ロンドン・東京・フランクフルト・シンガポール音楽日記
MIND ROCK LIVE
日時:2024年11月4日 会場:ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
文化の日の振替休日、昨日に続き爽やかな秋晴の下、横須賀で開催されたロックのフリー・コンサートに参加した。
横須賀は、かつて小学校の低学年であった頃、親により夏休みの自衛隊の体験学習に送り込まれ、そこに停泊している自衛艦に搭乗した記憶があるくらいで、その後は、横浜や川崎からは近い割には全く訪れる機会がなかった。そして今回ネットで、ここで入場料無料のロック・ライブが開催されるという情報を知った後も、直前まで行くかどうか迷っていた。しかし当日の心地良い気候に、ジムにも行けず家でゴロゴロしていてもしょうがないと考え、衝動的に行ってみることにした次第である。出演バンドは、クリエーションOBの竹田和夫以外は知らない(恐らくは新人)バンドばかりで、つまらなければ途中で帰ってもフリー・コンサートであることから全く後悔はないだろうと考えたのであった。
会場は、京浜急行の横須賀中央駅の一つ手前の汐入という駅の近所にある。初めて下車する駅であり、若干行き過ぎたが、まさに駅前のビルの4階にある横須賀芸術劇場というホールである。フリー・コンサートということなので、どうせ屋外の屋台などが並ぶ祭りの一画で行われるのだろうと鷹をくくっていたが、どうしてどうして、きちんとした会場である。こんなところで入場無料のコンサートというのは、どこから金がでているのだろう、という疑問を感じている内に、15時の開演となった。会場は、中高年を中心に略満席。少しではあるが、小中学生程度の子供を連れた家族連れも目に付いた。
冒頭は、「toriwo」という3人組。今回のコンサート名となっている「MIND ROCK AWARD」2023年グランプリ受賞バンドということで、ボーカルとドラムの若者に、ベースの女性が加わり、日本語歌詞のオリジナル曲を中心とした、がなり立てるロックを披露するが、まあこんなのものかという特徴のないバンドである。30分ほどで次の「DOBUITA TRAVELIN’ BAND」に替わるが、こちらはやや落ち着き、まとまった印象のバンドである。ギター3本にキーボード2台も入った編成で静かなエレキギター・ソロの曲から入るが、そこに途中からボーカルの男性と女性が夫々一人ずつ登場し、会場から小さな歓声が上がる。派手な印象の女性はともかく、サングラスをかけてはいるが、ネクタイはしていないが普通のスーツ姿の中年小太りの男が、「Georgia On My Mind」を歌い始める。演奏の質に比べて、この男のボーカルと見てくれはやや不釣り合いだなと感じたが、その後、女性がボーカルを取ったS.ワンダーの曲は、いかにもプロのバンドという、なかなか聴かせる出来であった。男はその後も何曲か披露するが、その不自然さは最後まで拭えなかった。
そしてトリは、この日唯一知った名前である元(ブルース)クリエーションの竹田和夫のバンド。彼は現在ロス在住で、今回は「Japan Tour Autumn 2024」ということで帰国し、今回ゲストとしてこのライブに参加した、ということである。ベース、ドラムに、女性のギターを加えた4人組(Flash KAZ & THE COMETSというバンド名)であり、まずは聴きなれた「That’s Alright, Mama」を、竹田のカントリーっぽいソロ中心に演奏し、続けて、「ブルースをやります」という紹介で、Whitesnakeの演奏で私はよく聴いている「Ain’t No Love In The Heart Of The City」、そして「Creation時代の知られた曲」とのことで(ただ、私は全く聴いたことがない)更にもう一曲が披露される。竹田のギターを聴くのは記憶のある限り初めてであるが、確かに腕は確かで、それまで出た二つのバンドのギターとは明らかに雲泥の差がある。しかし、それ以上に欧米の一流ミュージシャンの演奏に接している私にとっては、それほど驚くものではない。ただもう一人の女性ギター(Tomoko―スタイル等ルックスは中々である)もツイン・リードとして時折鮮烈なフレーズを繰り出し、竹田に対抗しているのは印象的であった。
続けて「インストルメンタルのジャズ曲をロック風にやります」という紹介で始まった曲は、直ぐにチック・コリアの「Spain」であることに気がつくことになった。この曲の「ギター版」としては、L.Coryell / P.Catherineのアコースティック・デュオをよく聴いているが、エレキ版は初めて耳にするものである。しかも、Tomokoとの2台のエレキによる、ロックのアップビートに乗せた演奏である。お馴染みの速弾きテーマから夫々のギターのアドリブに入り、またまたメインテーマで終了するが、なかなかの演奏で、この一曲を聴けただけでも、今日ここに来た甲斐があったと感じさせる演奏であった。途中アンプのトラブルがあり、Tomokoがその対応で一旦抜けるという事態もあったが、何とかもう一曲を披露することになる。そして最後は、もう一人のゲストとして内田裕也のバンドのギターであったという三原康可というギタリスト(私は初めて聞く名前であった)が、中年ボーカル男と登場し、横須賀に因んだ曲を竹田バンドと一緒に演奏し、この日のライブが終了することになる。丁度2時間のフリー・コンサートであった。
長居は無用と早々に席を立った私の耳に、バンド・メンバーによる最後の挨拶の断片が耳に入ってくることになった。例の小太り中年男が、特に竹田らにこの日の感謝を伝え、それに竹田らが返しているのであるが、そこに「市長」、「このコンサートは公約でしたものね」という声が被さったのである。「えー、もしやこの小太り男は横須賀市長?」そして帰途の電車の中で、携帯から横須賀市のサイトに入ってみると、上地克明という市長が紹介されているが、確かに彼はこの日登場したこの中年小太り男であった。なるほど、こうした数百人が入る会場でのこの日のフリー・コンサートの予算は、全て横須賀市から出ていたのだ。この日のパンフレットによると主催は「横須賀集客促進・魅力発信実行委員会」となっていたが、それはまさにこの市長のお抱え案件で、彼が、自分の出演も含め、横須賀所縁のロック・ミュージシャンに声をかけて実現したのがこの企画であったということなのだ。因みにこの市長は1954年1月29日生まれで、まさに私と略同年齢である。
ということで、横須賀という町が、市長の趣味もあり、ロック音楽に一方ならぬ思い入れを持っていることを感じさせられたライブであった。米軍基地にいる米国軍人を含め、この町ではそうした需要が強いのであろう。さすがにこの地を選挙区としている小泉一族が顔を出すことはなかった(特に先日の衆議院議員選挙で大敗した自民党選対委員長で、その後退任した小泉進次郎はそれどころではなかったであろう)が、市長との関係も含め、それなりの因縁も有しているのだろう。そんなことも考えながらの家路となったのであった。
2024年11月5日 記