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映画日誌
ドイツ映画
地獄に堕ちた勇者ども
監督:ルキノ・ヴィスコンティ 
(本作はイタリア映画であるが、ドイツが舞台ということで、ここに掲載させて頂く)

 前掲の韓国映画と一緒に、久し振りに立ち寄った川崎駅前のレンタル店から借りた2枚のⅮXⅮの一つ。1969年製作のイタリア映画で、「ドイツ大好き」イタリア人監督であるルキノ・ヴィスコンティによる作品である。かつて学生時代に観た記憶はあるが、偶々見かけた際に、こうした「歴史的」作品を改めて観るのも良いかと思って借りた次第である。

 前掲の韓国映画と異なり、いきなり重たい映像である。1933年のドイツ。ナチスの支配が広がる中、鉄鋼王の家族による盟主ヨヒアム・フォン・エッセンベック伯爵の誕生日パーティーが、その豪華な邸宅で行われている。しかし、家族・親族内は、ナチス支持者の親衛隊隊員アッシェンバッハや反ナチスの自由主義者ヘルベルト等が混じり合い、食事の場で論争になっている。そこに、国会議事堂放火事件の報が届くが、盟主ヨヒアムは、「事業を守るためには何でもやる」と諭している。しかしそのヨヒアムはある晩射殺体となって見つかり、反ナチスのヘルベルトにその殺人容疑が被せられ彼は家族を残して逃亡。そして後継者を巡り、形式上はヨヒアムの娘の未亡人ソフィーの息子であるマーチンが後継者となるが、実権はソフィーと愛人関係にある総支配人フリードリッヒが握ることになる。そしてその後は、性格異常で、ユダヤ人少女を犯すマーチンとソフィーとの歪んだ関係や、それを利用し、虎視眈々と名目的な社主の座を狙うフリードリッヒ等の動きや、ヘルベルトに合流すべく汽車で出発する妻と幼い娘二人が、実は強制収容所に送られるといった動きが描かれる。

 そして画面は変わり、突撃隊のミュンヘン郊外での乱痴気パーティに移る。勢力を増している突撃隊指導者レームは、軍部との対立関係にあるが、ヒトラーが自分たちを必要としていると自信満々である。しかし、乱痴気パーティーの翌早朝、そこにヒトラーの命令を受けた軍部が密かに侵入し、レーム以下突撃隊を皆殺しにする。そして軍部と結託した親衛隊は権力を確立し、そのメンバーであったアッシェンバッハは、フリードリッヒとソフィを、結婚式を挙げさせながら、その直後に自殺に追い込むことで、鉄鋼コンツェルンのナチス支配を確かなものにするのである。

 レームの突撃隊粛清の場面はかすかに覚えていたが、鉄鋼コンツェルンの中での政治的思惑の交錯や愛憎関係の複雑さは全く記憶になく、実際この作品を観始めても、親族内での人間関係についてなかなか理解ができないまま一旦観終わることになった。その後ネットでの解説を読んで、ようやくそうした人間関係とヴィスコンティが描きたかった一族の悲劇について脈絡を追えることになった次第である。それだけ複雑な構成を持った作品であるが、それ以上に今回痛感したのは、マーチンの児童性愛や母ソフィーとの近親相姦、あるいは突撃隊の乱痴気パーティなどの退廃的な映像の衝撃である。こうした世界は現在の映画ではほとんど登場することはないと思う。そうした世界の映像化が、この時代にはあったことに改めて驚いている。いずれにしろ、最近はお目にかかることのない重たいヴィッスコンティの世界である。

 本作は、「ベニスに死す」、「ルードヴィッヒ」と続くこの監督の「ドイツ3部作」の第1作であるが、現在再びドイツとの関係を持つことになったこともあり、この第2作、第3作も、もう一回観ておいてもよいかな、と考えている。また最近アラン・ドロンが逝去(88歳)したこともあるので、彼が出演している同じ監督による1964年製作の「山猫」ももう一度観ておこうと思う。

鑑賞日:2024年8月24日