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JSA
監督:パク・チャヌク 
 友人より薦められて、この前に観た韓国映画「友へ チング」が今一つピンと来なかったことから、その友人に確認したところ、実は薦める作品を誤って伝えたこと、そして薦めたかったのは実はこちらの作品であったということで、続けてこちらを観ることになった。確かに、「友へ チング」よりも圧倒的に重厚で、奥深い作品であった。表題のJSAは、「Joint Security Area(共同警備地域)」の略称である。

 2000年に韓国で公開された作品で、監督は、パク・チャヌク。もちろんこの監督も、私は初めて聞く名前。しかし出演俳優は、私が観た映画だけでも「南山の部長」のイ・ビョンホンや「タクシー運転手」のソン・ガンホといったスター俳優を揃えている。また私は観ていないが、主人公の一人の女優イ・ヨンエは、この作品の後にドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」で国民的大スターになったという。ネットによると、「韓国では公開当時、ソウルでの入場者数の記録を塗り替え社会現象となった。第38回大鐘賞で最優秀作品賞を受賞。準主人公を演じたソン・ガンボは最優秀主演男優賞を受賞。2001年には第51回ベルリン国際映画祭のコンペディション部門にノミネートされた。これまでの興行成績を変えた映画として後世に名を残す作品」であるということである。

 1953年に朝鮮戦争がいったん休戦した後も、38度線に位置する板門店では緊張が続いていた。映画は、そこにある北朝鮮側歩哨(ほしょう)所内で、1999年、韓国側による銃撃・殺人事件が発生し、北朝鮮の兵士2名が射殺される。そして中立国停戦監視委員会から派遣された韓国人の父をもつスイス軍女性将校ソフィア少佐(イ・ヨンエ)が捜査のため同地を訪れるところから始まる。しかし、北と南、双方の意見の食い違いに彼女は大いに戸惑うことになるが、次第に真実に近づいていくことになる。この現場で事件に関与し証言を行う北朝鮮人民軍中士オ・ギョウンピルをソン・ガンホ、韓国兵長イ・スヒョクをイ・ビョンホンの二人を中心に話が進んでいくことになる。

 映画は、ソフィーの調査と、事件の場面が交互に描かれていくが、そもそも「共同警備地域」についての理解がないまま映画を観始めた私にとっては、話の展開が理解できないまま進むことになる。一回目を見終わった後に、ネットでこの「共同警備地域」を検索すると以下の通り解説されている。

 「大韓民国(韓国)と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の軍事境界線上にある、約800m四方の地域を指す。この区域には会議場施設などが設けられ、板門店と呼ばれている。この区域は韓国軍やアメリカ軍を中心とした国連軍と、朝鮮人民軍が共同で警備を行っている。1953年7月27日の朝鮮戦争休戦協定により規定された。かつては区域内での南北の兵士往来は自由に認められていたが、1976年のポプラ事件(韓国側が、この地域に植えられていたポプラを伐採しようとしたことを契機に南北の銃撃戦が勃発し、米国商工2名が死亡し、数名の韓国軍兵士が負傷した事件)発生を契機に、区域内でも軍事境界線の厳格化がなされ、南北の人員が分離された。

 この情報により、2回目の鑑賞でようやく話の展開が追えることになる。そこでは「帰らざる橋」と呼ばれる橋の両側に、南北の監視所が設けられているが、その韓国側の兵士であるスヒョクが、警備中に地雷を踏み、それを偶々北朝鮮側の兵士であるギョウンピルが救ったことから、スヒョクは仲間一人を連れて橋を越え、北朝鮮側の監視所で彼との友情を育むことになる。しかし、スヒョクの除隊前最後の挨拶ということで、そこを訪れてる時に、北朝鮮の別の将校が偶々その監視所を訪れて、彼らの交流を知ることになる。ギョウンピルは、「スヒョクは亡命の相談にきた」と説明しながら、事態を収めようとするが、結局銃撃となり、北朝鮮側の将校と監視所の兵士の二人が射殺されることになる。しかし、スヒョクは、その仲間を庇い、自分一人の犯行と主張し、ギョウンピルも、それを追認する。しかしソフィーは調査で、その場に韓国側にもう一人がいたことに気が付き、彼らを追及する。そしてその真実が明らかになった時に、スヒョクも自ら命を絶つのである。こうして、映画は、この「共同警備地域」での南北兵士の友情がもたらした悲劇を描くことになる。そしてこれはおまけであろうが、スイス生まれのソフィーの父親は、元北朝鮮軍の将校で、戦後に第三国に出て、スイス人女性と結婚したという事実も明らかにされることになるのである。

 なるほど、あれほど憎み合っている南北朝鮮の、またその最も緊張した軍事境界線でも、個人のレベルではこうした隠された交流もあったが、それが悲劇に終わるところに、この両国の難しい関係が象徴される、と言ってしまえば簡単である。ただ映画は、それが次第に明らかになっていくサスペンス的な展開で進んでいくことから、確かに分かり難い作品ではあるが、2回目は十分楽しむことができた。

 それにしても、ソン・ガンホとイ・ビョンホンの若いことか。私は、前述の最近の映画で、実質初めて両名の演技を観た訳であるが、約20年前の両名は、それぞれ熱演しているが、ソン・ガンホは凛々しい北朝鮮の兵士、イ・ビョンホンは、日本のお笑いにもいるような軽いチンピラ風の韓国軍兵士といった感じ。「タクシー・ドライバー」の優柔不断なソン・ガンホや、「南山の部長」の秘密警察トップのイ・ビョンホンとは大違いである。そうだとすると、それこそ聡明なスイス軍人であるソフィーを演じた美形のイ・ヨンエの現在はどうなのか、という興味が沸き上がる。「宮廷女官チャングムの誓い」を全編見る気力はないが、一部でもちょっと観ておこうかな、という気になっている。

鑑賞日:2021年11月12日