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アジア映画
オールドボーイ
監督:パク・チャヌク 
 奇怪な作品である。韓国物諜報映画は、先日観た「二重スパイ」で当面お休み、と考えていたが、年末の暇潰しを探しに行ったレンタル店で、友人が進めていた韓国映画があったので、借りてしまった。諜報物とは異なる作品であるが、2003年の制作で、監督・脚本は「JSA」のパク・チャヌク。主演は「シュリ」のチェ・ミンスクで、彼はその作品で主演男優賞を受賞したということであるが、そこでの彼の演技は、正直全く記憶に残っていない。また原作は日本の漫画「ルーズ戦記 オールドボーイ」ということであるが、当然ながら私はその原作とは縁がない。

 サラリーマンのオ・デス(チェ・ミンスク)は、ある晩酔っぱらって警察に拘束されるが、友人のジュファンが迎えに来て解放される。その日は一人娘の誕生日で、雨の降りしきる中、街の公衆電話から娘に「プレゼントを持って帰る」と電話し、ジュファンと電話を替わるが、彼が再び電話を替わろうとした時に、オ・デスは、プレセントの天使の羽を残して失踪する。そしてオ・デスは、ある部屋に監禁されることになる。自分は何故こんなところにいるのか、ここはどこだと騒ぎ立てるが、その叫びは虚しく響く。部屋での外界との繋がりはテレビだけで、そのニュースで、彼は妻を殺害した犯人として指名手配されていることを知るのである。結局彼は15年の歳月をそこで過ごす。そしてある日突然解放される。それから彼は、自分を拘束した者がだれかを突き止め、その者へ復讐することだけを考え生きることになる。正体不明の男から多額の現金と携帯が渡され、その携帯には、これを拉致した張本人と思われる男から時々連絡が入っている。またその金で入った日本料理屋の寿司職人の若い女ミドと出会い、彼女と共に犯人探しを進めることになる。

 これはイントロから30分程度の展開であるが、その後1時間半は、彼の復讐劇の顛末が繰り広げられるが、それはヴァイオレンスに満ちたアクションや、ミドとの激しいベッド・シーン等が挿入されながら展開する。その間に、オ・デスが拘束された理由は、かつて彼が高校生時代に、学友の近親相姦の噂を広め、それを苦に自殺した女学生の弟による復讐で、そのオ・デス自身も実は娘であるミドと同じ関係となっていたことが明らかになるのである。彼の饒舌が全ての原因であったことを知ったオ・デスは自分の舌を切り落とす。そして全ての復讐が終わった時、オ・デスとミドは、雪の森の中で抱き合いながら涙することになる。

 原作の漫画がそうであるのだろうが、正直個人的には、ほとんどついていけない作品であった。そもそも理由なく15年、部屋に拘束されるというところから全く現実感を持つことが出来ない。そしてその首謀者と彼の動機を探し当てる過程も、もちろん様々な伏線やトリックが入っているのであるが、なるほど、と思える展開には思えない。そして個々の映像も、例えば、オ・デスが、解放後に入った日本料理屋で、ミドから出された生きたイカをそのまま食べたり、切り落とした拘束仲介者の手首が箱に入れられ送りつけられるところなど、気味が悪いものが結句多い。バイオレンスのシーンは、これまで多く韓国諜報物でも接してきたが、それらの映画ではある程度の必然性があったが、ここではただスパイス的にそうした喧嘩が繰り広げられているという印象である。そして何よりも、展開の核心である二つの近親相姦自体が、あまり説得力がない。そんなこともあり、日本産の原作漫画を読む気には全くならない。

 この作品は、クエンティン・タランティーノ監督が審査委員長を務めた2004年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞したということであるが、この映画のどこが良いのか全く理解できないのは、私の感性がこの時点で既に世の中のトレンドからは大きく乖離していることを示しているのだろうか、という想いを強くすることになったのであった。

鑑賞日:2021年12月30日