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映画日誌
ドイツ映画
さらばベルリン
監督:スティーブン・ソダーバーグ 
 この前に観た作品と同様、ベルリンを舞台にしたアメリカ映画であるが、「ドイツ映画」として掲載する。友人からの推奨があった作品で、特段の事前情報なく観た訳であるが、白黒映像ということもあり、1966年の制作であった前の作品と同様、相当古い映画だな、という感覚で観ていた。しかし、観終わった後、ネットでの情報を見たところ、何と2006年制作という、最近の作品であった。監督は、スティーブン・ソダーバーグという初めて聞く名前であるが、主演俳優たちについては、どこかで観た連中だな、と感じていた。そしてネットを見たところ、主演男優はジョージ・クルーガー、主演女優はケイト・ブランシェットという、有名俳優が演じているということが分かった次第である。この前の作品と同様、Joseph Kanonという作家の原作小説に基づいた作品であることが紹介されている。英語の原題は「The Good German」。

 1945年7月の英米(仏)ソ占領下のベルリン。日本はまだ戦争を続けている。そこの空港に雑誌記者であるジェイク・ガイズマー(ジョージ・クルーガー)が到着し、若い米軍兵士の運転手タリーが迎えに来て、街中に向かっている。途上で、タリーは、「今や敵はソ連だ」とか、「今のベルリンは、快楽主義の町で悪事のし放題。連合軍が刷った新マルクで稼ぎ放題だ」などと呟いている。そしてそのタリーは、中年女の「売春婦」レーナを情婦にしている。レーナは、戦争で夫を亡くした結果、今のような生活で生き延びており、タリーに「国外に連れ出して欲しい」と懇願している。そしてそのタリーは、足を失ったユダヤ人の商店主に、出国書類を調達してくれと依頼している。このくたびれた中年のレーナが、あの大女優ケイト・ブランシェットであると分かるのは、上述のとおり、作品を観終わった後である。そしてそのレーナは、戦前にAP通信記者としてベルリンに滞在していた頃、ジェイクの取材を手伝っていたことがあり、バーで二人は再会するが、他方「死んだ」というレーナの夫のエミール・ブラントは、ペットマンという責任者の下でドイツの秘密兵器であったX2ロケットの開発に関わったことで、米国とソ連の双方が、自国の兵器開発のための要員として探している男であることが分かってくる。

 こうした中で、米軍がエミールを探しているということを聞きつけたタリーは、妻のレーナを知っていると言い、20万マルクでそれを請け負い、半額の10万マルクの前払いを受けているが、彼はポツダムのソ連支配地域の川で水死体となって見つかる。米軍はその事件でソ連側を追求することはない(実は後の方でタリーを殺したのはレーナであることが分かる)。そしてそれからジェイクによるレーナとの再会と彼女の保護、そして彼らを追う米軍やソ連軍との攻防が描かれることになる。ジェイクは、レーナが追われる理由を確認するため米軍が保管する犯罪資料やレーナが持っていた「ドーラ」と書かれたエミールの資料なども調べているが、そこから次第に、エミールが、ドーラという強制収容所に作られたX2ロケットを開発工場で囚人たちを酷使していたことが分かってくる。そしてそのエミールは生きており、秘密の隠れ家でレーナが匿っていたのである。エミールは、「善きドイツ人」として、上司であったベットマンが「自分は只の科学者だった」として隠しているそうしたドイツ軍の犯罪行為を証人として語ることを求めていたのである。しかし、戦勝式典の人込みを利用し、隠れ家を替えようとした二人であったが、追っ手に見つかり、エミールは殺される(彼を殺したのが、米軍なのか、ソ連なのか、そして殺した理由はよく分からない)。レーナも重傷を負い病院に担ぎ込まれるが、そこにはジェイクに加え米軍関係者も現れ、「ドーラ」と題された資料の行方について聞かれている。その書類はジェイクがレーナから受取り保管していたのであるが、そのジェイクも米軍関係者からは、「資料が見つからなければレーナは終身刑だ」と告げられ、その資料を渡すことになる。「その資料には何が書かれているのだ」と聞くジェイクに、米軍関係者は、「それはレーナに聞け」と答えている。

 そして映画の最後。出国証明書を渡されたレーナが、雨の中、米国に向かう飛行機に乗るのをジェイクが見送っている。そこで、レーナは、自分もドーラ収容所にいたが、生き延びるために12人のユダヤ人をゲシュタポに告発し、彼らが処刑されたこと、そして「それはユダヤ人の自分が収容所で生き延びるためにはしょうがなかった」と告げている。「これでパズルの最後の謎が解けたでしょう」と言い残し、彼女は飛行機でベルリンを去っていくのである。

 終戦直後の廃墟となったベルリンやポツダム会談でのスターリン、トルーマン、チャーチルの実写映像なども挿入し、敢えて白黒作品として、この時代に作った意図は、正直よく分からない。そして物語の展開も、ケート・ブランシェット演じるユダヤ人のレーナが、ナチスの時代から戦後の混乱期、そしてナチス戦犯の摘発といった占領軍の支配を、男たちを利用しながら生き延びていく様子を描いているということであるが、彼女を取り巻く米ソ双方の思惑は、いつものとおり2回観たもののたいへん分かり難い。原題の「善きドイツ人」も、作品中、米軍関係者やエミールが何回か口走るが、それは「ナチスに手を貸さなかったドイツ人もいる」、あるいは「過去の負い目をきちんと話そうとするドイツ人もいる」という単純な意味だけではなく、レーナの様に「そのように見せながら、実は男たちを利用し、裏切っていく女がいた」という皮肉な視点から理解した方が良いのだろう。ただ繰り返しになるが、レーナや夫のエミールと、米軍やソ連軍との関係が分かり難く、観終わった後、余りすっきりと「謎が解けた」気分にはならない。またケイト・ブランシェットの演技も初めてきちんと観た訳だが、大女優であることは分かるが、年増のさして美人でもない女優という印象で、男たちを騙しながら生き延びてきた魔性はあまり感じることは出来なかった。戦後間もなくの廃墟ベルリンの雰囲気だけが残った作品であった。

鑑賞日:2023年6月25日