンの声でないとピンとこない。Eは、同じカバーであれば、ルネサンス、アニー・ハスラムの方が良いね、等と呟いていた。この曲の後半、アコースティック・ギターから最後のエレキ・ソロに移行する過程で間が空き、聴衆から拍手なども出て、「あれ、エンディング省略かよ」と思っていたら、再び始まった。エレキに持ち替えるのに時間を要したミスだったということだったのだろうか?そして前回の「危機」ツアーでも演奏されたFで前半が終了する。ここまでの印象は、やはりスティーブのギターだけが目立つ演奏で、ジェフのキーボードやビリーのベース等がほとんど聴こえてこない。ベースについては、同行者によると、会場がクラシック向きであることも一因なのではないかとのことであったが、やはりクリス・スクワイアのあのベースはYESの大きな特徴であったことは間違いない。またジェフのキーボードもASIAの「ロック歌謡曲」風のノリでは十分であるが、YESの楽曲構成ではリック・ウエィクマンには全く及ばない。かつての黄金期メンバーの偉大さを改めて感じた次第である。第一部は丁度1時間、6時に終了し、15分の休憩に入る。
休憩後の第二部オープニングは、お馴染みの効果音から始まるG。これは2003年の横浜講演で初めてライブを聴いた曲であるが、その時は黄金期メンバーでの演奏。間奏でこの日初めてジェフのピアノも聴こえてくるが、ギターを除けばやはり2003年の演奏の方が圧倒的に良かった。続いて「最新作からの曲をやります」として始まったのが、最新作「MIRROR TO THE SKY」の冒頭に収められているH。今回の公演にあたり、事前に、何度聴いても頭に残らないこのCDを最も聴き込んでいたせいもあり、またオリジナル・ボーカルもジョン・デイヴィソンであることから、この日の楽曲の中で一番まとまっていた。彼らも、折角の機会なので、新作中心のツアーをやった方が演奏はまとまるし、こちらもそうしたライブがあれば是非参加したいが、恐らくプロモーターが、それでは客が集まらないということでできないのだろう。過去の栄光を抱えたバンドの宿命であろう。そしてそれが終了したところで、今回のツアーの売りであるIの「海洋地形学メドレー」が始まることになる。
お馴染みの「The Revealing Science of God」の「お経イントロ」から始まり、ボーカル中心に、お馴染みのメロディーが次々に披露されるが、曲の移行がやや不自然である。やはりこのオリジナル盤では、印象的なボーカルが、これまた刺激的なインストルメンタル部分に繋がり、それが再びボーカルに戻り終了する各20分、4曲で構成されていたことから、それがほとんどボーカル部分だけとなると、流れが止められてしまう。そもそもこの作品は、長い間アナログ盤しか保有していなかったことから、通して聴くことがなかった。その中で、前述の2017年のライブCDである「Topographic DRAMA」で、「The Revealing Science of God」全編、「The Ancient 」からの「Leaves of Green」、そして「Ritual」全編が演奏されていたことから、やはりオリジナルを聴きたくなり、今年になってからオリジナルCDを購入し、聴き込んでいたものである。そしてこの日の演奏は、まさにこの2017年ライブ盤の、これまたハイライト部分をメドレー化した形で演奏されることになった。お馴染み「Leaves of Green」でのスティーブによる、クリアーなアコースティック・ギターソロは、何度聴いてもそれなりに心地良いものであったが、それでも、やはりよる齢波は隠せず、オリジナルどころか、2017年盤よりも指の動きが鈍くなっていると感じることになった。そして繰り返しであるが、ボーカル中心のアレンジであっただけに、これがジョン・アンダーソンであったらどんなに良かったかと思い続けることになった。約30分続いたこのメドレーが終わったのは丁度19時であった。そして一旦ステージから退いた後、アンコールとして演奏された定番のJ、Kで、この日の公演が終わる。終了は19時15分。一部、二部合計で2時間丁度のステージであった。
スティーブは1947年4月生まれ。フライトの時差ボケを含めた体力的な心配にも関わらず、彼は、最後までエレキやスティール等は立ったまま引き続けることになり、また何よりもこれだけ多数の複雑な楽曲を依然それなりに弾きこなすというのは、まさに驚異としか言いようがない。ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、ELP、キャメル、ジェネシス等、私が敬愛したバンドが、メンバー逝去や老齢化で活動が事実上終わっている中、それを続けているのは、最早このイエスと、アメリカン・プログレの雄カンサス(こちらでは、オリジナル・メンバーは、フィル・エハートとリッチ・ウイリアムスの二人がまだ残っている)くらいで、双方共私は新作、旧作を含めて飽きることなく聴き続けている。その一方の雄イエスからスティーブがいなくなる時、このバンドはどうなるのだろうか、そしてまたこのバンドのライブに接する機会があるだろうかと考えながら家路についたのであった。
2024年9月19日 記