大杉探偵事務所 砕かれた過去
原作:大坂 剛
逢坂剛原作の百舌シリーズの映像化(別掲)の「スピンオフ」版第二作。第一作と同様、原作の一部を使いながら、原作にはない逸話を中心に展開する作品となっている。第一作は、別掲のとおり、「飯島直子の色気」を前面に出しすぎたため、やや気抜けする作品になっていたが、こちらは、よりサスペンス的な要素を前面に出していることから、期待しないで見始めたが、結構見ごたえのある作品になっている。2015年の作品で、監督は、百舌シリーズや前作と同様、羽住英一郎。
今回の私立探偵大杉(香川照之)への依頼人は、TVでお天気姉さんをやっている小池リサ(早見あかり)。彼女には18年前に死に別れた双子の妹リナがいたが、そのリナが大人になっており、人を襲う映像が何者からか送られてきたことで、リナがまだ生きている可能性があるので捜索して欲しいという依頼である。同時に、リサの両親は、1年前に、廃墟となった大学病院の研究室で、心臓を抉り取られて死んでいたが、その事件の真相も不明なままであるという。大杉は、いつものとおり駐在警察官(伊藤淳史)も助けを得ながら調査を開始するが、その過程で、大杉が警察を辞めるきっかけになった、連続殺人事件の記憶が重ね合わされる。双方の展開が、時空を飛び越えながら挿入されることで、観ている者は、当初はその時間感覚に戸惑うことになるが、それが次第に次第に収れんしていくことで、夫々の経緯と二つの事件の、大杉の中における関係が明らかになるのである。
まず後者の大杉の警察辞任の経緯となった連続殺人事件であるが、これは原作にある新谷宏美の模倣犯が引き起こし、大杉の警察で指導を担当した後輩刑事の三島(桐谷健太)の母と娘も被害者となった事件である。その捜査過程で、大杉は、家族を殺された三島が、超法規的に犯人を殺害しているのではないかと疑い、三島が追い詰めた犯人との格闘の最中、三島を制止し、その結果犯人が三島を殺すことになってしまう。それが、自分の三島に対する信頼を疑ったことが原因と考えた大杉は、警察官を辞任することになったということが語られる。
他方、前者の事件は、リナが幼い頃に発症した満月に反応する狂暴化を救うために両親が、刑事犯を使った人体実験を行っていたが、ある満月の晩にリナが両親を襲い、かみ殺してしまったということになる。しかし、その人体実験に使われたが、唯一実験が成功し立ち直った男(廃墟の「管理人」である彼が、リナの犯行を隠すために、あえて両親の心臓を死後抉ったということになっている)が、リナの信頼を得て、彼女を匿っていることで、リナは救われている、ということになる。そして、信頼を失ったことで後輩刑事の三島を死なせた悔恨から、大杉は、リナを守るという管理人の男の言葉を信頼し、リサに捜査の終わりを告げるのである。
リナの狂気のおどろおどろしい映像や、廃墟となった大学研究室の様子等、いったい何が起こるのか、という緊張感を感じさせる映像はなかなかであるし、また雨の中での三島と模倣犯の闘いに大杉が絡む場面の3人の熱演もたいへんな迫力である。少なくとも、第一作をはるかに凌ぐ作品になっている。大杉の警察官辞任の際に、バーで繰り広げられる短い対話に、西島秀俊演じる倉木を登場させたのはご愛敬(西島は、第一作の真木よう子に比べると、短時間の出演)である。
このシリーズでは、後は「百舌・劇場版」が残っているが、これは、またしばらく時間をおいてから観ることにしよう。
鑑賞日:2021年6月22日