インファナル・アフェア
監督:アンドリュー・ラウ / アラン・マック
A.ワイダ監督作品のレンタル素材が無くなったこともあり、先日読了した香港関係の新書で紹介されていた香港映画を少し漁ってみることにした。第一弾は、レンタク・ショップでシリーズ三作が揃っていた、香港警察物の「インファナル・アフェア」の第一作。
その香港本の紹介によると、このシリーズ三作は、2002年から2003年にかけて公開された「潜入捜査官」物で、「警察内部の権力争い、黒社会の内部抗争などをクールに描いて『香港ノアール(ノアールは、フランス語で「黒」や「暗黒」を意味する)』の称号を与えられた」人気シリーズになったという。因みに、題名である「インファナル・アフェア(Infernal Affair)」は、直訳すると「地獄の事件」ということになる。香港本では、1996年の中国返還以降の香港の変化が主題であることから、この映画については特に第二作で、この年の6月30日深夜の返還時刻に、ラジオ放送で、「香港は中華人民共和国香港特別行政区になります」というアナウンスが流され、警官たちが制帽のバッジを取り換えるシーンが挿入されている、という文脈で紹介されている。ただこの第一作では、そうした香港返還に関わる政治的背景は一切なく、映画では単純な香港警察と闇社会の闘いが描かれることになる。しかし、そうした政治的背景はなくとも、結構入り組んだ展開を楽しむことが出来る作品になっている。監督は、アンドリュー・ラウ(主演のアンディ・ラウとは別人なのだろう)とアラン・マックという、私は初めて聞く名前である。
1991年、ストリート育ちで香港マフィアに入ったラウ(アンディ・ラウ)はボスのサム(エリック・ツァン)に目を付けられ、警察学校に送り込まれ、潜入員として動くことを指示される。他方で、警察学校で優秀さを認められたヤン(トニー・レオン)は、上司のウォン警視(アンソニー・ウォン)からマフィア組織への潜入を命じられ、警察学校を退学させられている。そして、サムの麻薬取引が、警察の手入れを受けることになるが、それぞれの潜入者の情報が錯綜する中、麻薬取引も、警察によるそれの摘発も失敗することになったことから、夫々のボスは「もぐら」の存在に気づき、ラウとヤンの夫々に、その「もぐら」を見つけ処分する命令を発するのである。そして再び同様の麻薬取引が行われた際に、夫々の「もぐら」は明るみに出るが、彼らは、そうした中で生き残りをかけた二転三転の戦いを繰り広げていくことになるのである。
確かに最後は手に汗握る展開で、引き込まれる。そこでは正義感と自己保身のための裏切りが、巧みに交錯する展開になっている。そして最後に生き残ったのは、自己保身のための裏切りを貫いた男だった(ただ、ネットの解説によると、返還後の中国の法制により、エンディングがそれとは異なる版があるという)。
主人公二人を演じているアンディ・ラウとトニー・レオンというのは、どこかで名前を聞いたことがある(アンディは、シンガポールでの商品広告で見た記憶がある)が、誰もが認める二枚目俳優である。そして彼らに絡む美女たち(ケリー・チャン、サミー・チェンやエルヴァ・シャオといった女優達)も、エロチックな場面はないが、映画にそれなりの色香を与えている。香港本で取り上げられるような政治的な文脈で見るには無理がある「娯楽映画」であるが、まあこの際残りの2作も観ておこうと思う。
鑑賞日:2022年1月16日