暗殺
監督:チェ・ドンフン
先日観た韓国映画「ベルリン・ファイル」(2013年)、「猟奇的な彼女」(2001年)に、主演、ないしは準主演していた女優チョン・ジヒョン主演の2015年制作の作品。監督はチェ・ドンフン。彼も私は初めて聞く名前である。「猟奇的な彼女」ではやや青臭かったチョン・ジヒョンであるが、こちらは「ベルリン・ファイル」の2年後の作品ということで、30歳代の大人びた彼女を楽しむことが出来る。
映画はやや複雑な構成である。まずは、1911年(ということは日本による韓国植民地化の1年後である)、日本の寺内総督と彼に阿る韓国人実業家(カン・イングク)の暗殺未遂と、その会合情報を反日活動家に漏らしたとしてカンの妻が殺されるところから始まる。二人には双子の娘がおり、実業家は、「妻は殺しても、双子の娘は連れ帰れ」と指示するが、一人は戻されるが、もう一人は行方不明となる。
そして時代は1933年の杭州に跳ぶ。そこには韓国の臨時政府が設けられており、その指導者が、韓国植民地の日本人要人川口とその支援をする親日分子カンを暗殺する計画を進めている。そして女スナイパーのアン・オギュン(チョン・ジヒョン)、速射砲、爆弾専門家の3名を上海に結集させる。しかし臨時政府の警務隊長で、その計画の実務担当であるヨム・ソクチン(イ・ジョンジエ)は、実は日本政府の密偵であり、彼らを招集する一方、仲間と政府を裏切り、巨額の報酬でハワイ・ピストル(ハ・ジョンウ)と呼ばれる殺し屋に暗殺団3名の殺害を依頼する。ヨムの画策を知らぬまま、暗殺実行のため、アンたちは、上海から京城(現・ソウル)へと送り込まれることになる。
暗殺は、まずは、川口とカン・イングクが工場視察を行う道中のガソリンスタンドで決行されるが、それは失敗。そこではまたハワイ・ピストルの一団が、アンらを殺すために動いていたが、アンとハワイ・ピストルは、逆にそこで、夫々がヨムに動かされていたことに気が付き、ハワイ・ピストルは、アンを助ける側に回ることになる。そして次は、1911年に連れ戻されたカンの娘(満子)と、川口の息子の、三越デパートで行われる結婚式会場で実行されることになるが、映画ではここで大きなトリックが仕込まれることになる。結婚式の前に、アンと満子が偶然対面することになるのであるが、チョン・ジヒョンが、その双子の双方を演じているのである。そして、かつて行方不明となったもう一人の娘が暗殺を企てているという情報を得たカンは、彼女を殺す指示を出すが、実行部隊は、双子が対面している部屋で誤って満子を射殺する。生き残ったアンは、満子を装って結婚式に出席し、そこで暗殺計画を実行するのである。
こうして結婚式では、アンのグループとハワイ・ピストルの一団が連携し、結婚式を警備している日本憲兵隊との銃撃戦を繰り広げることになるのである。カンや川口の息子、そしてヨムの手でハワイ・ピストル達ら、ほとんどの関係者がそこで命を落とすことになるが、アンは、人質となった満子を装い解放、他方裏切り者ヨムも傷つきながら生き延びることになる。
映画の最後、場面は、1948年の韓国に跳ぶ。そこで行われている法廷で、ヨムが、日本の植民地時代に、親日分子として国を裏切った疑惑で追及されている。彼は、身体の至るところに残っている傷口を見せながら、自分が如何に日本軍と勇敢に戦ってきたかを主張し、最後に無罪判決を勝ち取っている。しかし、解放されたヨムは、待ち構えていたアンともう一人の男、かつてヨムに殺されかけたミョンウに、裏切り者として射殺されることになるのである。
日本植民地下での朝鮮を主たる舞台に、中国杭州や上海での場面も織り込みながら、約40年の歳月を描く壮大なドラマは、やはり日本映画ではほとんど記憶がない。韓国映画のレベルの高さを改めて痛感させる圧倒的な作品である。言語も、韓国語に加え、中国語、日本語が飛び交い(日本人の日本語に訛りが残っているのは、韓国人俳優が演じているからで止むを得ないだろう・・)、東アジアの国際色も豊かである。そして何よりも、二役を演じる30歳代のチョン・ジヒョンがやはりたいへん魅力的である。様々な勢力が入り混じり展開している映画であることから、細部は一回観た限りでは、多くの疑問点が残っていたが、二回目を観たところで、アンとハワイ・ピストルの関係が変化したことなどが理解できた。改めて、この映画の深みを堪能することが出来たのであった。
鑑賞日:2021年12月20日