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アマルフィ 女神の報酬
監督:西谷 弘 
 シンガポールで上映される日本映画の数は結構多い。私が当地に来て始めて映画館で見た映画は、日本語ラジオ放送のプレゼントで当たった、日本の男性アイドル歌手が主演する「クロサギ」の試写会であったし、その後も新聞などを見ていると、日本で評判になった映画の多くが、ここシンガポールでも上演されている。思いつくところを挙げてみると、昨年末こちらに滞在した家族が見た「崖の上のポニョ」、アイドル系映画の「花より男子」(これは韓国版?も公開された)、最近芸能人恋愛ゴシップ欄を賑わせている新進女優主演の「昴」等々。当地での日本食のブームではないが、最近の経済面における日本の地位低下とは逆に、日本文化の「ソフト・パワー」はそれなりに当地でも浸透してきているようである。

 そんな中で、今回は織田裕二、天海祐希主演の「アマルフィ」が丁度今週半ばから当地で上映された。去る8月始め、夏休みで日本に一時帰国した際、家族と見に行く映画の候補に上っていた(結局その時は別の洋画を見たのだが)こともあり、日本公開から約3ヶ月遅れで、こちらで見ることになった。

 家の近所のショッピング・センター最上階にあるシネマ・コンプレックス「Golden Village」での上映である。ローカル客でどの程度埋まるか、という興味があったが、土曜日夜7時という上映時間の良さもあったのだろうか、八割方席は埋まっている感じであった。時々日本語も耳にしたが、多くはローカルの客で、ほとんど宣伝らいしい宣伝を目にしない映画としてはまずまずの入りというところある。

 映画に関しては、あまり書くべきことはない。G7外相会談で、外務大臣を迎えるローマ大使館が、その「儀礼外交」の準備に終われる中、偶々旅行で訪れた天海祐希演じる看護士矢上紗江子の子供が誘拐される。大使館書記でテロ対策官黒田(織田裕二)が、偶々誘拐犯からの電話に出て「父親」と名乗ったところから、その後二人で動くことになる。冒頭、二人が仏帳面で、言葉も交わさずローマのホテルにチェックインするところから映画が始まり、この二人はどういう関係なのだ、という疑問を抱かせるが、その後、娘の誘拐とそれへの初動の過程で、気が合わないこの二人が夫婦を装って行動せざるを得なかったということが分かる仕掛けである。

 その後、犯人からの身代金の受渡場所が次々に指定され、二人はローマ警察とも連携し、最後はイタリア中部の町アマルフィにまで赴くが、結局それは功を奏することはない。他方、紗江子の友人でロンドンの商社に勤務する藤井(佐藤浩一)が、何度か彼女を励ましにイタリアに訪れるが、アマルフィでの訪問時に、実は彼が数度の訪問の間、ロンドンには帰っていなかったことが分かる。紗江子が藤井と二人だけで話した後、黒田と紗江子は、誘拐時に偽装されたと思われる監視カメラの映像確認のためにローマ全域を警備する会社の管理センターを訪れるが、そこで紗江子が予期せぬ行動に出る。それは娘の解放の条件として藤井に示唆された行動で、そこでの監視活動の一時的な中断により警備システムを麻痺させ、その間に外務大臣を襲うという藤井の計画の一環だったのである。

 レセプションでの藤井による外相の拉致。それは、その外務大臣の独裁国家への援助により、NGO勤務の妻とその同志を殺された藤井の外務大臣への復讐であった。しかし、そこに飛び込んだ織田による説得で、最期は事なきを得て、娘も無事解放されるのである。

 映画としては、全編ローマその他のイタリア・ロケを行い、犯人が身代金の受け渡しを指定してくる場所も、テルミニ駅、スペイン広場、サンタンジェロ城と、著名な観光地を選び、その選択も一応理由をつけることによって、丁度ダン・ブラウンの「天使と悪魔」のように、知らず知らずにローマ観光ができるという仕立てになっている。そして南部の町アマルフィ。私はまだ訪れたことがないが、ゼウスが最愛の愛人アマルフィを、もっとも風光明媚な場所に埋葬しようと選んだこの町を、事件の鍵を解くきっかけが与えられる場所として選んでいるのも、イタリア観光ガイドとしては上出来である。日本人がイタリアで飛び回る映画を見て、シンガポール人がどのように感じているのか?それを日本映画として見ているのか、イタリア観光映画として見ているのか。機会があれば、これを見たローカルの感想を聞いてみたいと思う。また当初、ローマ警察が、犯人のテロ・ターゲットはイタリア大統領の晩餐会だとして、そこに踏み込むが、その晩餐会で、サラ・ブライトマンが自ら出演し、この映画の主題歌である「Time to say goodbye」を歌っているというのも、追加的なサービスであった。

 当地での日本映画の常で、サブタイトルは英語と中国語であるが、今回はイタリア語も混じるということで、その部分は日本語も含めた3ヶ国語のサブタイトルが同時に流れるという慌しさであった。

鑑賞日:2009年10月24日