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幻の翼
原作:大坂 剛 
 大坂剛の百舌シリーズ原作小説の第二作のTVドラマ。先日見た第一作「百舌の叫ぶ夜」の続編で、こちらは5つのエピソードからなる。まずは前作同様、原作と比較しながら、物語の展開を簡単に押さえておこう。

 第一話。5年前の失敗した公安の秘密作戦グラークスアルファの潜入員で唯一生き残りながら、その後精神を病み、そして爆弾事件に絡み巻き添えとなった妻千尋の真相を追い続ける倉木。その秘密作戦のターゲットが、旧ソ連グルジブ共和国(グルジアを想定しているのだろう)のテロリスト・グループであったことを知った倉木は、その鍵を握るスパイ(イワン・タイラー)を探し出そうとしている。

 北海道の海上での不審武装工作船と、それに関わるテロリスト・グループ関係者の逮捕。倉木は、そのグループに関わっている女ジャーナリストしずく(蒼井優)と接触し、爆弾事件の真相と見返りに、そのスパイを探すよう依頼している。一方、公安外事課に移籍した美希は、北海道でのソ連―日本のエネルギー共同開発プロジェクト爆破事件を調べている。それは不審船から上陸したテロリストの犯行で、そこに前作で死んだはずの新貝が参加していることを知る。百舌の手法での関連する殺人事件で、大杉も美希や倉木と情報交換している。

 倉木に、空港爆破事件の真相を暴く協力を求める公安部長(佐野史郎)と、彼が掴んだ元公安の裏組織ヘッド東(長谷川博己)の日本帰還。美希の実家への無言電話と彼女の失踪した父親への思い。しずくの手引きで、倉木はグルジブ・テロリストのアジトへの踏み込むが、鍵となる人物には辿りつけない。

 第二話。。新貝復活の理由を推測する倉木、美希、大杉。それは、は崖から突き落とされた新貝兄が、グルジブ不審船に救われ、本国で新たなテロリストに仕立てられたという結論である。一方、しずくは、以前グルジブ取材で同国滞在中に、他の同僚ジャーナリストと共に拘束され、他の同僚が処刑されたにも関わらず、彼女一人が解放されたということが判明している。そこでしずくは新貝に救われ、そして彼女はその後新貝に協力しているのである。

 帰国した東が、倉木と接触し、倉木を挑発する。その倉木に、グラークスアルファ作戦の背後に、与党幹事長の森原が絡んでいるとの情報が寄せられる。それを受け、倉木は森原に、空港爆破事件は森原の陰謀だろうと問い詰めるが、逆に、千尋が生きて帰ってきたのは、彼女が他の仲間を裏切ったからだと告げられる。そして二人が別れた後、森原の車がテロで爆発し、彼は死ぬが、そのテロの実行犯として倉木が指名手配されることになる。同じ頃、美希は、自分を見つめる気配を感じ、その後を追うが、ある駐車場で車に乗った男に父親の面影を見る。車を止めようとした美希は、車に跳ねられ重傷を負う。

 第三話。美希を跳ねた車は、ロシア大使館からの盗難車であった。一方、百舌特有のアイスピックによる殺害方法での連続殺人が続く。しずくを問い詰める大杉。しずくは、新貝と接触するが、大杉の配下に尾行されている。その配下は、新貝としずくの密会現場に乗り込むが、新貝の返り討ちに合う。また倉木は、拉致したグルジブ・テロリストを拷問し、イワン・タイラーの情報を探るが果たせないでいる。倉木は、密告事件の発生した北海道に飛ぶ。そのころ東は新貝と接触し、自分に協力するよう説得している。公安部長の池澤は、メディアで、空港爆発事件の実行犯は新貝であると発表。新貝は再び女装し、新たな殺害を行っている。そして大杉は、逃走中の倉木を突き止め、銃で脅しながら、暴走を止めるよう説得するが、倉木は聞き入れない。

 第四話。妻の死に関りがあるとして、倉木が追いかけるグルジブの謎のスパイ、イワン・タイラー。倉木と接触した新貝は、それがコードネームであることを明かす。他方、大杉は、森原官房長官暗殺の爆弾は、東の配下が仕組んだこと、そして倉木は無実であることを発見するが、池澤公安部長は、それをまともに聞こうとしない。米国から帰国した津城特別監察官に接触した倉木に対し、イワン・タイラーは、コードネームであるが、それを使っている現在のスパイは明かせないと言っている。ロシアのスパイを脅し、現在のイワン・タイラーの使命を聞き出す倉木達。その情報を受け、津城は、幹事長暗殺事件は、池澤が東を使い、公安省設立を促すために実行した陰謀であると睨んでいる。そしてグラークスアルファ作戦も、その計画を進めるために、あらかじめ失敗するよう仕組まれていたとする。それに利用されているのがグルジブのテロリスト達であるという。そして、現在そのコードネームを引継ぎ活動しているのは、美希の父親であることが明らかになる。彼はロシアに寝返った元公安のスパイであり、美希が公安に配属されたのも、彼の動きを掴むための囮であったというのである。それを受け、倉木と美希は、彼らの
基地であるという北海道の孤島に向かう。

 第五話(最終章)。倉木と美希が訪れた冬の北海道の孤島にあったのは座礁した旧ソ連の潜水艦の残骸であったが、それはグラークスアルファ作戦で、倉木の妻千尋が潜入、拘束され、仲間を売ることで解放されたソ連の秘密基地であった。それは、日本とソ連の双方の外交上の思惑で闇に埋もれられていたのである。そしてその潜水艦を最後に海に沈める処理を行っていたのは、美希の失踪した父親であった。そして彼は、倉木に、妻千尋のそこからの解放の真実の目的を伝えた後、そこに参入した美希と共に、倉木に、そこから逃げるように促し、潜水艦と共に海に沈んでいくことになる。美希は父親の真実を知ることはなかった。

 一方、大杉に爆弾事件の陰謀を追求されている池澤公安部長は、プラントのテロ対策のお披露目の帰途、新貝に襲われプラント内で殺され、その新貝も津城特別監察官に射殺される。津城と合意し、池澤の陰謀を暴くことに協力したジャーナリストしおりは、精神錯乱と診断され監禁されることになる。結局、一連の警察の不祥事は、津城の思惑通り闇に葬り去られることになるのである。倉木と大杉が、真実は本当に暴かれるべきなのか、と自問する中で、このSeason 2は終焉するのである。

 この映像版は、原作とは全く異なる話に書き換えられている。原作では、前作の最後で繰り広げられた精神病院での惨劇で、既に池澤公安部長を含む死者が多数発生したが、この事件はメディアでは闇に葬られることになる。それを仕組んだのは、公安庁設置の野望を持つ大物政治家、法務大臣の森原である。そして日本海では北朝鮮のスパイが、密かに日本に潜入している。その男は「シンガイ」と名乗ることになる。そして、前作で生き残った公安部の倉木や美希、刑事部の大杉らは、森原の陰謀を暴露するべく、倉木の手記をメディアで公開するべく奔走する。その過程で、倉木や美希、そして大杉には様々な妨害が入るが、極めつけは、精神病院所管の警察署長により倉木、そしてそれを救出しようとした美希が、強制入院という名目で精神病院に拉致され、倉木がロボロミー手術を施されるということになる。もちろん、主人公の一人である倉木が植物人間になってしまうことはなく、殺された弟(百舌)の仇を打つべく、前作で崖から突き落とされたにも関わらず、北朝鮮のスパイ船に救出され、その国で訓練と顔の整形手術を受け日本に潜入した百舌の兄、新谷(兄)の参入もあり最後は助かり、そして森原は新谷(兄)に刺殺されることになる。

 ということで、公安庁設立という政治的陰謀を巡り振り回される捜査現場、という基本設定は維持されながらも、そもそもSeason 1から設定されている原作にはなかったグラークスアルファ作戦に始まり、その鍵を握る、第4代イワン・タイラーで、ソ連に寝返った美希の父親やピエロ的悪役として登場する元公安の東、あるいはかつて自身も拉致事件に巻き込まれたしおり等、原作には全く登場しない仕掛けや人物が挿入されている。また北海道などの舞台設定も、原作とは異なっている。その意味では、Season 1以上に、このSeason 2は、逢坂の原作とはかけ離れた作品であるので、この映像版については、Season 1以上に、「独立した」映像作品として見る必要があろう。

 それを前提に見ると、相変わらず、倉木と大杉が、ひたすら煙草から手が離せないのが気になるが、彼らと美希の3人は、それぞれ過去や家族関係に問題を抱え、相互に愛憎共存する関係を続けながら、公園の闇を追求していく姿を熱演している。そして映像版で登場するピカレスク東やジャーナリストしおり等も、それぞれ独特の存在感を出している。しおり役の蒼井優は、もともと癖のある女優であるが、東役の長谷川博己は、昨年放映のNHK大河ドラマでの「明智光秀」の、オーソドックスな演技の記憶が残る中では、「こんな演技もできるのか」と、改めてその演技力を見直すことになった。

 全体の筋書きとしては、与党幹事長や公安部長が殺されながら、それが世間的には葬り去られてしまうとか、幹事長爆破の実行犯として指名手配された倉木が、ほとんど邪魔されることなく活動を続けるとか、現実的には不自然な部分も多かったが、それらを無視すれば、絡み合った糸を巧みに再構成していく演出の羽住英一郎(「海猿」シリーズで売れっ子になった演出家であるという)の力量も十分評価される。Season 1と併せて、コロナ禍での巣籠の暇つぶしには格好な映像であった。

 このシリーズの映像版には、別に「劇場版」と、「大杉探偵事務所」という「スピンオフ版」があるが、このTVドラマ版で15作を見て、やや飽きたので、当面は放っておこう。逢坂の小説としては、図書館で見つけた昨年9月出版の「鏡影劇場」という新作を読み続けることにする。

2021年4月13日 記