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ベルリン・ファイル
監督:リュ・スンワン 
 更に韓国映画をもう一本。こちらは、友人の推奨ではなく、レンタル屋で偶々見かけたスパイ物であるが、思った以上に面白かった。2013年の作品で、監督は、私は観たことがないが、アクション物では評価の高いリュ・スンワン。主演は、やはりアクション物で人気のある韓国の二人の俳優が演じているという。

 韓国のスパイものというと、先日「工作 黒金星と呼ばれた男」を観たばかりであるが、それを含め今まで観た北朝鮮関係の作品は、当然ながら朝鮮半島を舞台にしていた。それに対し、この作品は、南北のスパイの闘いを描いているが、舞台はベルリンないしはその近郊と思われる欧州である。登場人物も、韓国人以外に、ドイツ人、アメリカ人、イスラエル人等の白人やアラブ系なども入り混じり、国際色豊かなアクション映画となっている。

 物語は、アラブ組織との武器取引の現場を、韓国側のスパイに嗅ぎつけられ、辛くもその現場を脱した北朝鮮のスパイ、ジョンソン、別名ゴースト(ハ・ジョンウ)が、その取引が何故南に漏れたのかを探るところから始まる。彼の妻で、ベルリン駐在北朝鮮大使リ・ハクス(イ・ギョンヨン)の通訳を務めるジョンヒ(チョン・ジヒョン)に二重スパイ疑惑が持ち上がり、ジョンソンは彼女を尾行、追求するが、実はその裏には、ジョンソンの仲間で、北朝鮮本国からベルリン事務所の監察を行うということで送り込まれてきたトン・ミョンス(リュ・スンボム)の陰謀があった。それはキム・ジョンイルのマカオにある秘密口座を管理しているベルリン事務所を乗っ取り、その口座を確保しようという、ミュンスの父親である将軍の企みである。そしてその濡れ衣を、自分や妻が負っていることに気が付いたジョンソンは、最後は敵方である韓国のスパイ、チョン・ジンス(ハン・ソッキュ)と手を結び、ミョンスに拉致された妻ジョンヒを救出するため、彼が潜む田舎家に向かう。そこで、自分が全て告白し、罪を追うと見せかけたテープを回すが、それは実は、ミュンスがベルリン事務所を乗っ取るため武器取引を南に知らせ妨害したことを明かすものであった。そこに同席したアラブの武器商人は、ミュンスの裏切りを知り、そして三つ巴の最後の闘いが始まることになる。

 以前に「こうしたスパイ物は、日本では制作できない」と書いたが、この作品を観ると、この世界を朝鮮半島から飛び出したベルリンとその近郊を舞台に、ここまで臨場感のある作品に仕上げた韓国の映画製作能力にほとんど脱帽させられる。そうした舞台での撮影、特にアクション・シーンの撮影などは、どれだけ金をかけたのか、と思わざるをないが、ストーリー展開もハリウッド制作の同種の映画以上に面白い。また上記の通り登場人物の国籍も多様で(アラブ・グループ以外に、ロシア人ブローカーやモサド、CIAも登場する)、言葉も、もちろん主要言語は韓国語であるが、英語、ドイツ語等も飛び交うことになる。繰り返しになるが、韓国映画はここまで来ているのか、と驚嘆する。

 それに加え、俳優たちもなかなか魅力的である。この前に観た「母なる証明」が、俳優の演技はともかく、彼らがあまりに普通で印象が弱かったが、この映画では、特に主演のゴースト役のハ・ジョンウや、モデル出身という、彼の妻役のチョン・ジヒョンは記憶に残る。後者が主演しているという他の作品、「猟奇的な彼女」や「暗殺」なども観ようという気にさせられたのであった。

鑑賞日:2021年12月2日