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レッドクリフ パート1/ パート2
監督:ジョン・ウー(呉宇森) 
 昨年から今年の初めにかけて、シンガポールでこの2作が順次公開された際は、さすがに中華系社会ということもあり、町中の広告から新聞評まで大きな話題となっていた。しかし、特にパート1公開時、まだ当地で映画館に出向くまでの余裕がなかったことから、そしてパート2公開時は、こちらを先に見る意味はないこともあり、そうした話題を横目で眺めながら、結局見逃すことになってしまった。そこで、夏期休暇で日本に一時帰国した際、まず既にビデオが出回っていたパート1は見ようと考えていたが、幸運なことに、滞在中にパート2のビデオも新作としてレンタル店の店頭に並べられたのである。それぞれ2時間半ほどの大作であるが、久々にたいした予定もない自宅での休暇だったこともあり、この2作をいっきに続けて見ることになった。

(パート1)

 舞台は西暦208年、後漢の時代。皇帝を傀儡とし、実権を握った曹操(チャン・フォンイー:張豊毅)が、南部で権力を握る劉備(Zhao Wei? :趙薇)と孫権(チェン・チェン:張震)を征伐すべく進軍する。単独での曹操との緒戦に敗れた劉備は、忠臣である諸葛孔明(金城武)の進言も受け、孫権との同盟を模索し、その諸葛孔明が、孫権との同盟の交渉のため派遣される。諸葛孔明と、孫権の忠臣である周瑜(トニー・レオン:梁朝偉)との、琴を奏でる一夜。同盟は成立し、曹操の本体である水軍の大群に紛れて、まずは陸で攻撃するという敵の作戦を読みきった同盟軍は緒戦で勝利、そして曹操の水軍の大群80万が、赤壁の対岸に陣地を構えるところで終了する。

 パート1の多くの部分を構成する二つの大きな戦闘シーン(劉備が敗北する単独戦―劉備の幼い息子を背負いながらの部下の戦闘シーンなどーと同盟後の陸上戦―劉備の忠臣である関羽、張飛、削雲の奮闘)を除くと、基本的には曹操に対抗するための、劉備と孫権の同盟ができるまでの経緯を描いた作品といえる。劉備から交渉を任された諸葛孔明と、孫権の忠臣周瑜との一夜の宴。結局、同盟の話には一切触れなかった諸葛孔明が、側近に「周瑜は立つ」と囁く場面が、この映画のハイライトであろう。周瑜の覚悟を受け、若き悩める宰相孫権も戦いを決意する。甘興(中村獅童)率いる周瑜軍の戦法は古い、と言った諸葛孔明の指摘にも関わらず、その戦法が緒戦の勝利を導いたように描かれる。しかし、やはりこれはパート2に至る導入部と考えたほうが良い作品である。

(パート2)

 赤壁への曹操軍80万の兵力の集結を受けて、いよいよ決戦の火蓋が切って落とされる。迎え撃つ孫権・劉備連合軍は約5万。この圧倒的な兵力差を、諸葛孔明の知恵と周瑜の覚悟が埋めることになる。

 まずは、敵方にスパイとして潜り込んだ孫権の妹、尚香(ヴィッキー・チャオ)の情報収集での活躍。劉備軍による戦線離脱は、孫権らを激怒させるが、周瑜はあっさりと送り出す。10万本の矢を収集するための諸葛孔明の奇策と、曹操を騙しての敵方の水軍の司令官二人の排除を経て、決戦の火蓋が切って落とされる。連合軍に有利な風に変わるまでの時間稼ぎとして、小喬(リン・チーリン:林志玲)が単独で曹操のもとに渡り、茶の湯をたてて攻撃開始を遅らせるが、この辺りはフィクションであろう。諸葛孔明の予想通り深夜に東西の風が吹き、風上に立った連合軍は、予定通り火を使った攻撃で、敵方の水軍を殲滅、そのまま陸上戦に突入する。迫力ある戦闘シーンが続くが、周瑜の策略で、見方さえも騙していったん離脱したと思わせた劉備軍も合流し、結局曹操軍は総崩れとなる。最後、曹操と劉備・周瑜は直接対峙し、小喬の救出劇を経て、劉備・周瑜が勝利するが、周瑜は曹操に対し「自らの国に戻れ」と言い、止めは刺さずに送り出すのである。

 これを見る前に立ち読みした曹操の伝記本によると、この映画ではただの野心に燃えた権力者で、最後は小喬の色香に迷い攻撃の機会を失い敗戦をもたらすように描かれた曹操は、実は大変な戦略家でもあり、また多くの有名な詩を残した文化人であったという。しかしこの赤壁の戦いでは、疫病の瀰漫と劉備・周瑜連合軍の知恵の前に背走した、と書かれていた。

 映画は、そのうちの幾つかの史実を使い、その上に幾つかのエンターテイメント上のフィクションを加え作成されたと思われる。そして確かに、そうしたフィクション部分は、それなりに戦闘シーンがメインのこの作品にスパイス的な味付けを加えている。

 しかしながら、やはり全体のプロットが「勧善懲悪」的な図式で描かれてしまったために、ストーリー全体は単純なものになってしまったように思える。この赤壁の戦いを経て、しばらくは北部=曹操、南部=劉備・孫権という支配で安定したと、その立ち読みした本には書いてあったが、実際には中国の歴史は、その後再び流動化していくのである。パート1で、諸葛孔明が周瑜に向かい、「いずれはあなたと敵味方となり相見えるのではないかと思う」と言い、周瑜が、「その時は、お互い主君に忠義を尽くすだけだ」と答えるシーンがあったが、監督のジョン・ウーは、更にこの続編を考えているのだろうか、と想像したのであった。

鑑賞日:2009年8月3日(パート1)
鑑賞日:2009年8月5日(パート2)