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映画日誌
ドイツ映画
ソニア ナチスの女スパイ
監督:イェンス・ヨンソン 
 (この作品は、ノルウェー制作であるが、ナチス絡みということで、「ドイツ映画」欄に掲載する。)

 先日読了したⅯ.シャート著「ヒトラーの女スパイ」(別掲)についてネットで検索していたところ引っかかってきた2019年制作のノルウェー映画。ここのところ古い作品ばかり見ていたこともあり、レンタル映画としては久し振りの準新作である。監督はイェンス・ヨンソン。スウェーデン人であるが、もちろん私は初めて聞く名前である。

 ナチス占領下のノルウェーと隣国スウェーデンが舞台となる実話とのことである。ソニア・ヴィーゲット(イングリッド・ボルゾ・ベルタル)は、ノルウェー出身で、ノルウェーやスウェーデンで人気女優となっている。ノルウェーのナチス傀儡政権の国家弁務官ヨーゼフ・フェアボーフェン(アレクサンダー・シェアー)は、彼女を主演にナチスのプロパガンダ映画である「エルザ」を制作することを考え、ゲッペルスが主賓の夜会に彼女を招待するが、反ナチスの父親の反対もあり、彼女はそれを欠席する。他方、スウェーデン諜報部のトレステン・アクレル(ロルフ・ラスゴード)が彼女に接近し、スウェーデンで暗躍するナチス・スパイ「マリア」の正体を暴いて欲しいと依頼する。後者の依頼を当初は拒絶し、女優としての経歴から単純に「エルザ」への出演を考えていたソニアであるが、彼女が夜会を欠席したことに腹を立てたヨーゼフが、ノルウェーにいる父親を逮捕したことから、スウェーデン諜報部の依頼を受けることになる。暗号名は「ビル」。彼女は、一旦は彼主催のその夜会を無視したフェアボーフェンに接近し、彼の寵愛を受けることに成功する。他方、彼女には夫がいたが、夫の浮気が原因で夫婦関係は崩壊し、パーティで知り合った駐スウェーデンのハンガリー大使館員アンドル・ゲラート(ダミアン・シャペル)と良い仲になっている。

 こうしてソニアは、「エルザ」の撮影を続けながら、ヨーゼフの愛人となり、彼の執務室に潜入し、「マリア」の正体を探る。またヨーゼフからは、父親釈放の見返りとして、スウェーデンでの連合国の動きとそこでナチス側に潜り込んでいる連合国のスパイを探るよう指示され、そこで旧知のフォン・ゴスラー男爵が、ヨーゼフのスパイとして働いていることを知る。他方で、アンドルとの逢引きも続けることになり、彼からは求婚もされる。しかし、ソニアの活動は、反ナチス陣営からは「裏切り」という烙印が押されている。

 アンドルとの逢引きで訪れた孤島の小屋で、スウェーデンの海岸線を撮影した写真が、知り合いの若いカメラマンのパトリックが撮影したものであることに気が付いたソニアが、彼を問い詰める。そしてパトリックから、写真の受渡しを公園のゴミ箱で行っていることを知らされ、アクレルに、そこに待機し受取人を拘束することを依頼する。それが「マリア」ではないか、との推測である。しかし、その写真は誰にも拾われず、パトリックはその後自室で殺される。アクレル達スウェーデン情報部は、その動きからアンドルが「マリア」であると推測しているが、まだ証拠は不十分である。ソニアは、アンドルと会い、写真を示しながら、「あなたがマリアなのね?」と迫るが、アンドルは慌てて逃亡、アクレル達も彼を取り逃がすことになる。ドイツに自分の正体がばれた、と狼狽するソニア。最後の手段として、ソニアは、ゴスラー男爵を「内通者が分かったので、マリアに直接その内通者を伝えたい」と言って呼び出す。

 スウェーデン情報部に全てを話したと告げるソニアに、ゴスラーは、実はアンドルは、彼らが追っている連合軍の内通者で、「マリア」は、車の中にいるドイツ観光局長のフィンケという別の男(映画の冒頭の晩餐会で、ゴスラーは彼をソニアに紹介している)であることを告げる。彼らは、孤島の隠れ家に潜んでいるアンドルを拘束すべく、ソニアに案内させそこに向かう。孤島の小屋での捜索。ソニアの機転により、アンドルは、それをかわして逃走することに成功する。そして「マリア」ことフィンケとゴスラー男爵はスウェーデン当局に逮捕され、それが全ての要因ではないにしても、結果的にスウェーデンはナチスの侵略を防ぐことになった。ソニアの家族も、約束に従いアクレルがスウェーデンに避難させる。ソニアは、地下に潜ったアンドルとの再会を願うが、それは長く叶わず、戦後のある時それは実現したものの、二人は結局結ばれることがなかったという。そしてソニアの活動の真実は戦後も長く伏せられ、彼女は、親ナチスであったという疑惑を持たれたまま1980年に逝去する。彼女の名誉回復がなされたのは、2005年になり、彼女が二重スパイであったことが明らかにされてからであった。
 
 まず歴史的事実として、第二次大戦時、ノルウェーはナチスに侵略され、フィンランドはソ連に支配されたが、その間に位置するスウェーデンは独立を保ったことを改めて認識することになった。そして、この映画には、それが全てではないにしても、このノルウェーの二重スパイ、ソニアがそれに貢献したというノルウェーの自己主張もあるのではないかと勘繰ってしまう。このナチスによるノルウェー侵略については、この作品と同じ脚本家による「ヒトラーに屈しなかった国王(制作:2016年)」という映画もあるようなので、これも機会があれば観ておきたい。

 次に映画そのものについては、二重スパイ物ということで、登場人物の位置付けがなかなか分かり難く、特にアンドルが、一旦はナチス側のスパイであるかのように展開するが、実は連合国側のスパイであったという肝になる展開が、一回観た時点では理解できなかった。また最後の展開の場面では、何で「マリア」ことフィンケが簡単にソニアの前に姿を現したのか、また孤島でのアンドレの逃亡後、マリアが生き残り、ゴスラーとフィンケがいとも簡単に逮捕されることになったのかが、まだ十分理解できていない。更に、冒頭で、ソニア主演でナチス宣伝映画として制作されていた「エルザ」が最終的に公開されたのか、あるいはそうであれば、その映画はどのような評価であったのか、というのも疑問である。そうした突っ込みどころは残っているが、スカンジナビア語(と思われる)、ドイツ語、英語が入り混じるところにも、こうしたスカンジナビアの国々の雰囲気を感じることができ、初めてのノルウェー映画としては十分楽しむことができた。

鑑賞日:2022年2月2日