バンコク・ナイツ
監督:映画製作集団「空族」、富田克也
久し振りの映画日記更新である。しかし、アジア映画にアップロードしたが、日本、フランス、タイ、ラオスの共同制作作品である。
今年の初めだったと思うが、日経新聞の映画評で、大きく取り上げられていたが、制作会社の方針でDVD化はしないということで、映画館で見るしか手がなかった。4月に一時帰国した際に調べたところ、既に都内での上映は終了し、地方でしか上映されていなかったことから、この作品を見るのは難しいと考えていたが、今回の一時帰国時に、今週一杯だけ大森で上映されていることが分かった。白内障の手術後、念のためということもあり、予定を入れていなかった暇な週前半、午前10時半の上映を見に行った。会場のキネカ大森は、京浜東北線大森駅から徒歩3分。自宅からも30分かからず到着することができる。
映画製作集団「空族」、富田克也監督作品で、第69回ロカルノ国際映画祭で、10代の若者が選ぶ「若手審査員・最優秀作品賞」受賞作ということである。物語は、バンコクの歓楽街で、店のNo1ホステスとなったラックが、まだ駆け出しの頃に知り合った元自衛隊員のオザワと再会し、彼と共に自分の故郷であるタイ東北部のイサーン地方のノーンカイへ、そしてイザワは、自衛隊時代の上官の指令を受けて、そのままラオスのビエンチャーンへと向かう。そうした旅の中から、夫々が自分の新しい道を歩み始める様子を、3時間を越える映画で映し出している。
突込みどころは、いくらでもある映画である。タニヤの歓楽街でラックを始めとする女たちを漁る日本人たちは、あまりに図式的である、そして、彼女たちを餌にしながら、この世界で蠢いている日本人たちも、いかにも常道を踏み外した落ちこぼれとして単純化されて描かれるだけである。そして、新聞の映画評では「ミステリー」的に描かれると書かれていたイサーンからラオスへの旅も、結局オザワのラオス不動産投資の調査ミッションは全く語られず、ラオス、バンビエンでの得たいの知れない日本人との接触もいったい何であったかも分からず仕舞いであった。そして、闇でピストルまで購入したオザワが、タニヤでのポンビキとなり、また親兄弟や親戚の生活を支えてきたラックも、再び故郷での質素な生活に戻る、という結末もやや突飛であった。
それでも、10日ほど前に週末を過ごしたばかりのバンコクの町並みや、恐らくプーケット、パトン・ビーチと思われるタイの海岸、また初めて見ることになったタイ東北部の牧歌的な風景、そして奇岩が迫るバンビエンの景観など、所謂「ロードムービー」ならではのロケは十分楽しめた。イサーンで、ラックが会いに行く占い師もどきの女性の、半分ミュージカル風の説教は、恐らくその筋のプロが出演しているのだろうし、托鉢僧への敬意や、以前タイのどこかで遭遇したことがある、音楽を大音声で流しながら人々が踊りながら練り歩く行進(出家する人の送別?)等の風俗も、タイの田舎の素朴な人々の姿を浮き上がらせていた。かつて戦場と化したラオス国境に近い森林でのゲリラの幻影や米軍の爆撃で出来た穴などは、やや余計に感じはしたが・・。
そして最後に、何よりも、タイの田舎出身の貧しい女性たちが、バンコクの歓楽街で必死に生き、そして(愛憎が交錯しながらも)地方にいる家族を支えている姿が、間違いなくこの映画の主題であろう。ここでは彼女たちの日常が、さしたる誇張もなく描かれているのではないか、そんな気にさせる作品であった。
鑑賞日:2017年7月3日