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映画日誌
ドイツ映画
ヒトラーの忘れもの
監督:マーチン・ピーター・サンクリフト 
 2015年制作、2016年公開の、デンマーク・ドイツ合作映画。先日観たノルウェー映画「ソニア ナチスの女スパイ」で、ドイツ周辺国でのナチス関係映画に面白いものがあると感じたが、その関係で友人から紹介を受けた作品である。監督は、マーチン・ピーター・サンクリフトというデンマーク人。ネットの解説によると、2015年の第28回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、軍曹役のローラン・モラーと少年兵役のルイス・ホフマンが最優秀男優賞を受賞したという。原題は、「Land of Mine」で、直訳すると「地雷の土地」であるが、この映画祭上映時の日本語タイトルは「地雷と少年兵」、そして現在は「ヒトラーの忘れもの」と変遷している。この現在の日本語タイトルは、やや軽い印象を伴っており、私自身はどうかな、と感じている。

 第二次大戦終了後、デンマークの海岸沿いには、ナチスが連合軍の上陸を阻止するために埋め込んだ220万個の地雷が残されていたという。1945年5月、5年間のドイツ占領が終わり、その地雷を除去するために、捕虜となっているドイツ軍の少年兵が動員されることになるが、映画は、彼らを監視・指揮するデンマーク軍の軍曹とドイツ人少年兵の交流を描くことになる。

 ドイツの少年兵たちは年代的にはミドルティーンといったところであろうか。彼らが、デンマーク軍のラスムスン軍曹に、それこそ理不尽なほどの厳しい取扱いを受けながら、海岸線に埋められた地雷の撤去を行っている。彼らには満足な食事も与えられず、近隣農家の家畜の餌を食べ食中毒を起こしたりしている。文句を言うと軍曹の暴力が返される。当然事故も多く発生し、体調が悪い中、軍曹に無理やり働かされた少年が吹き飛ばされる。彼は、病院に運ばれ、そこで死ぬが、軍曹は、残った少年兵たちに、「彼は回復してドイツに送り返された」と嘘をつき、更なる労働強化を強いるのである。また別の機会には、二重に埋められた地雷の上の部分を撤去した少年が爆死している。

 しかし、作業が進むうちに、軍曹にも少年兵に対する憐れみと親近感が増し、彼らのために隠れて食糧を調達したり、休日に海岸で一緒にサッカーをするまでになるが、除去し損ねた地雷で、彼の飼い犬が爆死したことで態度を一変させ、再び彼らに辛く当たることになる。一方、少年兵たちは、近隣農家の幼い少女が地雷原に入ってしまったのを救い(彼女を助けた少年の一人が、その後自殺的に地雷原を歩き爆死する意味は、理解不明)、軍曹も再び彼らに対する気持ちを和らげることになる。しかし、撤去した地雷をトラックに積む作業中に、一個の地雷の暴発から大爆発が起こり10人の少年兵が死亡。4名だけが残されることになる。

 軍曹は、担当地域の地雷撤去が完了したら、彼らをドイツに返すと約束していたが、残された4名を、更に撤去が難しい地域に回すようにとの上官からの命令を受けることになる。その命令に抵抗できなかった軍曹は、密かに彼ら4名をドイツ国境付近まで運び、そこで逃亡させることになるのである。そして映画は、「地雷撤去にはドイツ兵2000人が動員され、150万個の地雷が撤去されたが、その多くが少年兵であった。そしてその半数が死亡又は重傷を負うことになった」という字幕と共に終わることになる。

 基本的にたいへん暗い映画であるが、それがデンマークの砂浜が広がる美しい海岸線を舞台に繰り広げられるところが何とも対照的で、戦争のもたらす皮肉な現実を示すことになっている。ラスムスン軍曹のドイツ少年兵に対する姿勢は、いくらドイツ軍が憎いとはいえ、まだ子供の雰囲気が残っている彼らに、そこまで理不尽に辛くあたる必要はないだろう、という気持ちを抱いてしまうが、一方でそれはその後の展開に向けた極端な演出とも思われる。そしてラスムスンが、次第に少年兵たちに近づき、そして最後は、上官の命令に背き、残った4人をドイツに逃がすのが、この映画の肝であるが、映画では描かれていないが、当然軍曹はこの行為に対する大きな対価を支払ったのだろうな、と勘繰ってしまう。ただそうしたラスムスン軍曹の気持ちの変化をこの俳優が演じ切ったことが、上記の映画祭での評価に繋がったのだろう。大きな展開がある訳ではなく、少年兵が砂浜で地雷を探し、その信管を慎重に外す場面が延々と続く、また若い女性は一切登場しない(登場する女性は、近隣農家のおばちゃんとそこの幼い娘だけ。ただこの幼い女の子はかなり可愛い!)地味な作品であるが、確かに最後の展開では僅かな温かみを残してくれた作品であった。 

鑑賞日:2022年2月7日