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RAMEN TEH
監督:エリック・クー 
 日本の期末日、シンガポールはイースターの祭日で三連休となった。直前の忙しさから、海外に逃れるアレンジもできず、また週末恒例のテニスもない夕刻、全くの思い付きで、衝動的に近所のSCの映画館に足を運んだ。「Ramen Teh」。当地の新聞で大きく取り上げられていたり、幹線道路の照明塔に宣伝が掲載されていたりと、鳴り物入りでの公開であったが、ラーメンが主題と思われるタイトルや、松田聖子等も登場していることから、どうせ大した映画ではないだろうと考えていた。ただ以前に友人が、主演の斉藤工を、チョンバルで目撃した、といった話しも聞いていたことから、話しのネタの暇潰し程度の感覚で映画館に赴いたのであったが、意外と見せる映画であった。

 シンガポール、日本、フランスの合作で、監督のエリック・クーはシンガポールを代表する監督であるということである。

 物語は、高崎で父親と小さなラーメン屋を営む斉藤工演じる主人公が、若くして病死したシンガポール人の母(ジネット・アウ)と突然死した父(井原剛志)の過去を探ると共に、母が愛した味を求めてシンガポールに渡り、母の家族を訪ねる形で進む。そして母への一枚の古い手紙と在住の松田聖子演じるシングルマザーの助けを得ながら、母の弟(マーク・リー)と再会。母と祖母の相克が、日本人との結婚にあったことを知るが、ラーメンとバクテイを合わせた新たな味をあみ出し、それを通して、母を離縁した祖母との和解にこぎつけることになるのである。言わば、味覚を通じての、日本とシンガポールの融合による許しと和解の物語ということになる。

 ということで、話自体は、冷静に考えるとやや陳腐で、いかにも一昨年(2016年)の日本とシンガポールの外交関係樹立50周年を記念して作成された映画である、ということであるが、やはり在住者としては、いろいろ見どころのある作品である。

 まずは、もちろんシンガポールの多くの親しい場所がロケで使われているのが楽しめる。シンガポール川沿いやマーライオン等の観光スポットはともかく、チャイナタウンでは、いきなり先週二回も夕食をとった中国東北料理レストラン(東北菜)の看板が大写しになり(Mosque Street)、続けて主人公がロケで目撃されたチョンバル・ウェット・マーケットやクラークキーのバクテイ屋等が登場する。日本人の父親が、母親と親しくなる日本料理屋は、カページ・プラザの見慣れたエレベーターから降りた場所の設定であり、松田聖子が働いているバーはClub Street。当地のラーメン屋として登場するのは「けいすけライーメン」だろう。そして主人公が日本とシンガポールの歴史の過去を学ぶのは、先週末行ったばかりのOld Ford Factoryであり、ここでは、「昭南博物館」という当初の名前が問題視され、現在の名称となった経緯も何気なく挿入されている。そんなことで、当面当地での話題には事欠かない。

 シンガポール側の登場人物としては、何よりも、今まで新聞広告の写真でしか目にしたことのなかったジネット・アウの演じる姿を初めて見ることになったが、やはり中々の存在感である。そしてその弟役のマーク・リー。主人公が彼と再会する場面で、彼が登場すると、まず聴衆から笑い声が湧き起こり、その後、主人公にバクテイの指南をする場面でも何度か会場の笑いを誘っていた。演技自体はまじめなものが多かったが、当地で人気のあるコメディアンということで、彼の仕草は自然に笑いを誘ってしまうのであろう。

 主人公と祖母の和解を通じ、母と祖母の和解を、そしてそれにより日本とシンガポールの絆を強調するというクー監督の手法は、前述のとおりやや通俗的ではあるが、それでも過去と現在を巧みに重ね合わせながら観客の涙腺を刺激するところは、いかにもシンガポールの優等生監督の面目躍如というところであった。シンガポール在住者だけではなく、かつてこの地に滞在して帰国した人々には是非見てもらいたい映画である。

鑑賞日:2018年3月30日