インファナル・アフェアU―無間序曲
監督:アンドリュー・ラウ / アラン・マック
先日、第一作を見たばかりの香港警察物「インファナル・アフェア」の第二作で2004年の公開作品。香港本で、1997年6月30日深夜の返還時刻に、ラジオ放送で、「香港は中華人民共和国香港特別行政区になります」というアナウンスが流され、警官たちが制帽のバッジを取り換えるシーンが挿入されている、という文脈で紹介されていた作品である。監督は、第一作と同様、アンドリュー・ラウとアラン・マック。
1991年。いきなり、第一作で死んだ、ウォン警部(アンソニー・ウォン)とマフィアのサム(エリック・ツァン)が登場する。ウォンを警察署に呼びつけたサムに、「何故お前は、ボスであるクアンに忠実なのか?お前がボスになってくれれば捜査がやり易いのに」と話している。何だこれは、と思いながら観終わった後に、ネットを見たら、実はこれは第一作の「前日譚」であったということ。なるほど、そういうことだったのか、と思いながらもう一度見直すことになった。
続いて、そのマフィアの親玉クアンが何者かに射殺され、息子のハウ(フランシス・ン)が組織を引継いでいる。またサムの手下である若いヤクザ、ラウ(エディソン・チャン)が、サムの愛人マリーから警察に潜入することを打診され承諾。そして警官として街のチンピラを逮捕している。そのラウに対し、警察学校のパーティーで、教員を10年務めている指導警官が、「返還まで6年もあるけれど、中国人が警察署長になった。」「1997年以降は、お前たちの時代だ。それまでに警察学校で優秀な人材を育てることにする」と話している。なるほど、こちらは、「香港の中国返還」をより意識した作りになっているようである。
ハウは、父親クアンの死により、上納金の支払いを止めようとする末端ヤクザたちを抑え込んでいる。他方、ヤン(ショーン・ユー)は、警察学校では優等生であったが、ハウの異母兄弟であることが分かり、警察学校を退学させられる。しかし、警察官として「善人」として生きることを決めている彼は、ウォン警部により、「潜入捜査官」としてハウのもとに送り込まれることになり、偽装のため逮捕収監され、監獄内でも傷害事件を起こしたりしている。またサムは、クアンの手下のヤクザであり、クアンの死後、組織の中でのし上がることもこともできたが、取り合えずハウに忠実な姿勢を示し、愛人マリー(カリーナ・ラウ)と過ごしている。警察から送り込まれたヤンも、このメリーを慕い、何があっても自分が守ると語っている。
返還も近づいてきた1995年、豪華な住居に住むハウは、仲間たちと返還前に移住することを明らかにすると共に、密かにサムに彼の地盤を引き継ぐことを打診、そのためのタイの密輸業者を使った大きな麻薬取引をまとめるよう指示を出す。同時にハウは、異母兄弟であるヤンに対する信頼を次げている。マリーは、ハウが、サムを含めた小ボスを始末すると懸念しており、サムその取引を止めるよう説得するが、サムは聞かずタイに出発する。そしてハウは、小ボスたちを殺すが、サムは、タイで殺されかけるが、何とかその危機逃れることになる。その間、ハウを拘束したウォン警部らは、警察署で、彼から、ウォン警部がクアン殺害をマリーに依頼したことを示すビデオを示し、むしろ逮捕されるのはウォン警部であると告げる。当然マリーにも魔手が迫るが、彼女はハウの尋問を盗聴していたラウに救われることになる。、マリーは、実はサムをボスにしたいと考え、ウォン警部の依頼でクオンを殺したのである。しかし、サムと再会するため、タイに行くために訪れた空港で、マリーは殺されることになる。またウォンの警察での親友であったルク警視も、ウォンの身代わりとなって、車の爆発で殺害されている。
時は1997年、香港返還も近づいている。警察内では、ウォンによるクアン殺害教唆が問題となるが、結局上層部の意向で、ウォンは改めてハウと戦うことを指示される。ウォンは、タイに潜伏しているサムとも会い、改めてハウ排除を心に決める。そして、返還後の議会議員として表社会に出る準備をしているハウを、ウォンは、1995年の複数の殺人事件(小ボスや父親の殺害関係者)の容疑者として逮捕する。その殺人事件の証人として、ウォンはサムをタイから香港に連れ戻し、護衛をつけて守っている。サムにより警察に送り込まれたラウは、サムに対し「警察で順調に昇進している」と告げている。
そして大団円。サムが監視を抜け出し、ハウと会う。ハウは、サムのタイ人家族を拘束していると告げるが、サムは逆にハウのハワイにいる家族を拘束しているという。逆上したハウがサムに銃を突きつけた時に、ウォンに率いられた警官隊が到着。ハウは、射殺されることになる。サムは、ハワイの家族も抹殺する。サムは、最後に、ハウを罠にかけた、ということになる。
1997年7月1日、香港が中国に返還され、警官がバッジを付け直す場面については、冒頭に記したとおり、先日読んだ香港本でも言及されている。返還式典の実写フィルムを見ながら、ウォン、サム、ラウ、ヤンは、夫々の感慨に浸っているところで、映画は終わる。そしてウォンと、香港黒社会を牛耳ることになったサムは、前作での闘いを繰り広げることになるのである。
時間を逆行させることで、前作に向けての展開を補強させるというのは、余り連作映画では例がないように思える。その点では、私がそうであったように、それを知らずに前作から続けてこれを観る者は、一瞬混乱する。ただ、それが分かってしまえば、この警察とヤクザ双方による潜入員工作というトリックの前段階の面白さを味わうことが出来る。ただその潜入工作員ラウとヤンを演じているのは、エディソン・チャンとショーン・ユーという若手俳優であり、前作でも夫々アンディ・ラウとトニー・レオンが演じる二人の若い時代ということで少し登場しているが、両名が同じような雰囲気の俳優であることから、どっちがどっちなのか、少し混乱してしまう。もう少し違ったタイプの俳優を使っていたら、それはさけられたのではないか、という気がする。
いずれにしろ、この作品の主人公は、ウォン警部とサムの二人である。ウォンは警察内で殺人教唆で、またサムはハウに殺されかけるということで、夫々修羅場をかいくぐり生き延びたということになり、第一作に繋がることになる。ただサムがタイで撃たれるが生き残った点、そしてその下手人のタイ人ヤクザが、その後彼の親友となり、ハウ一家のハワイでの拘束・殺害を実行することになる経緯は、やや不透明で、現時点では理解できていない。そうした突っ込みどころはあるが、事件の展開は緊張感があり、第一作と同様、それなりに楽しめる作品であった。
鑑賞日:2022年1月25日